「電話がつながらないんです」。絶えない無断キャンセル、飲食店の葛藤

    「諦めになっていますね。お客様第一に考えているのはあると思います」

    12月の忘年会シーズンが終わりを迎えようとする一方で、1月にはすぐ新年会シーズンが訪れる。いずれも飲食店側としては売り上げが伸びて嬉しい反面、無断キャンセルの被害に頭を抱える時期でもある。

    「ITの活用」がキャンセルの防止に一定の効果を発揮する中、「お客様第一」の気持ちが拭えない事情もあり、依然として損害を被る店がある。

    どう対策を講じているのか。客側への思いは。店側に話を聞いた。

    「電話で連絡しても、ワンコールで切られてつながらないんです。予約人数が多いと余計、電話に出ていただけないことがあります。無断キャンセルはやっぱり悲しいですね」

    BuzzFeed Newsにそう話すのは、全国にチェーン展開する釣船茶屋ざうお新宿店・副店長の小倉久実さんだ。

    電話とウェブの予約を受け付けている同店は、無断キャンセルに悩む店の一つだ。

    特に団体予約の場合、来店予定日を前に電話でのリコンファーム(予約の再確認)を徹底している。だが、電話がつながらず、当日を迎えて待っても、結局来店しないことがあるという。

    12月上旬にはこんなことがあった、と小倉さんは明かす。

    その日は16人の団体客の予約が入っていた。1人あたり1万円のコース料理の注文で、予約の前日と当日の電話にも応答がなかった。

    最終的に時間通りに来店してもらえたものの、「連絡が取れなかったのでドキドキしました。高額だったし、待っていて焦りましたね」

    予約が入ると、店側は予約人数に合わせて席を確保し、必要なスタッフの人数を計算する。そして、コース料理の注文であれば、人数分の食材を仕入れ、料理を仕込んで来店を待つ。

    余裕を持ってキャンセル連絡をもらえれば対処できるが、無断キャンセルともなればお手上げになる。

    簡単にはキャンセルと判断できず、キャンセル分の損失を補おうと思っても、なかなか難しいのが現状だからだ。

    というのも、予約客を待っている間は、当日に予約なしで来店する客に対して「満席なんです」などと、どうしても断りをいれなくてはならない。

    連絡が取れないため、キャンセルだと見極めて別の客を案内したとしても、その後予約した客が来店すれば、トラブルになりかねない。それらは「席だけ予約」の無断キャンセルも同じだ。

    また、他に来店した客が、同じコース料理を注文してくれるのは稀だ。そうなれば、用意していた食事のフードロス問題が発生し、廃棄費用もかかる。直前にキャンセルの連絡を受けても、そういった経営への打撃は変わらない。

    経済産業省によると、無断キャンセルによる被害額は推計で年間約2000億円にも上ると言われ、飲食店を閉店に追い込むケースもあるという。

    功を奏したクレジットカードの事前登録

    ざうお新宿店は200席ある。過去、同日に無断キャンセルを3件されることもザラだったという。損害額を単純計算すると、平均で月40万円近くのぼっていた。「大きいですよね」と小倉さんは肩を落とす。

    このままではいけないと、店は手を打った。

    無断キャンセルの防止策として、経産省や飲食業界団体、弁護士などによる有識者グループも推奨していた「ITの活用」を取り入れたのだ。

    2017年から、ざうおの他店舗と一緒に、予約・顧客管理台帳システムを提供する「テーブルチェック」と契約を結んだ。ウェブ予約や海外の客の予約時、事前にクレジットカード情報の登録をしてもらうようにしたのだ。

    キャンセルの防止策として、ホテルや航空会社では当たり前のように活用されている手法だ。

    それが抑止力となり、無断キャンセルは目に見えて減った。たとえキャンセルがあっても、料理の代金は請求でき、経営の助けになっているという。

    「画期的だと思っています。コースの料理代だけお支払いいただくことがありますが、お客様からのクレームはこれまでないです」

    意識改革をするのは難しい

    テーブルチェックの谷口優社長は、利用客側の意識改革を促すアプローチでは、無断キャンセル問題を解決するのは難しい、とBuzzFeed Newsの取材に語る。

    「消費者への啓蒙活動だけでは、根本的な解決は図れないと思っています。今後は、さらに海外から多様なゲストが日本を訪れます。文化や慣習がまったく異なる人たちに対しては特に、意識改革だけでは通用しません」

    「無断キャンセルをなくすには、テクノロジーを活用した仕組みの普及が、最も解決につながると考えています」

    ざうお新宿店は、高齢者の予約や、店側と直接話したいという場合に備え、引き続き電話予約も受け付けている。予約客全員に対してカード情報の登録を強制していない。

    それもあり、できるだけキャンセルを防ごうと、電話やショートメッセージによる予約確認など努力を惜しまない。

    それでも、無断キャンセル数がゼロではないのが現状だ。ただ、「月2、3件に減ったのは大きいです」と小倉さんは言う。

    払拭できない「お客様第一」の思い

    経産省が無断キャンセル問題への対策に乗り出すなど、社会問題化してもなお「意識が変わってきているとは思えないですね」と小倉さんは語り、被害に対してこうこぼす。

    「諦めになっていますね。お客様第一に考えているのはあると思います。やっぱり気持ちよく来店してもらいたいんです」

    「お客様の意識が変わっていただけたら良いなと思います。ですが、やむを得ない事情もあると思っていて。直前に連絡をくださる方には『いつかぜひ利用してください』との思いで、キャンセル分をいただかないことだってありますから」

    無断キャンセルや直前のキャンセルがなければ、店側は売り上げを確保できる。さらに、スタッフの負担の低減につながり、料理の質やサービスの向上にも寄与する側面があり、客側にもメリットは大きい。

    だからこそ、小倉さんは「どうにか連絡さえいただければ」と願う。

    「その席が空けばどうにかなるので。来られるのか、来られないのかわからない状態が、お店にとって一番困ることになってしまいます」

    「もちろんお客様を信じていますので、いつも待っています。たとえ連絡がしづらくても、連絡していただけたら嬉しいですね」