「復興五輪を」小池知事が改めて要望 バレー会場先送りに森会長は皮肉

    「まだ何をやられるのか」

    2020年の東京五輪・パラリンピックをめぐる国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会、東京都、政府の4者によるトップ級会合が11月29日、都内であった。計画を見直していたボート・カヌー、水泳、バレーボールの3会場について、小池百合子都知事が、都の結論を出した。

    会合には、小池知事のほか、IOCのジョン・コーツ副会長、組織委の森喜朗会長、丸川珠代・五輪担当相らが出席し、会場計画の見直しと開催費の削減について協議した。

    小池知事は、冒頭で「1964年の形を繰り返す道を東京は取らない。都として、次のような考えをまとめさせてもらった」と口火を切った。

    都の3会場に関する考えはこうだった。

    【ボート・カヌー】海の森水上競技場(東京都)

    宮城県の長沼ボート場にする案も持ち上がっていたが、コスト面や場所を考慮して海の森水上競技場になった。

    ただし、事前キャンプ地として長沼ボート場を活用する方向に決まった。

    【水泳】オリンピックアクアティクスセンター(東京都)

    観客席を2万席から1万5000席にし、大会後に減築をしない方向でコストカットを実現させる。

    【バレーボール】有明アリーナ(東京都)と横浜アリーナ(横浜市)のどちらか。結論は12月25日までに。

    有明アリーナを新設するか、既存の横浜アリーナを活用するかの2案で見直しが検討されていたが、まだ検討が終わっておらず、12月25日まで結論は先延ばしとなった。

    小池知事は「あとしばらく時間をもらい、クリスマスまでには最終の結論を出したい」と語った。

    森会長「まだ何をやられるのか」

    森会長は、小池知事の考えに対し、横浜市は困惑しており、実現は難しいとした上で、こう突っ込んだ。

    「小池さんね、今日の時点で有明と横浜の結論が出せないということですよね。クリスマスまでにまだ何をやられるのか」

    IOC側も、まずは「有明と横浜を比較しうるようにしなければならない」とし、12月25日までに横浜市や民間の合意を取り付けるのは困難だと指摘した。

    「大変な作業になるので、一生懸命やるしかない」

    コンパクト五輪はどこに。

    招致時にはそもそも、会場のほとんどを集約し、コストをかけない「コンパクト五輪」を高らかに謳っていた。既存施設をなるべく活用し、中央区の晴海地区に計画する選手村から半径8km以内に、多くの会場を配置しようとした。試算された費用は、総額7340億円でコンパクトだった。

    ところが、会場計画の変更や膨れ上がった整備費などで、看板だったコンパクトさは次第に失われていった。会場が各地に広がり、選手や観客の移動は、決して楽とはいえない状況だ。

    都の調査チームは9月、経費が総額3兆円を超える恐れがあるとの見方を示した。大会組織委は、この日、予算が2兆円を切るとの試算を出したが、最終的にいくら経費がかかるのかはわからない。

    コーツ副会長は、こう釘を刺した。

    「経費の節約するという共通の目的が、私たちにはある。予算が2兆円でも、まだ高すぎる。さらなる節約が可能だと思っている」

    一方、小池知事は、経費を削減した分は、アスリートの強化に充てて支援するとの方針を掲げ、賛同を得た。

    「復興五輪は大きなテーマ」

    東日本大震災からの復興を理念にした「復興五輪」を掲げたことも、招致成功の決め手となった。震災や福島第一原子力発電所の事故の影響を不安視する声に対して、安全だと強調し、招致活動を駆け抜けた。

    会場の見直しが進められてから、小池知事は「復興五輪」の言葉をしきりに話していた。カヌー・ボートの会場候補として、長沼ボート場が持ち上がったことも高く評価していた。

    この日のトップ級会合により、長沼ボート場は除外され、事前キャンプ地として活用されることになった。その結果に落胆する被災者は、少なくないはずだ。

    被災地での聖火リレーが検討され、宮城県でサッカーの予選をする予定となっている。さらに、福島県で、野球とソフトボールの予選を開催するよう目指すことが、会合で改めて確認された。

    小池知事は、こう要望した。

    「復興という大きなテーマがある。被災地を励まし、元気になりつつある被災地を世界に発信するチャンスをほしい」

    誇れるレガシーを残せるか。

    新設した会場が、大会後に活用されるかも議論の的となった。

    過去の五輪・パラリンピックの開催地では、会場が悲しくも廃墟と化した例も少なくない。小池知事は、「負の遺産になる可能性が非常に高い施設を都民に残すわけにはいかない」と語り、見直しの議論を進めてきた。

    会合後、小池知事は報道陣に対し、施設だけがレガシーになるわけではないと強調し、こう話した。

    「全体としてどう盛り上げるか、魂をどう入れるかが大事です」

    有明アリーナか、横浜アリーナか。小池知事がしきりに口にしていた「ラストチャンスの見直し」は、納得する結果となるのか。期限は、12月25日だ。