芸能人からも支持されるYouTubeチャンネルがある。
釣りと料理をテーマにした『釣りよかでしょう。』だ。
メンバーは、釣り好きな男性7人。彼らの和気藹々と自然体で楽しむ姿が、釣りを趣味としない視聴者をも惹きつけるのだろう。
そんなグループを率いるリーダーのよーらいさん(36)の出発点は、ニコニコ動画だった。どうしてYouTuberになったのか。

『釣りよかでしょう。』は佐賀県を拠点にし、「大自然で遊ぶ」をコンセプトに活動するチャンネルだ。
九州を中心とする各地での釣りや、釣れた魚を料理する様子を動画にして配信する。
堤防や船からの海釣りだけでなく、内陸での渓流釣りにも行く。そうやって釣り上げた多種多様な魚を料理して、みんなで食べる。釣りだけでなく、山菜採りやクワガタ採りなど、自然の中での暮らしの魅力を伝えている。
チャンネルの登録者数は125万人を超える(6月1日現在)。バイオリ二ストの葉加瀬太郎さんやアイドルグループ「嵐」の大野智さんや二宮和也さんなど、芸能界のファンも多い。

きっかけはニコ生だった
もともと面白いことをするのが好きだったというよーらいさん。ニコニコ動画への配信を始めたのは、2009年だった。
内容はゲームの実況。自然相手の釣りとは正反対だ。
ゲーム実況の活動を続けていた2011年、24時間生放送をすることを思いついた。
とはいえ、ただ自宅で話し続けるだけで面白い放送になるとも思えない。
そこで、クワガタ採りや流しそうめんなど、佐賀の自然の中での遊びを伝える動画をたくさん撮影し、生放送の合間に挟む形で流した。

すると、視聴者から大きな反応があった。後日、それらの動画を一本一本投稿した。
やはり反響は大きく、「【実写版】ぼくのなつやすみ(佐賀)実況プレイ part1」は「動画アワード2011(夏)」でグランプリを受賞した。
「ゲームの力を借りてではなく、自分の力だけでやるのが合っている」。そんな確信を得た。
「今でいうバズった感じになったんです。当時、ニコニコ動画を観る人は都会の人ばかりで、『田舎良いな』というコメントで溢れて」
「ただ、僕らにとっては普通のことなんです。だから、ここまで良いリアクションがくるのかと。じゃあ、もっと田舎の良さを伝えようと思ったんです」
その思いから『釣りよかでしょう。』の前身で、「田舎遊び」がコンセプトの「佐賀よかでしょう」を2011年9月にスタートさせた。
赤字の日々、YouTubeの「ブームに乗っとけ」

しかし、2012年、ニコニコ動画での活動を休止することになった。なぜなのか。
「ニコニコ動画時代は収入ゼロでやっていたのに、めっちゃお金を使ってやってたんですよ。ちょっとでも動いたら赤字です」
「それでも趣味で、視聴者に楽しんでもらいたいと思ってやっていたんですけど、やっぱりお金も時間もかかるし、採算が合わないな、と。それに、『佐賀よかでしょう』で一通り田舎の良さを伝えたら、やり尽くしたなとも思いました」
そうして活動休止する中、耳にしたのがYouTubeの勢いだった。
「その時は、YouTuberって言葉もなかったくらいです。今と比べると、もっともっと小さなブームでした。でも、当時の僕としては大きいブームが来てると思ったんです」
「だから、復活しよう、このブームに乗っとけって」

ニコニコ動画時代と同じことをやっても面白くない。そう思い、どんなジャンルの動画が配信されているのか徹底的に調べ上げた。
見つかったのが、「釣り」だった。島国だけに、釣り好きは日本中にいる。釣れる魚も釣り方も各地に特色があり、釣り情報を求める人は多い。
一方で、専門的に釣りを取り上げるチャンネルはほとんどなかった。
釣りの経験が無いからこそ『釣りよか』が成功

「釣り」にすると考えたよーらいさんだが、それまで釣りをしたことがなかった。
だから、逆にそれを強みにしようと考えた、という。
「最初から釣りが上手な人が当たり前のように釣っていても、面白くないじゃないですか」
「だから、全く経験がない僕が、経験者に教えてもらいながら釣るかたちにすれば、観てもらえるんじゃないかなって思ったんです」
そして2014年10月、釣り経験がないよーらいさんを含む2人と、釣り経験者の1人の3人で「釣りよかでしょう。」を始めた。
お金の大切さとは

ニコニコ動画時代とは違う狙いがあった。今度は、お金を稼いで自分たちと視聴者に還元することを目指した。
「YouTuberって視聴者を楽しませるために、と言う人しかいないし、お金の話をしたらいけない、みたいな風潮があります」
「けど、本音を言うと、僕はお金のために始めたし、お金のおかげで成功したと思っています。だってお金って大事じゃないですか」
「1円も入らないのにおもしろいことをやり続けるって無理です。資金があるからこそ、できることがいっぱいある。だから、きれいごと抜きにお金って必要なんですよ」

釣りは自宅で撮るわけにはいかない。
釣り道具をそろえ、海や川、湖まで行かないと話は始まらない。このため他のジャンルと比べて撮影にお金と時間がかかり、YouTubeチャンネルとして「コスパはすごく悪い」という。
さらに、相手は大自然だ。
同じ場所で釣っても、魚の食いつきが良い日も、悪い日もある。天候にも左右される。現場まで行っても何日も釣れない時もあり、動画を配信しても黒字にならないこともあるという。
だから、視聴者がより楽しめる面白いコンテンツを配信するためには、撮影経費を賄える収入が必要なのだ。

「釣りよか」のメンバーたちは今、YouTubeで動画を配信することで得られる収入で生活している。
ただし、一人ひとりのメンバーの収入は「普通のサラリーマンの給料」ぐらい。残りの多くは将来にむけた資金として蓄えているという。
よーらいさんは普段、そんなにお金を使わないのか。そう問うと、「お金は…」と一呼吸置いてから笑い、こう返ってきた。
「使わないですね」
「僕は、服をもらいものしか着ないし、全員、貧乏な暮らしをしてきたんです。そんなメンバーなので、お金の使い方もわからないし、将来のことを考えて、みんな本当にお金を使わないんですよ」
「それに実は、僕が一番給料が多いわけじゃないんです。メンバーの中で真ん中位です。それもあって、メンバーのみんながついてきてくれて、共通の資金の大切さも分かってくれてるのかな、と」
釣りよかは「社会不適合者の集まり」

よーらいさんは仲間に「おれに任せてくれ」と断言した。その言葉を信じた仲間が付いてきた。そして「釣りよか」は多くの視聴者を集めた。
「釣り」という題材選びと、「素人の自分が釣ってみる」という手法の両方で、よーらいさんが狙った通りの結果が出た。
「社会不適合者の集まり」。よーらいさんは、自分たちのグループをそう呼ぶ。子どもの頃、将来のビジョンを持たず生きてきたという意味だそうだ。

しかし結果を見れば、成功を収めている。立ち上げ時から先を見据えた戦略を持っていたからではないか。そう尋ねた。
「あの、ちょっと自慢なんですけど、僕は何でも平均以上にできてきたんです。勉強もスポーツも。車のドリフトもプロになりました」
「でも、なぜかお金を稼ぐことだけ、ずっと平均以下だったんです。なんでだろうと思って。多分、興味がなかったんです。興味のあることにはすごい特化できるタイプなのかと」
「それで、30歳を過ぎて、ようやくお金を稼ぐことに興味を持った。いつのまにか平均以上にはなれて、いち社会人として生活できるようになったのかなって」
