青函トンネルはもう1本必要か 総工費3900億円、建設を願うのは誰?

    北海道と青森県を結ぶ輸送の要の横に、「第2青函トンネル」建設を求める動きがある。構想は実現するのか。国と交通ジャーナリストに聞いた。

    津軽海峡の海底下にあり、北海道と青森県を結ぶ青函トンネルの横に、「第2青函トンネル」を建設しようとする構想が持ち上がっている。

    北海道新聞によると、建設費は約3900億円、約15年の工期がかかるという。

    構想が現実になれば、北海道新幹線がより早く目的地に到着できる、悪天候で空路が断たれた時に役立つなどのメリットがあるという。

    一方で、ネット上では「建設費はどうせ跳ね上がる」「結局、使うのは飛行機」などと、建設に対して否定的な声もある。

    予算を注ぎ込み、何年もかけて建設する必要ははたしてあるのか。

    「建設会社や地元の人以外は、ほとんどが否定的な話をすると思います。本当に作りたいのならば、実現するためにどうすればいいか考えてみました」

    約40年、取材を続ける交通ジャーナリストの男性が、匿名を条件にBuzzFeed Newsの取材に答えた。

    140キロに速度を制限されている新幹線

    利点の一つとして掲げられているのが、昨年3月に開業した北海道新幹線(新青森ー新函館北斗)の速度向上だ。

    構想では延長57キロの”貨物向け”の単線にし、青函トンネルの西100~250メートルに設ける方針だ。

    そこに目が向くのは、トンネルの前後を含む82キロの区間で、新幹線が貨物列車と同じ線路を共用しているからだ。国土交通省によると、1日に新幹線が上下26本、貨物列車が定時運行で上下40本(臨時を含め最大51本)走っている。

    貨物列車とすれ違う時の風圧で、貨物が荷崩れしたり、脱線したりするのを防ぐため、新幹線には速度制限がある。本来ならば、最高速度260キロで走れるのに、区間内では貨物列車と同じ140キロに減速している。

    走るトンネルを別々にすれば、新幹線は260キロまで最高速度を上げられ、目的地への所要時間が短くなるだけではなく、利用率が上がるというのだ。

    立ちはだかる「4時間の壁」

    飛行機と新幹線のどちらを人が選ぶかは、目的地まで4時間かかるかどうかが分かれ目とされ、「4時間の壁」と呼ばれる。新トンネル建設は、この壁を突破する起爆剤としても期待されている。

    現在、北海道新幹線は、始発の東京から終点の新函館北斗まで、最短でも4時間2分かかる。札幌へはここから、さらに3時間以上を要する。飛行機と利用客を奪い合うために、区間内の速度制限がネックになっていた。

    国土交通省もその問題は認識している。ワーキンググループでは、4時間を切るため、トンネル内に貨物列車が走る時間を1日2時間削減し、新幹線のスピードを時速260キロまで上げる計画し、実行に移す。だが、それでも3時間45分ほどかかる。しかも、本数は1日1往復しかない。

    他にも、貨物列車とすれ違う時に新幹線が自動で減速する案や、貨物列車を積んで走る車両を作る案などもあったが、最善策とはならなかった。

    悪天候による事故や欠航

    建設を後押しするもう1つの論点が、「いざという時のための備え」だ。

    「北海道新幹線や青函トンネルに、何か問題が起きた場合にも使えるという名目で進めるのが良いのではないでしょうか」

    昨年12月には、北海道に雪が降り続いた影響で、新千歳空港などで欠航が相次ぎ、混乱が起きた。北海道新聞によれば、2月8日に、排水や換気に使う「先進導坑」にゆがみが発生したという。

    こうしたことを背景に、万が一、悪天候で空路が断たれたり、青函トンネルに問題が起きたりしてもトンネルが2本あれば大混乱は避けられる、という考え方だ。

    もともと青函トンネルも、天候に左右されずに人や貨物を安定的に輸送するのが狙いだった。1954年、本州と北海道を結ぶ輸送の要だった青函連絡船が、台風によって転覆・沈没し、1000人以上が命を落とした。この国内最大の海運事故が、構想の実現へと大きく動かした。

    本州と北海道を繋ぐ交通網の安定は、今も昔も変わらない課題だった。

    第2青函トンネルの建設を願うのは

    構想を示しているのは、国や自治体ではない。鹿島建設や大成建設ら大手ゼネコン、コンサルタント会社などからなる「鉄道路線強化検討会」という組織だ。

    「ゼネコンは仕事がほしいので、構想を持ち出したのでしょう」

    BuzzFeed Newsは、鹿島建設と大成建設に建設の意義について問い合わせたが、どちらの広報担当者も「個別の案件になるので、答えられない」と返ってきた。

    建設費が跳ね上がる恐れは

    試算された約3900億円の建設費は、妥当な数字か。

    2020年の東京五輪・パラリンピックの施設は、当初より金額が高くなり問題になっている。青函トンネルだって計画段階から上がった。

    ネット上には「どうせつり上がる」と疑う声が多い。交通ジャーナリストの男性は、こう述べた。

    「建設費は、いますぐ着工したときの金額です。数十年先に何があるかわかりません。この額は空論だと思います」

    それでも新たなトンネルへの期待もある。建設するにはどうすればいいのか。

    「地元が一刻も早く期成会を作り、青函トンネルを所有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構が主体にならないと。国や函館市など自治体を説得することが必要です」

    国交省「青函トンネルだけで間に合う」

    国は構想をどう捉えているのか。BuzzFeed Newsに、国交省の担当者はこう話す。

    「青函トンネルの共用走行問題を解消するよう検討を進めているだけで、新たなトンネルの建設は考えていないし、議論にもなっていません」

    北海道新聞によれば、新幹線の札幌延伸10年後に青函トンネルが大規模改修されるという話がある。しかし、担当者は断言した。

    「そんな話は聞いていません。日頃からメンテナンスをしており、改修のために新たなトンネルが必要という考えもありません」

    様々な当事者の思いが交差する、第2青函トンネル。現在のところ、先行きは見えていない。