判決で示された慰謝料「330万円」は安い?伊藤詩織さん側の弁護士の見解

    判決が覆る可能性もあるが、この「330万円」という額は妥当なのか。

    ジャーナリストの伊藤詩織さんが慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて東京地裁に起こした民事訴訟で、元TBS記者の山口敬之さんに330万円を支払うよう命じる判決が下された。

    山口さんは控訴する意思を示しており、判決が覆る可能性もあるが、この「330万円」という額は妥当なのか。伊藤さんの代理人の村田智子弁護士の見解とは。

    伊藤さんは2017年9月、山口さんを相手取って提訴した。

    伊藤さん側の主張によると、2015年4月、当時、TBS・ワシントン支局長だった山口さんと就職相談のために会った。東京都内で食事をすると、2軒目の寿司屋で記憶を失い、痛みで目覚めた。

    そして、山口さんが宿泊していたホテルのベッドで、避妊具をつけずに性行為をされていることに気づき、その後も体を押さえつけるなどして性行為を続けようとされたという。

    一方、山口さんは、性行為を合意のもとと主張した。そして、伊藤さんが記者会見や手記などを通して被害を訴えたことで、自身の名誉を毀損されて信用が失われたほか、プライバシーを侵害されたとし、慰謝料1億3000万円や、謝罪広告の掲載を求めて反訴した。

    それぞれの訴えを合わせて審理した東京地裁は12月18日、判決で山口さんの反訴を棄却し、山口さんが伊藤さんに330万円を支払うべきだと結論付けた。

    判決をどう受け止めたのか。伊藤さん側の村田弁護士は、当日にあった支援者らへの報告集会で「330万円という金額は、私は低いかなと率直に思います」と言った。「しかし」と続ける。

    「今の日本の裁判の相場では、決して低いわけではない金額です。日本の裁判の慰謝料の相場が低いという問題はあるんですが、逆に言うと日本の裁判所から見て相当だと思われる慰謝料はしっかり取れた」

    300万円の慰謝料の10%が弁護士費用として認められる。そのため、合わせて330万円になった。これも「通常のこと」だという。

    「だから、330万円という金額は、決して高い金額ではないけれど、恥ずかしい金額ではない。立派な金額だと思っています」

    伊藤さんの勝訴の理由は?

    では、なぜ伊藤さんが勝てたのか。村田弁護士は見解を述べる。

    「シンプルに申しますと、裁判所が伊藤さんの供述が、山口さんの供述と比べて信用できると判断して、伊藤さんの供述に沿った事実認定をした。これが勝訴の理由だったと思います」

    事実、判決では伊藤さんの供述の方が「相対的に信用性が高い」とし、こうまとめている

    ・伊藤さんがホテルの居室に入ったのは、自らの「意思に基づくものではない」

    ・酩酊状態で意識のなかった伊藤さんに、山口さんが合意のないまま性行為をした事実が認められる。

    ・伊藤さんの意識が回復し、性行為を拒絶した後も体を押さえつけ、山口さんが性行為を継続しようとした事実が認められる。

    ・それらから、山口さんの行為は、伊藤さんへの「不法行為」で、損害賠償額は330万円だと言える。

    そして、総合的に判断すると、山口さんは伊藤さんに330万円を支払うべき「理由がある」が、名誉毀損とプライバシーの侵害を訴えた山口さんに、伊藤さんが損害賠償する「理由がない」と結論を述べた。

    村田弁護士は、山口さんの反訴に対する裁判所の判断で「嬉しいことが2点ある」と加えた。

    1点目は伊藤さんが自身の体験を明らかにしたのは「性犯罪の被害者を取り巻く法的・社会的状況の改善につながる」、つまり「公益を図る目的で表現した」と認め、山口さんへの名誉毀損には当たらないとしたこと。

    2点目は、伊藤さんによる体験の公表は、「公益性」と「公益目的」があり、山口さんの主張に反論するために、伊藤さん自身の言い分を明らかにするためだったと認め、山口さんへのプライバシーの侵害とは言えないとしたことだという。

    村田弁護士は、裁判所側が「性犯罪被害者の心理についてきちんと理解してくれた」と高く評価。こう結んだ。

    「判決の結果も嬉しいことですが、内容も非常に評価できると思っています。同じような裁判をしている被害者の人からしても、大変心強いもの。弁護士にしても、とても参考になるものではないかと思っています」

    「だから、裁判所に大変感謝しております」