話題の"そんなにおかしいか『杉田水脈』論文" 寄稿者のLGBT当事者が論文を書いた理由

    自民党の杉田水脈衆議院議員は月刊誌「新潮45」に「(LGBTは)子供を作らない、つまり『生産性』がない」などとする文章を寄稿し、多くの批判を浴びていた。

    自民党の杉田水脈衆議院議員が「(LGBTは)子供を作らない、つまり『生産性』がない」などと発したことで批判を浴びた寄稿先である月刊誌「新潮45」は9月18日発売の10月号で、「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」とする企画を掲載した。

    各方面からまたしても批判の声が寄せられている。

    そもそも、自民党の杉田水脈衆議院議員は月刊誌「新潮45」2018年8月号(新潮社)への寄稿で、次のように書き、多くの批判を浴びた。

    「例えば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります」

    「しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」

    自民党本部「配慮を欠いた表現」「注意するよう指導した」

    この寄稿を受け、当事者を含む多くの人から批判が噴出した。

    北海道の性的少数者の支援団体は、杉田議員の除名と議員辞職を求める要望書を自民党に提出。

    その要望書に対し、同党北海道連は7月31日にまず「LGBTの方々を差別するような寄稿を行ったことは遺憾」「(党本部に)適切に対処するよう求め、多様性が寛容される社会の実現を目指していく」と回答。

    一方の自民党本部は当初、「杉田水脈議員の寄稿文につきましては、議員個人としてのものと理解しております」と問題視しない見解を示していたが、8月2日に一転。ホームページ上に見解をこう載せた。

    個人的な意見とは言え、問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現があることも事実であり、本人には今後、十分に注意するよう指導したところです。

    一方の新潮45「見当はずれの大バッシングに見舞われた」

    それから2ヶ月後、杉田議員を擁護する目的の「特別企画」を新潮45が組んだ。

    同誌は、杉田議員への意見について「見当はずれの大バッシングに見舞われた」とし、次のように最初のページに記した。

    主要メディアは戦時下さながらに杉田攻撃一色に染まり、そこには冷静さのかけらもなかった。あの記事をどう読むべきなのか。LGBT当事者の声も含め、真っ当な議論のきっかけとなる論考をお届けする。

    そして、保守論客も含む7人の寄稿で企画を構成。

    新しい歴史教科書を作る会副会長の藤岡信勝氏は「LGBTと『生産性』の意味」と題し、文芸評論家の小川栄太郎氏は「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」という論文を寄せた。

    同誌が発売されると、作家やLGBTの当事者からTwitterを中心に声が上がった。

    ゲイの当事者で、一般社団法人「fair」の代表理事の松岡宗嗣さんは、「性的嗜好など見せるものでも聞かせるものでもない」などとの考えを示した小川氏の文章を引用する形で、「酷すぎた」と感想を一言でまとめた。

    新潮45「杉田水脈擁護特集」の、特に小川榮太郎氏の文章は酷すぎた。一部紹介すると「性的嗜好など他人に見せるものではない、迷惑だ。倒錯的で異常な興奮に血走り、犯罪そのものでさえあるかもしれない」「性はXXのメスかXYのオスしかいない。雄しべ雌しべ以外に『レズしべ』『ゲイしべ』など無い」

    小川氏は同誌で、性に関する好みや趣味的な意味を持つ「性的嗜好」と書いており、故意にそうした表現を用いたのかは不明だが、同性愛や両性愛、そして異性愛を表すのに適切なのは「性的指向」だ。

    「どの性別を恋愛や性愛の対象としているか」という意味であり、生まれついてのものとされている。

    今回の企画を「じっくり読んだ」とする作家で明治学院大教授の高橋源一郎さんは、小川氏の論文を持ち出し、「読むんじゃなかった」と気持ちを吐露した。さらに、新潮社の校閲体制をこう指摘した。

    「事実でおかしいところが散見されたのだが、最強の新潮校閲部のチェック入ってないの?謎だ」

    話題の「新潮45」の「杉田水脈論文擁護特集」をじっくり読んだ。読むんじゃなかった……。小川論文とか、これ、「公衆便所の落書き」じゃん。こんなの読ませるなよ、読んでる方が恥ずかしくなるから! あと、事実でおかしいところが散見されたのだが、最強の新潮校閲部のチェック入ってないの? 謎だ。

    小説家の平野啓一郎さんも「言葉に尽くせない敬愛の念を抱いている出版社だが、一雑誌とは言え、どうしてあんな低劣な差別に荷担するのか。わからない」とTwitterに投稿。

    また、脳科学者の茂木健一郎さんは「新潮45」がTwitterのトレンド1位になった点に触れ、「新潮社の文芸書、新潮文庫に育まれてきた者として、新潮社の良心を信じたいです」との感想を書いた。

    寄稿者本人は論文を寄せた理由を説明

    ③若い世代から昔の上野千鶴子さんのような書き手が現れる事を願ってやみません。今回私が『新潮45』に寄稿したのは、以上の理由からです。LGBTの事は『新潮45』の読者にこそわかってもらわなければならない。微力ではありますが、私は政治家として最後まで対話の努力を続けたいと思います。

    「特権ではなく『フェアな社会』を求む」との論文の寄稿者であり、元参院議員で自身がゲイの当事者だと公表している松浦大悟氏は18日、新潮45に寄稿した理由を「一番言葉を届けなければならないのはどこか」などとTwitterに挙げた上で、次のように考えを述べた。

    「LGBTの事は『新潮45』の読者にこそわかってもらわなければならない。微力ではありますが、私は政治家として最後まで対話の努力を続けたいと思います」

    松浦氏は論文で、杉田議員へのバッシングに対し、疑問を持つLGBT当事者も多くいるとした上で、本人に「LGBTの味方になってもらいたい」「本音の対談」がしたいとこう綴っている。

    「社会制度を変えても生きづらさが解消されるわけではない」という杉田議員の言葉は圧倒的に正しい。私は生まれてから48年間、一度も人と付き合ったことがありません。将来同性婚制度が施行されたとしても、それによって私に恋人が出来るわけではありません。それでも制度を望むのは「LGBTであっても国民の一員」という承認が、当事者にとって、日本人としての矜恃になると信じているからです。それが次世代へのせめてもの贈与だと思うからです。