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伊藤詩織さん、法的措置対象はヤフコメやYouTubeも検討 漫画家など3人を賠償求めて提訴

ジャーナリストの伊藤詩織さんは「本人の前で責任を持って言えるのか、考えてほしい」と訴えた

SNS上で事実に基づかない誹謗中傷の投稿により精神的苦痛を受けたとして、漫画家のはすみとしこさんら3人に対し、民事訴訟を起こしたジャーナリストの伊藤詩織さんが6月8日、記者会見を開き、「本人の前で責任を持って言えるのか、考えてほしい」と訴えた。

東京地方裁判所に同日付で提訴し、計770万円の損害賠償と該当するTwitterでの投稿の削除のほか、はすみとしこさんには謝罪広告の掲載を求めた。

伊藤さんは、元TBS記者の山口敬之さんから性行為を強要されたとして民事訴訟を起こし、一審で勝訴。山口さん側が東京高等裁判所に控訴し、審理が続いている。

訴状などによると、伊藤さんが自身の被害について公表した2017年から、SNS上で誹謗中傷を含む投稿が行われるようになった。

そして、はすみとしこさんは自身のTwitterアカウントで、伊藤さんが「枕営業をした」と示唆するようなイラストを投稿するなどしたという。

伊藤さん側はこうしたことで「性被害に続く二次被害(セカンドレイプ)を受けた」と主張している。

伊藤さん側によると、伊藤さんについて記したネット上の書き込みは70万件ほどあるという。その中で、今回、はすみとしこさんを対象にした理由について、代理人の山口元一弁護士は「誹謗中傷する投稿が非常に多く、悪質性が高いと判断した」と会見で説明した。

5月14日付で内容証明郵便を送り、今回と同じ請求をしたが、「かえってTwitterやYouTubeで伊藤さんを揶揄する言動を繰り返したため、訴訟に至った」とした。

YouTubeやまとめサイト上での内容も検討

一方、他の被告2人は、いずれも男性で、1人は東京都在住の医師、もう1人はクリエーターであり、はすみとしこさんのイラスト付の投稿をリツイートしたという。

この2人には、事前通達をしておらず、山口弁護士は「2人がとりわけ他のユーザーと比べて責任が重大というわけではなく、早く特定できるのが2人だった。リツイートにも責任があることをわかってほしい」と話した。

今後は、Twitterに限らず、YouTubeやまとめサイト、Yahoo!ニュース上でのコメントなどを精査し、法的措置をとるか検討していくという。

「現行法上、許されるものではない」

はすみとしこさんのイラストについて、伊藤さんは「自分のことだと思っています。かなりショックでした。ネット番組で彼女がイラストを出し、そこには国会議員もおり、イラストを見ながら笑っている姿を見かけて傷つきました」と心境を語った。

「言葉は、時に人を死に追い詰めもします。被害を公表してから、PTSDなど癒えていない傷があるのに、さらに攻撃され、メールやダイレクトメッセージが届きもし、眠れなくなった日もありました」

「私にとってイラストは、批判ではなく、誹謗中傷でした。人格を否定され、尊厳を傷つけられました。生身の人間に響いてしまうと感じてほしいと思います」

山口弁護士も言う。

「仮名であっても匿名であっても『この人だ』と認定する手法が裁判では確立しています。これが伊藤さんを描いたものであり、はすみとしこさんのイラストが、現行法上、許されるものではないのは明らかだと思っています」

伊藤さんは、今回の訴訟にあたって「本当は、こうやってお話することも怖かった。誹謗中傷する声が増えてしまうのではないかと考えました」と話したうえで、「この3年間は、精神的に大きな負担となっていました」と自身の日常生活を語った。

「道を歩いていて、どれくらいの人が同じように思っているのか、こういった言葉を発しているのか本当に怖くなってしまいます」

「『SNSを見なければいいじゃないか』という声も聞こえます。でも、私たちの生活では、インターネットは欠かせないものになっていて、『見るな』というのは難しく、見なくても入ってくるものなんです」

「本人の前で責任を持って言えるのか、考えてほしいというのが願いです。人を傷つけ、死に追いやる言葉もある。言葉で人が傷つくことがないよう、これから何かアクションを起こしていこうと思っています」

はすみとしこさん「風刺画はフィクション」と投稿

BuzzFeed Newsは、はすみとしこさんに対し、Twitterのダイレクトメッセージでコメントを求めている。

はすみさんはこれまでに複数回、「風刺画は完全なフィクション」「実際の人物や団体とは関係がありません」とツイートしている。

また、5月27日には「恐喝っぽい脅しは『表現の自由の侵害』だと思いますよ」とツイートした。伊藤さん側が内容証明郵便を送ったことを指すとみられる。


伊藤さんは2017年9月、山口さんを相手取って提訴した。

伊藤さん側の主張によると、2015年4月、当時、TBS・ワシントン支局長だった山口さんと就職相談のために会った。東京都内で食事をすると、2軒目の寿司屋で記憶を失い、痛みで目覚めた。

そして、山口さんが宿泊していたホテルのベッドで、避妊具をつけずに性行為をされていることに気づき、その後も体を押さえつけるなどして性行為を続けようとされたという。

これに対し、性行為は「合意のもとだった」などと反論した山口さんは、名誉毀損やプライバシーの侵害を訴えて反訴。

しかし、2019年12月18日の判決では、裁判所は伊藤さんの供述が、山口さんの供述と比較しても「相対的に信用性が高い」とし、山口さんが伊藤さんに330万円を支払うよう命じ、山口さんの反訴を棄却した。

山口さんはこの判決を不服として、2020年1月6日、東京高等裁判所に控訴している。