心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」で、女性として生まれたが、心が男性である「Female to Male(FTM)」の当事者2人が、子育てに奮闘している。
2人は性別適合手術を受け、戸籍上の性別を「男性」に変更後、女性と結婚。それぞれ特別養子縁組、または人工授精によって子どもを授かった。
トランスジェンダーパパである彼らは「幸せです」と口をそろえ、体験を語った。
2人が話したのは4月28日、「トランスジェンダーの子づくりと妊活トークショー」と題したイベントだった。この日にスタートした、日本最大のLGBT祭典「東京レインボープライド」の関連イベントの一つだ。
主催したのは、性同一性障害のトータルサポートを手がける企業「G-pit net works」。タイと国内での性別適合手術の付き添いや、性別の戸籍変更・改名手続きのサポートをしている。
これまで同社のサポートで、性別適合手術を受けたのは2200人以上。
問い合わせが続々と入る状況で、「子どもをつくりたいが、どうすれば」という相談も増えてきた。そこで、今回のイベントを開催したという。
特別養子縁組が成立し、家族に
登壇した太田有矢さん(41)は夫婦で話し合った結果、人工授精ではなく、養子縁組で子どもを育てようと決めた。
そして、児童相談センターの研修を経て、里親として認定後、2年ほどして児童相談所から「2ヶ月後に生まれます。受けますか?」と待ちに待った連絡が入った。
里親として、新生児を実親に代わって育ててほしい、との依頼だった。子どもを引き受け、今では特別養子縁組が成立し、家族となった。今、息子は1歳7ヶ月だ。
父となった太田さんは当時を振り返り、「いつ養子縁組を前提とした子がくるかわからない、そして実親が『やっぱり育てます』と決めたら、話はなしになります。不安でした」と話した。
兄からの精子提供
一方、MASAKIさん(33)は、女性と結婚後、実の兄から精子提供を受けた。人工授精によって、妻が男児を出産した。
「養子という選択肢もありましたが、私たちは血の繋がりを大切にしました。一番ベストで身近なチョイスだと考えたのが、兄からの精子提供でした」
兄に依頼したとき、最初は反対されたという。しかし、話し合いを重ね、承諾してくれた。
「一番大変だったのは、兄と奥さんのスケジュール合わせでした。排卵日は簡単にわかるわけではないし、お互い体調が悪ければ、受精がうまくいかないことがあるそうです。間に挟まれる形になった私も精神的に参った時期もありました」
たくさん苦労した。けれど幸せだ
2人に共通するのは「自分たちの子どもを育てたい」という強い思いだ。
初めて子どもと対面した時、MASAKIさんは「うれしいけど、不安になった」と戸惑い、太田さんは「この子を守るのは自分たちしかいない。『頑張ろうスイッチ』が入りました」と考えたという。
子育ては思っていた通りやることが多く、睡眠不足に悩みもしたが、「毎日楽しい。世界が変わります」と2人とも幸せを噛みしめる。
また、MASAKIさんの妻は、1歳4ヶ月の息子とともに来場しており「結婚して後悔していません。一緒に育児ができて、本当に幸せです」と話す。
「血の繋がりとか、似てる似てないを感じることがあり、全てがオッケーでハッピーかって言われたら、そんなことはないかもしれません」
「けど、すごく可愛がってくれて、積極的に育児をしてくれます。私以上に子どものことを考えてくれていて、家族になれて良かったと思えるし、これからも3人で生きていくんだって感じています」
子どもに早くカミングアウトする
2人とも、自身がトランスジェンダーであり、自分と妻との間に生まれた子どもではない、と子どもに早く伝えようと考えている。
太田さんは、児童相談所からそのように指示を受けた。
実親の写真と手紙を預かっており、子どもはまだ言葉を理解できる年齢ではないけれど、誕生日に「このお母さんが産んでくれたんだよ」と話しかけたという。
「LGBTの当事者が親である家族も増えてくると思います。あなたは一人じゃないんだよ、愛されて生まれてきたんだよ、と伝えたいです」
チャレンジする当事者たちへ
会場には、当事者以外にも、子どもがほしくても産めない人、産む予定がない人などさまざまな人が訪れた。
司会進行を務めた「G-pit net works」の社長で、同じくトランスジェンダーの井上健斗さんに「これからチャレンジする人に伝えたいことはなんですか?」と最後に問われると、2人はこう答えた。
「他人である夫婦が家族になれるのであれば、どんな子どもも家族になれると思っています。まずは夫婦でよく話し合って、人工授精にするのか、養子縁組にするのか、2人の意見が一致することが一番大切です。家族はいろんな形があって良いと思っています」(太田さん)
「私が経営するバーには、第三者から精子提供を受け、血の繋がりが全くない子どもを育てるスタッフがいます。話を聞くたびに、彼の愛情の深さを感じます。誰の精子にしようか、と迷うはずですが、血の繋がりは関係ないと思っています」(MASAKIさん)
「愛は血縁関係を超えると思う」
2人の子どもは、それぞれたくさんの愛を注がれて育っている。「愛は血縁関係を超えると思う」との井上さんの言葉が印象的だった。
井上さんは、来場者に「決して子どもをつくった方が良い、と伝えたいわけではなく、子どもをつくらない選択肢もあって良いと思っています。いろんな選択肢が増えれば良いなと思って開催しました」と呼びかけた。
「時代は追い風だな、と思っています。トランスジェンダーだから、子どもが不幸になるかもしれないと思って諦めなきゃ、というのは、すごく悲しいことです。自信を持って選択できるようになってほしいです」
BuzzFeed Japanは東京レインボープライドのメディアパートナーとして、2018年4月28日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「LGBTウィーク」をはじめます。
記事や動画コンテンツのほか、5月1日にはLGBT当事者が本音を語るトークショーをTwitterライブで配信します。
また、5〜6日に代々木公園で開催される東京レインボープライドでは今年もブースを出展。人気デザイナーのステレオテニスさんのオリジナルフォトブースなどをご用意しています!