自宅マンションで女子高生に無理やりキスをするなどの行為をしたとして、アイドルグループ「TOKIO」のメンバー・山口達也さんが、強制わいせつ容疑で書類送検されたと、NHKなど報道各社が報じた。
この事件では、「山口メンバー」という呼称で報じたメディアが多かったことが、関心を集めている。
全国紙では読売新聞のみ「山口容疑者」とし、他は「山口メンバー」とした。
なぜ呼称が割れたのか。BuzzFeed Newsは、朝日、読売、日経、毎日、産経の5紙に取材した。
質問したのは2点。「逮捕時と書類送検の場合におけるルール」と、なぜ「山口メンバー」または「山口容疑者」としたのか判断の理由だ。
各紙からの回答をそれぞれ紹介する
朝日新聞
《事件事故の報道にあたってガイドラインを設けています。逮捕時は原則として実名とし、呼称を「容疑者」としていますが、逮捕時、書類送検時とも事案の軽重や当事者の属性などを踏まえて実名か匿名か、どのような呼称とするかを個別に判断することとしています》
なお、朝日新聞出版が発行した「事件の取材と報道 2012」 ではこう記されている。
書類送検されても起訴されないケースは多く、書類送検の時点では原則、実名・肩書き呼称とするのが望ましい。
ただし「警察が証拠や供述に基づいて起訴を求め」た場合などについて、こう言及している。
社会的影響が大きな事件などでは、特にこうした見通しを十分に取材したうえで、書類送検時であっても実名・容疑者呼称を検討する。取材の結果、不起訴が見込まれる場合は匿名にすることもありうる。
読売新聞
全国紙で唯一、「山口容疑者」と報じた読売新聞は、こう回答した。
《事案の内容や捜査当局の送検時の意見などを踏まえ、社内の基準に沿って判断しました》
日経新聞
回答は得られなかった。
毎日新聞
《「紙面制作に関する主筆総則（通達）」で、事件・事故報道は実名を原則とするとした上で、任意捜査段階や書類送検時の容疑者については、「一般に匿名が妥当だが、社会的責任の度合い等によっては実名とする」としています。
また、「身柄不拘束のまま書類送検された容疑者については氏名の後に肩書呼称をつける。ただし、ケースにより敬称、容疑者等をつけることがある」とも定めています。
個別の事案についてはこうした原則を踏まえた上で、事件の内容などを総合的に検討し、ケース・バイ・ケースで判断しております》
産経新聞
《編集に関することはお答えしておりません》
肩書きが「メンバー」だった？
山口さんの呼称を巡ってはTwitter上で「ジャニーズのタレントには容疑者と付けられない暗黙のルールがある」といった憶測が流れた。
今回の件で回答が得られた朝日、読売、毎日の3紙は、それぞれ自社のルールにのっとり、事件の重さなどを勘案して、実名を出したうえで呼称をどうするか検討したことがうかがえる。
「容疑者」とした読売の方が、事件を重く捉えているとみられる。毎日と朝日は、まず敬称ではなく肩書きを使うと判断したうえで、肩書きに「メンバー」を選んだようだ。
「山口メンバー」と報じた共同通信社が発行している「記者ハンドブック」は、被疑者の呼称について、以下のように記している。
実名を出す場合の任意調べ、書類送検、略式起訴、起訴猶予、不起訴処分の場合は『肩書』または『敬称』（さん・氏）を原則とする。
タレントである山口さんには、普段使う職業上の肩書きがない。
また通常、芸能やスポーツに関する報道では、敬称を抜いた呼び捨て呼称が一般的だ。
だが今回は、人権上の配慮も必要な事件報道であるため、呼び捨てにはできず、何らかの肩書きが必要となった。
NHKなどテレビ各局を含めた多くのメディアが選んだのが、普段は聞き慣れない「メンバー」という言葉だったとみられる。
もし山口さんが「社長」や「議員」「選手」などであれば、その肩書きが用いられ、違和感を感じる人が少なかったはずだ。
BuzzFeed Newsは、一報から「山口さん」と表記している。
他メディアが用いる原則同様、社会的な関心が高い、逮捕ではないなどの要素を考慮した。「メンバー」は日本語として不自然なため、「さん」にした。
事件をめぐっては、4月26日午後、会見を開いた山口さんは、被害者である女子高生が日々、苦しんでいただろうとしたうえで「言葉にならないです。本当に申し訳ありません」と謝罪。
ジャニーズ事務所は、山口さんの無期限活動停止を決めた。