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結婚式の3度の延期。それでも夫婦が人生でもう一度、式を挙げたい理由。

「夢物語感を今も持っているんです」

1000人を招いて結婚式を挙げたい...。

そう願う夫婦だが、新型コロナウイルス感染症の流行によって、やむなく延期を繰り返してきた。2021年10月に3度目の決断をしたばかりだ。

なぜ式を小規模にせず、希望通りのかたちにこだわるのか。コロナの収束と、想定される2023年の本番を見据え、決意を新たにしている2人に話を聞いた。

「次は、ガチな結婚式を挙げたいと式のプロデューサーに伝えたんです」

2人は、兼子メイさんと妻のるんさん。沖縄県に暮らしている。

婚約中だった2019年6月、東京都内で式を挙げているが、当時、2人とも「女性」だった。

夫のメイさんは、トランスジェンダーのFtM(生まれた性別は女性で、性自認は男性)だ。

2020年2月、自分の望んだ性別に変えるためにタイで性別適合手術を受け、子宮と卵巣を摘出。戸籍を女性から男性に変えた。

日本ではまだ、同性同士の結婚は法的に認められていない。だが、メイさんは戸籍の性別を変更したため、結婚できる。

その年の9月1日、妻のるんさんと婚姻届を提出して受理された。

「本当にるんちゃんを妻と呼んで良いんですかって夢物語感を今も持っているんです」とメイさんははにかむ。

パートナーもびっくりするアイデア

結婚前に式を挙げたのは、LGBTQ+のカップルの挙式を無料で実施する取り組みを知ったからだ。LGBTQ+カップルのため、祝福の機会を積極的に提供している「CRAZY WEDDING(クレイジーウェディング)」によるものだった。

2人は応募すると、十数人を招いて式を挙げた。そして、気持ちを強くした。

「パートナー同士」ではなく、「夫婦」として結婚式を挙げたい...。

企画したのは、新型コロナウイルスが中国で確認される前だった。催すからには、できるだけ多くの人を招きたいと考え、参列者1000人という破格の規模の式に決めた。

メイさんの構想を初めから賛成していたのか。るんさんに尋ねた。

「それが全然で。結婚式は家族など身近な人だけで良いんじゃないって思っていて。真逆の考えでした」

「ただ、メイは一貫して『自分たちの生き方を式を通して伝えたい』と言っていたんです。その思いには共感していたので、最終的に賛成しました」

その答えを聞いたメイさんは「突っ走りました」と笑う。

決行も考えたが、友人らの反応は...。

家族や知人だけでなく、初対面になる全く知らない人でも参列できるようにと考えた。そして、場所は沖縄県名護市の21世紀の森公園に決めた。

ところが、新型コロナが突如現れ、猛威を振い始めた。

感染拡大は収まることを知らず、2020年12月に予定した式は断念。2021年4月に延期したものの、再び叶わなかった。

3度目の正直で、同年10月に望みをかけたが、延期を重ねる過程で2人の気持ちは変わっていった。

参列者を120人ほどに抑え、もう延期の選択はしないと考えたのだという。

しかし、友人たちに電話で相談したところ、思ってもみなかった反応が返ってきた。メイさんは振り返る。

「沖縄なので、県外から来てくれる人は航空券も宿泊施設も予約していました。なので、式を挙げることをとにかく優先しようと思っていたんです」

「でも、『妥協するな』『本当にやりたい式にしてほしいから、みんなのためにって考え方を持つな』ってたくさんの人に言われて。どんな結婚式を挙げたかったのかと改めて考え直した時、やっぱり大規模で、誰でも参列して良くて、自分たちの生き様を見てもらえる式を作りたいってより強く思ったんです」

「コロナ禍で延期が続き、身近な人にだけでも会えれば良い、と変わっていた気持ちを身近な人に戻してもらいました」

1000人規模にこだわる理由

式は三たびできなくなったが、式を予定していた日にプレウエディングを代わりに開催した。

クレイジーウェディングのプロデューサーから「今この瞬間じゃないと、気持ちを伝えられない人もいるかもしれませんよ」と言ってもらえたからだという。

当日は約50人が参列してくれ、2人は改めて決意を伝えると、「感動した」という声をたくさんもらえた。初対面の人も来てくれ、本番への手応えを感じた。

2023年は、2人が付き合った日から5年目にあたる。「節目の年」の10月に予定する式では、出店が並び、さまざまなアーティストによるパフォーマンスがあるなど、フェス形式にしようと計画している。

新型コロナの収束は見通しが立たない。2年後、想定している規模の式を挙げられるかはわからない。4度目の延期が待ち受けているかもしれない。

とはいえ、るんさんは、式までの長い日々を前向きに捉えている。

「力を貸してくれる仲間や参列してくれる人たちとの関係をより強め、絆を深める期間なのかなと考えています。最高の1日だったねと思える日にします」

メイさんには、好きな言葉がある。

“YOLO(You Only Live Once)”

人生は一度きり。それに、その人生は誰のものでもなく、自分のものだからこそ、気持ちに正直に。自分が望む生き方をしてほしい、とメイさんは常に思っている。

数々の葛藤を抱えながらも、2人は「そうしたい」と思ったものを選んで生きてきた。結婚式を通し、その生き方をお披露目することで、伝えられるものがあると信じている。

それが1000人規模の式にこだわる理由だ。

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