菅義偉氏が、辞めたいと思った回数は?3200回以上にわたる「記者会見」の最後に語ったこと

    菅義偉官房長官が、次の首相に就任する見通しとなった。彼は、「最後の記者会見」で何を語ったのか。

    安倍晋三首相の後任を選ぶ自民党の総裁選が9月14日あり、菅義偉官房長官が新総裁に選出された。16日に首相に就任する見通しとなった。

    これにより、この日あった官房長官会見は、菅氏が担当する最後の会見となった。

    7年8カ月にわたり、3200回を超える会見をこなしてきた菅氏は、最後に何を語ったのか。全文を紹介する。

    報道陣:官房長官職について伺います。長官が仮に自民党新総裁に選ばれれば、この午前の定例会見が最後になる可能性があります。7年8カ月にわたり勤めてきた中で、官房長官として最も印象的だった出来事、また歴代最長となる長官職を務め続けるにあたりですね。最も心がけてきたことは何か。これを聞かせてください。

    菅氏:この7年8カ月、安倍総理の元、経済の再生、外交安全保障の再構築、そして全世代型社会保障制度の実現、そして年初からは、新型コロナ対策。重要課題に取り組んできました。

    その中で、毎日新しい課題が発生し、毎日緊張感を持って全力で対応する必要がありましたので、どれか一つ取り上げてお話することは難しいというふうに思ってます。

    次から次へと一つが終わるとまた新しい課題がくる。それがあの国会運営だなということを痛切に感じています。ただ課題に的確に対応するためには、なるべく幅広く現場の皆さんの声、こうしたものを伺いながら、アンテナを高くするようにこれは心がけてきました。しっかりとした判断をするには、体調も維持することも大事でありますので、毎朝、散歩などをして、そうした調整を行ってきました。

    「役人の説明を鵜呑みにせずに、自分の頭で考えろ」

    報道陣:長官これまで3200回以上にわたる定例会見。あるいは北朝鮮によるミサイル発射時など有事の緊急会見に臨んできました。政権のスポークスマンとして、どういった点に最も心を砕いて会見に臨んできたのか。また、これまで最も思い出深い記者会見は何だったかお聞かせください。

    菅氏:総裁選の結果次第では本日午後以降、官房長官会見に望むことがスケジュール上、難しくなると考えられます。そのような前提で申し上げれば、官房長官として、これまで通常の午前午後の会見に、緊急事態発生時の臨時会見というのも、数多くやったと思います。

    そうしたことを考えると、3200回以上の会見を行ったという風に思います。私としては、政府の立場や見解を正確に発信をする、ある意味では貴重な機会でありますので、しっかり準備し、丁寧に誠実に臨んできたと思っています。全ての会見が私にとっては、一つ一つが印象に残る会見であります。

    報道陣:長官がおっしゃられたように、7年8カ月、安倍総理とともに内政外交等取り組んでこられたわけですけれども、長官の政治の師である梶山静六元官房長官をある意味超えることができたと思うような点があるかどうか、この点を伺わせてください。

    菅氏:まず官房長官として7年8カ月、経済の再生を始めるとする重要課題に取り組んできました。私自身、梶山先生から当選直後、ご指導を受けた際に印象に残っていますのは、「政治家の仕事というのは、国民の食いぶち、ここを探すことだ」と。「役人の説明を鵜呑みにせずに、自分の頭で考えろ」と、こういう言葉をいただきました。そうしたことを念頭に置きながら全力で取り組んできたという風に思います。

    まだまだ足りないところばっかしだという風に思います。謙虚に、こうしたことに耳を傾けながら、政治を行っていきたいと思います。

    報道陣:平成の新元号を掲げた小渕恵三元総理・元官房長官はその後、総理大臣になられました。長官も、今回の総裁選で優勢と伝えられている中で、新元号を掲げた官房長官、総理になるという縁起というようなものが続くかもしれませんけれども、そこで改めて長官にとってですね、新元号「令和」を去年、掲げたご経験というのは、ご自身の政治家人生の中で、どのようなターニングポイントだったという風にお考えでしょうか?

    菅氏:まず新しい元号を官房長官として担当するということは、何か巡り合わせ、運命みたいなものを感じました。そういう意味で、担当するからには国民から祝福されるものでなければならない。そういう意味で全力で取り組んだことを思い浮かべてます。令和が始まり、新しい時代にふさわしい仕事をしなければならない。そう思いながら、心新たに1年余り一つ一つの課題に取り組んできたという風に思っています。

    最大の危機はあったか

    報道陣:災害や事件、森友問題、加計問題など、様々な出来事があった中で、長官がこの間、最大の危機と感じたのはどういった瞬間でしょうか?

    菅氏:まず、私が一環して重視したのが、縦割りを廃して、省庁の壁を乗り越えて、政府一丸となって取り組んでいくことであります。政権発足以来7年8カ月、官房長官として危機管理を自らの最優先の課題として緊張感を持って取り組んできました。

    特に振り返りますと、アルジェリアの人質事件、度重なる水害、地震、北朝鮮のミサイルなど、数多くの緊急対応をしてまいりました。いずれの事態も、政府一丸となって行わなきゃならないわけでありますので、とにかく先頭に立って、政府の総力を挙げてこうした対応してきた、そういう風に思っています。

    報道陣:現在もコロナ禍や安全保障環境の変化などもある中で、次の内閣にはどのような危機管理が求められているのかと思われますか。

    菅氏:緊急事態に適切に対処して、国民の生命と平和な暮らしを守ることは、政府に課された重大な使命であって、政府としては、いついかなるときであって、この瞬間も起きるかもわかりません。危機管理に緊張感を持って万全を尽くすというのは、当然のことだという風に思います。

    政府として安全保障上の脅威、自然災害、海外に在留する邦人へのテロの危険、これら様々な緊急事態や危機に際して、引き続き緊張感を持って対応して、そして的確に救出をしなきゃならない。こういう風に思います。

    報道陣:長官として会見に臨むにあたって、やはりこれまで政府の法的見解を述べるという制約があったと思います。我々もなかなか歯切れの良い回答がもらえなくて、忸怩たる思いをしたことがあるのですけれども、これから次のステージに行かれれば、また新しい長官の姿が見られると考えていいのでしょうか。

    菅氏:まず次のステージに行けるかどうかまだわかりませんので、その時点になって、そういう意味で大分変わってくるんだろうと思います。

    辞めたいと思ったことは「何回もあります」

    報道陣:官房長官しんどいな、もう辞めたいなという風に思ったことはありますか。

    菅氏:それは何回もあります。

    報道陣:3000回を超える会見を続けてこられたということで、失言をしないために心がけていたことはあるのでしょうか。

    菅氏:全て発言をしないで、ある程度余韻を持って説明するのがよかったのかなという風に思っています。

    報道陣:場合によっては「指摘は当たらない」などのお答えで、「丁寧な説明になっていない」といった指摘もありましたけれども、こうした指摘に対して、どう思われますか?

    菅氏:そうしたことを含めて、会見というのはなかなか難しいという風にずっと思って続けています。

    報道陣:どんなときに辞めたいなと思われたのでしょうか。

    菅氏:やはり会見というのは、官房長官として国会運営がうまくいかないときですよね。平和安全法制とかいろんな、もう眠れないようなことは度々ありましたから。しかし、1日空けると雰囲気が変わってきている。それが国会なのかなと思いました。

    「私には答えない権利がある」との言葉で

    報道陣:テレビで、携帯電話料金の値下げの必要性に関して、実現しない場合は、電波利用料の見直しはやらざるを得ないという発言をされました。ただ、質問者から電波利用料を値上げしたら、携帯電話は上がってしまうという指摘もありました。電波利用料を値上げしたら、携帯料金が下がるものなのでしょうか。

    菅氏:利益を20%あげていますから、そういう範囲内で高くなることはあり得ないし、料金は下がるだろうという風に思います。

    報道陣:新型コロナに関する地方創生臨時交付金についてお伺いします。地方創生臨時交付金について、全ての都道府県は不足を見込んでいます。使い道は、休業要請に伴う協力金など中小事業者への支援が最も多いですが、すでに協力金で支出された額、もしくは支出予定の額を教えてください。

    菅氏:総額3兆円を超える措置をしています。現在、地方自治体において、今月末までの申請期限に向けて、2次補正予算分で約2兆円の申請の準備をしている段階であるという風にしています。したがって全体について申し上げる段階ではありませんが、この交付金は使い方にかなりの自由度があり、各自治体で有効に活用していただきたい。このように思います。

    報道陣:長官はインタビューなどで、米国のパウエル元国務長官の本の記述の「記者には質問する権利はあるが、私には答えない権利がある」という言葉で、気が楽になったという風に述べられていました。官房長官としての会見は答えない権利というものも念頭に置いて臨まれているのでしょうか?また、次に総理になる方も、会見でこのようなスタンスで臨めば良いという風にお考えでしょうか。

    菅氏:政府の見解を申し上げますから、政府の見解以外のことはなかなか発言することができないという風に思っています。それを超えて発言しようとすると、間違ってしまうのではないかと思います。

    首脳外交の重要性、インフルエンザワクチンは?

    報道陣:イスラエルとバーレーンが、米国政府の仲介により国交正常化で合意しました。UAEに続くイスラエルとの関係改善の動きですけれど、日本政府の受け止め方は。

    菅氏:まず、先般のイスラエルとアラブ首長国連邦の国交正常化合意だとか今回の合意によって、中東諸国の地域の緊張緩和と安定化に向けて動き、ここは進むことと期待をします。また、トランプ米国大統領をはじめとする米国の仲介努力というのは評価したいと思います。

    報道陣:国益を維持していくうえで、首脳外交の重要性についてどのようにお考えでしょうか。

    菅氏:まずこれ一般論として申し上げれば、首脳間の個人的信頼関係は、2国間関係を一層緊密なものにすると思います。また、多国間の場などで、首相自らが交渉し発信することは、我が国の立場への理解と支持、こうしたものを強くするという風に思います。そういう観点からすれば首脳外交というのは極めて重要だという風に思っています。

    報道陣:安倍総理の地球儀を俯瞰する外交というのは、継承されないのでしょうか。

    菅氏:私はあくまで総裁選の候補者として、7年8カ月にわたる長期政権の中で、各国首脳との個人的信頼関係を幅広く作ってきた安倍総理のこの外交の実績に並ぶことは、それは容易ではないということは事実じゃないでしょうか?総裁選の結果も出ておらず、まだ総理にも指名されていない時点で、具体的な外交方針について申し上げることはこれは控えるべきだと思います。

    報道陣:自分の外交姿勢というのは、どのようにお考えでしょうか。

    菅氏:今申し上げましたように、具体的な外交について、今は政府の立場でありますので私は申し上げるべきじゃないという風に思います。その上で申し上げれば、国際情勢全体の状況を見据えて、日米同盟、こうしたものを基軸として幅広く、安定的な関係を各国と築いていく。そうしたことは極めて大事だという風に思います。

    報道陣:2つ質問ございます。1つ目はですね、秋冬に向けて、新型コロナウイルスとインフルエンザが同時に流行するのを防ぐために、各地の自治体でですね、インフルエンザの予防接種の助成対象を拡大する動きが広がっていますが、それに対するご助言と、今年は接種を希望する人が急増すると言われてきたんですが、混乱なく接種できるのでしょうか。十分、足りるのでしょうか。

    菅氏:まずこの冬に向けて、インフルエンザワクチン、また新型コロナウイルス感染症の流行、これは懸念される。そういう予測のもとに対応しております。例えば各5年間で最大の供給量を確保するとともに、65歳以上など優先的な対象者への早期の接種の呼びかけ、地域単位での計画的なワクチン供給の調整など、厚生労働省において、自治体の助成対象拡大による特定の地域での需給の逼迫というものの混乱回避、こうしたことも含めて、ワクチン接種。より必要とする方が確実に受けられるような取り組みを整えているところであります。

    国民の疑問をどう感じてきたか

    報道陣:かなり質問させていただいたと思うんですが、こうした国民の疑問をですね、長官はどう感じてこられたか。率直な感想を教えてください。

    菅氏:この記者会見というのはご承知の通り、全く限られた中で10数名の記者の皆さんから様々の質問にお答えをするわけですから、なかなか納得のいくような説明はできないのかなということを常に気になりながら会見をしてきました。現実問題をかなり反映している、そういう質問だったという風に思います。ありがとうございました。

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    官房長官会見は、首相官邸のHPで会見の様子が動画で公開されているものの、他の閣僚と異なり、冒頭発言以外が書き起こされていない。

    そのため、3200回以上にのぼる記者会見を振り返るには、動画を一つ一つ再生する必要がある。

    菅氏が述べる「政府の立場や見解を正確に発信をする貴重な機会」であり、「一つ一つが印象に残る」記者会見を検証をするのは容易ではない。