15歳が撮影した「津波動画」YouTubeで1400万回再生。いま公開した思いとは【2022年上半期回顧】

    宮城県気仙沼市の鶴ヶ浦漁港で2011年3月11日に撮られた動画は、一瞬にして町を飲み込んだ津波の一部始終を捉えている。東日本大震災から11年。撮影した男性が伝えようとした教訓とは。【2022年上半期回顧】

    2022年上半期にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:3月10日)


    東日本大震災から11年。当時15歳だった男性が撮影した津波の動画が、YouTubeで1200万回再生(*現在は1400万回)を超え、注目されている。

    震災からの時の流れで「風化」を感じ、教訓を伝えようと、公開に至ったという。その思いを聞いた。

    「先ほど強い地震がおき、津波が来るという警報が出ました」「水が急に引いていきます」

    2011年3月11日。そうした言葉とともに撮影が始まった動画は、たった数分で町全体を飲み込む津波の様子を記録していた。

    高台に走って避難をしながらカメラを回し続けていた男性は、思わず言葉を失う。「家が壊れてしまいました。屋根の上まで来ています」。その後、波が引いてから現れたのは、変わり果てた町の姿だったーー。

    「なんでこんなになっているんだと、目の前で起きていることを信じられなくて。破壊の限りを尽くして、全部を飲み込んでしまうなんて、自然の力はとんでもないなと……」

    そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、宮城県気仙沼市の鶴ヶ浦漁港で動画を撮影した畠山亮さん(26)。いまは市内でダーツバー「American Darts Bar A.」を営んでいる。

    震災当時、翌日に中学校の卒業式を控えていた畠山さんは、海から歩いて1分ほどの自宅にいた。漁師だった祖父の船や仕事道具が津波で流されないように手伝いながら、持ち歩いていた「iPod touch」で撮影を始めたという。

    「その前の年にはチリ地震津波を経験していました。海外の地震であれほどの波が来るなら、今回の津波は絶対に大きいと思っていたんです。ましてや大津波警報が出ているんだから、記録に残さないといけないと。でも、ここまで大きなものが来るとは……。正直、自然のことを舐めていました」

    漁師の祖父は、津波に襲われたときはすぐ逃げるようにと畠山さんに教え続けてきた。その教え通り、すぐに階段を駆け登って高台に避難することができた。

    しかし、安心できたのも束の間だった。気仙沼市ではその夜、流出した燃油タンクから漏れ出した重油による火災が発生。海が、炎に包まれたのだ。

    山の手にも火が上がり、炎に挟まれた畠山さんは「ここで死んでしまうのか」と恐怖を感じた。もはや動画を撮影できるような状況ではなくなっていたという。

    背中を押した遺族の言葉

    坂の上にあった自宅は幸いにして被害を免れたが、倉庫は流され、祖父の船も火災で沈没。思い出が詰まった町並みも、震災前の日常も奪われた。

    知人を亡くし、その死をずっと引きずっていたとも語る。記憶が蘇るのが嫌で、撮影した動画は「見ようとも思わなかった」。使わなくなったiPodごと、部屋に放置していたという。

    動画の公開を決めたのは、震災から10年が経った昨年11月のこと。きっかけは、取引先の男性としていた何気ない会話だった。

    津波の動画を撮っていたという話をすると、「後世の教訓になるから」という言葉をかけられたのだ。男性は、父親を津波で亡くしていた。

    「誰かを傷つけるのではないか。不謹慎ではないか。そんな葛藤もありました。一方で、震災から10年が経って津波が『あったこと』になりかけているという風化を感じていて、(男性の)言葉に背中を押されたんです」

    YouTubeのアカウントを持っていた男性の知人を頼り公開すると、再生回数は1万、10万と再生回数が伸び、たった3ヶ月半で1270万回を超えた。多くのコメントが、日本語、そして英語などで寄せられた。

    「津波が町を襲ってから、波が引くまで、一部始終を映した動画は貴重だったのかもしれません。公開してよかったと思えました。世界中、どこでも災害はある。見てもらうことに意味があるんだって」

    自分は「教訓」に命を救われたのだから、これからは経験者として「教訓」を伝えていきたい。そう感じている。

    「自分はこの津波を間近で見ていた経験者で、その恐ろしさを知っている。もしそれがこれから生まれてくる子どもたちや、まだ津波を経験していない人、誰かの命を守ることにつながれば」

    動画を見た人には、どのようなメッセージを伝えたいのか。そう聞くと、畠山さんは言葉に力をこめ、こう語った。

    「地震や津波は、本当にいつくるかわかりません。そうなったときのため、まずは避難する場所を知っていてほしい。そして何より、すぐ逃げるようにしてほしい。自然の力は、とんでもないんです。何かあってからでは遅い。とにかく、逃げてください」