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子どもの喘息、秋に多いのはなぜですか?

秋は喘息発作が多くなる季節です。

秋が深まってくると、夜間救急外来に受診される喘息発作のお子さんや、「いつも季節の変わり目に悪化します」「また悪くなりました」「なかなか治りません」という患者さんの受診が増えてきます。

そもそも喘息はなぜ起こるのでしょうか?

なぜ秋に喘息発作が多いのでしょうか?

治りにくい喘息の治療をどのように対応していけば良いのでしょうか?

そこで今回は、喘息はなぜ起こるのか、秋に発作が多い理由、そしてその治療に関して考えてみましょう。

喘息ってどんな病気?

皆さんは喘息に関して、気管支が締まってぜいぜい、ひゅーひゅーと苦しくなる病気と思い浮かべておられるのではないでしょうか?

喘息はそもそも、「気管支の慢性の炎症」が大元にあります。

「慢性の炎症」とは、「治りにくくなった湿疹」を考えて頂ければ分かりやすいでしょう。気管支に慢性の炎症があってなんらかの刺激を受けると、気管支の周囲に巻き付いている筋肉(平滑筋といいます)がぎゅーっと締まります。

これが「気管支喘息の発作」です。喘息と言えばこの「発作」を思い浮かべる方が多いでしょうけれど、むしろ本当の姿は、「気管支の湿疹」なのだと考えていただきたいと思います。

私は外来で、気管支喘息の病態と治療イメージを虫歯と歯磨きに例えることがあります。

虫歯になりやすいひとがいたとしましょう。そして、歯磨きを頑張っていても、虫歯になってとても痛いときがあるとします。

毎日の歯磨きにあたるのが毎日の喘息予防薬です(コントローラーといいます)。

そして、痛み止めにあたるのが気管支をひろげる緊急薬です(レリーバーと言います)。

虫歯にとてもなりやすいひとが虫歯になって、痛み止めを毎日つかいながら虫歯があまり痛くないとき。痛くないから虫歯の治療も歯磨きもいらないと考えている方がいたら、皆さんはどうするでしょうか?

「もっと虫歯が悪くなるから、ちゃんと治療をして歯磨きもちゃんとしたほうがいいよ」と、声をかけたくなりませんか? 医師が、「普段の治療をしっかりしようね」と声をかけるのは同じ気持ちなのです。

喘息発作も、繰り返していくと気道の炎症はさらにひどくなり、気管支は硬く厚くなっていきます。アトピー性皮膚炎がひどくなって長く続くと皮膚が硬く厚くなってしまう、そんなイメージです。

このことを医学的には『リモデリング』といいます。

皮膚が硬く厚くなってしまったアトピー性皮膚炎の治療が難しいように、リモデリングを起こした気管支はとても治しにくくなります。

そして、「リモデリング」は比較的簡単に進んでくることがわかっています。例えば、喘息発作を起こす薬剤でわざと発作を3回起こさせ、気管支の粘膜を採取して顕微鏡で観察すると、すでに気管支の粘膜はリモデリングの徴候をおこしてきていることがわかっています。

すなわち、喘息発作はそれ自体が次の喘息発作を起こし易くするのです。

ぜいぜい、ひゅーひゅーが良くあるけど、苦しそうじゃなければ大丈夫?

「ぜいぜい、ひゅーひゅーはしょっちゅうあるけど、あんまり苦しそうじゃないから大丈夫ですよね?」と、保護者さんに言われることがあります。

発作の繰り返しは、気管支を硬く厚くしてしまうリモデリングのきっかけになるだけでなく、喘息発作の苦しさを感じにくくなってリスクが高くなることがわかっています。

例えば、窓のないジャンボジェット機を思い浮かべてみましょう。そのジャンボジェット機の高度が下がってくると危険であるという警報がなります。

しかし、その警報がしょっちゅう鳴っていると、その警報システムが作動しなくなってくる、そんなイメージを思い浮かべてみて下さい。知らないうちに高度が下がってきたジャンボジェット機が、なにかの弾みで高度がぐっと下がったらどうなるでしょうか。大事故になってしまいますよね。

そういう危険に関しては、喘息の大元に慢性の炎症があることが、まだ十分わかっていなかった時代に気管支拡張薬に頼りすぎて気管支の炎症がすすみ、亡くなる方が多かったという事実が証明しています。

気管支喘息の大元が気管支の慢性炎症であるとわかってきた1990年代以降、気管支の慢性炎症を積極的に改善させていくという戦略は一般的な考え方になりました。

そして、吸入ステロイド薬などの炎症を抑える薬剤の発達と普及により、成人でも子どもでも亡くなる方はおおきく減ってきて、現在では喘息により亡くなるお子さんは年間一桁にまでなったのです(成人では大きく減ったとは言え、未だに年間1000人以上の方が喘息で亡くなっています)。

気道の炎症を確認する方法はあるでしょうか?

気管支の炎症は直接眼で確認することができません。ですが、気管支の炎症を評価する指標が乏しいことが問題となります。そこで、最近保険適応となった「呼気一酸化窒素」が注目されています。呼気一酸化窒素は、気管支の慢性炎症が強くなると上がることがわかっています。そして、呼気一酸化窒素は診断にも有用であることが示されています。

呼気一酸化窒素が 25ppbを超えてくると、その後18ヶ月間の喘息発作のリスクが3.4倍高いという報告があり、呼気一酸化窒素で吸入ステロイド薬を調整すると喘息悪化が0.58倍になるという報告があります。

呼気一酸化窒素はまだ新しい検査なので一部の医療機関にしかまだ普及していませんし、測定にすこしコツが必要ですので概ね小学生以上のお子さん向けの検査になります。もちろん、呼気一酸化窒素のみで全てわかるわけではないのですが、可能であれば病院で相談してみてください。

さて、こういった理由により、喘息の薬物治療は普段は気管支の慢性炎症を減らす薬剤(コントローラー)を使いながら、発作のときには気管支を広げる(平滑筋をゆるめる)薬剤(レリーバー)を使うという、ふたつの視点が必要になります。

具体的な治療や注意点に関しては、またの機会に詳しく説明したいと思っています。

なぜ秋に喘息発作が多いのかを考えてみましょう

患者さんからは良く、「気圧の変化」や「台風の接近」をあげられることが多いです。実際に臨床上も、台風が近づいてくるときに喘息発作が多いなと感じることがあります。では、本当に「気圧の変化」によるものなのでしょうか?

こういった気候に関連した喘息発作は、海外では「Thunderstorm associated asthma(雷雨喘息)」などという名称で呼ばれます。最近の報告では、気圧の変化そのものというより、気温の低下や花粉が舞い上がるためではないかと考えられています。そして実際に、花粉が喘息を悪化させ得ることも報告されています。

ただよく考えてみると、いつも台風が近づいてきているわけではないですよね。

実は、子どもにおける喘息の悪化要因のうち80%以上がウイルス感染、すなわち「風邪」と関連していて、さらにライノウイルスというウイルスによる発作が、こどもの喘息発作の3分の2を占めていることがわかっています。

この、「ライノウイルス」という名前はあまり聞いたことがないのではないでしょうか?「ライノ(rhino)」とは、ギリシャ語で「鼻(rhin)」に由来します。つまり、ライノウイルスというのは「鼻風邪ウイルス」ということです。

世の中にある風邪のウイルスは250種類以上いて、そのうち、ライノウイルスは100種類以上を占めています。実はとてもポピュラーなウイルスということになります。

インフルエンザが冬に流行するようにウイルスの流行期には季節性があります。そして、ライノウイルスの流行は秋にピークを迎えます。秋に集団保育の現場にいくと、多くのお子さんが鼻風邪になっているのではないでしょうか。

その多くがライノウイルスによるものなのです。そして、ライノウイルスは、普通は「鼻風邪ウイルス」として、軽い症状で済むことがほとんどです。

しかし、気管支に慢性の炎症があると、普通は鼻風邪ですむライノウイルスが強敵に変貌します。特にダニにアレルギーを持っている(感作[かんさ]といいます)状態だと、ライノウイルスの感染は気管支の炎症が一気に進め、発作を起こしやすくします。

すなわち、気管支の慢性の炎症±ダニの感作+秋に流行するライノウイルス感染→喘息発作の流れで、秋に発作が増えるということになるのです。

さらに悪いことに、ライノウイルスに感染すると、ダニに対する感作はさらにすすみ、発作がさらに起こりやすくなるという悪いスパイラルに陥ることが報告されています。

そのうえ、ダニへの感作は、喘息を治りにくくすることもわかっています。

例えば、ライノウイルスで起こった喘息発作は感作があるとさらに長引くことが報告されています。

そして長期的にも、米国の小児217人に関する検討が報告されています。

1歳までにダニに感作されてライノウイルスで喘息が悪化するお子さんの65%が13歳で喘息だったのに対し、1歳で感作されておらず5歳で感作されていたお子さんは13歳で40%が喘息であり、5歳でも感作されていないお子さんは13歳時点では17%しか喘息ではなかったそうです。すなわち、はやく感作されるほど、喘息が治りにくくなると予想できます。

環境整備(ダニを減らすなど)や免疫療法は有効でしょうか?

そう考えていくと、ダニへの感作がある場合に、もしくは事前にダニを減らすと喘息も改善するのではないかという考えもでてくるでしょう。

ただ、多くの研究をあつめて検討する研究(システマティックレビューといいます)では、複数の方法を組み合わせた方法でがんばらないと効果が出にくいとされています。

そして、最近行われた3~17歳の喘息286人に対して行われた検討では、ダニを通さないベッドカバーを使用してダニアレルゲンの量を80%以上低下させると喘息発作が大きく減り、救急病院の受診リスクが45%少なくなったと報告しています。

このような報告をひとつひとつ確認してみると、たとえばダニに汚染されている程度が高い場合には、汚染している相手(この場合はダニ)を大きく減らすと喘息を改善させる可能性も高くなるようです。

もともとダニが少ない環境ではダニを減らす環境整備をしても有効性が低くなるといえるでしょう。現実的には、ダニの汚染度を調べることは難しいので、経過を見ながら個別にお話していくことになるでしょう。

こういった、環境整備をしてアレルゲンを減らすという方法に加え、最近、ダニアレルギーを積極的に改善させようという方法も試みられています。それが「舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)」です。

この治療は以前、「二重抗原曝露仮説」でお話ししたように、口から入ってきた蛋白質は、体が受け入れる方に働いてアレルギーを改善させるという「経口免疫寛容(けいこうめんえきかんよう)」を応用しています。

本邦の方法では、ダニの成分の入ったタブレットを、舌の下に1分間おいて飲み下すという治療を毎日くりかえします。海外での成人834人に対する報告で、舌下免疫療法は喘息発作のリスクが3割程度少なくすることが報告されています。

今回はダニに着目しましたが、環境に関してはもちろん、受動喫煙も大きな悪化要因です。

受動喫煙は、こどもの喘息による救急受診や緊急受診リスクを1.66倍にし、喘鳴症状も1.32倍にすると報告されています (図)。

このように、環境の面からの治療へのアプローチも重要だろうと、私は考えています。

最後に

さて、秋に発作が多い理由、そして喘息の大元にある気管支の慢性炎症に関してお話ししてきました。

今回私が申し上げたかったことは、二点です。

ひとつめが、喘息発作そのものが喘息を悪化させるということです。喘息発作の回数をより減らすことができるように、治療に向かっていただきたいなと思っています。

ふたつめが、小児科医もまた、保護者さんと同様に薬をたくさん使ってほしいと思っているわけではなくより少ない定期薬で喘息を安定できるようにと考えています。そのために適切な環境整備も相談していただければと思っています。

是非信頼できる医師と相談しながらよりよい喘息の改善へ向かい、今年発作が多かったお子さんは来年には発作が少なく、今年発作が少なくなったお子さんは来年には定期薬が減っていることを願っています。すこしずつ、頑張って下さい。

【堀向健太(ほりむかい・けんた)】東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教

1998年、鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。

日本小児科学会専門医。日本アレルギー学会専門医・指導医。

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。

2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し出典の明らかな医学情報の発信を続けている。