疑惑の「桜を見る会」の見直し→中断に「論理の逆転」との指摘も

    来年以降の開催中止が発表された「桜を見る会」。この会のあり方の検討や見直しを「見送る」という方針に、疑問を呈す声があがっている。

    菅義偉首相が9月16日、安倍政権下でさまざまな疑惑が持ち上がり、批判されてきた「桜を見る会」の来年以降の開催中止を発表した。

    桜を見る会のあり方について、菅首相は官房長官時代に「大いに反省」と述べ、招待者の選定基準や予算などを検討し、見直す考えを示していた。

    しかし、加藤勝信官房長官が17日の定例会見で、見送る方針を明らかにしたことに、疑問を呈す声があがっている。

    桜を見る会は、首相が主催し、毎年春に開催される恒例行事となっていた。

    各界において功績、功労のあった方々を招き、日頃の御苦労を慰労するとともに、親しく懇談する内閣の公的行事」とされている。

    歴史は古く、1952年に始まったが、安倍政権時代に予算や出席者が膨れ上がり、安倍晋三前首相の地元後援者の招待や、安倍昭恵夫人の推薦枠や自民党枠などが存在したことから「私物化」という指摘もあがった。

    検討や見直しをすると明言

    世論の批判や野党の追及などを受け、官房長官時代の菅氏が2019年11月13日、2020年度の会の中止を発表。このように語っていた。

    長年の慣行で行ってきているものだが、さまざまな意見があることを踏まえ、政府として、招待基準の明確化や、招待プロセスの透明化を検討したい。予算や招待人数も含めて、全般的な見直しを幅広く意見を聞きながら行うこととし、来年度の桜を見る会は中止をすることにした。

    同月20日の衆議院内閣委員会においても、会の中止について言及し、「大いに反省をして」検討や見直しをすると明言。「しっかり検討する時間が必要ということで、来年の開催は中止すべき、これは総理のご判断であります」と語っていた。

    招待基準の明確化や招待プロセスの透明化を検討して、予算や招待人数も含めて全般的な見直しをする。

    それには時間が必要だから、2020年の開催は中止する。こう述べられていたが、菅首相は2020年9月16日、首相就任後初めての記者会見で、2021年以降の桜を見る会の中止も発表した。

    桜を見る会。このこともいろいろなご指摘をいただきました。安倍政権発足以来、政権が長くなる中で、多くの方が、招待客が多くなったことも、これは事実だというふうに思っています。また、最近、この会の在り方についてもいろいろご批判があります。私、総理大臣に就任をして、この機に、やはり来年以降、今後は桜を見る会、こうしたことは中止をしたい、このように思っております。

    開催中止で、検討や見直しは中断に

    その翌日午前、加藤官房長官は会見で、桜を見る会について「総理は来年以降、少なくとも菅総理の在任中はやらない。こういうことを申し上げたというふうに私は認識しています」と補足した。

    そして、報道陣から「桜を見る会に関して、政府はあり方について検証するという方針を示したと思いますが、検証については改めて行うという理解でよろしいのでしょうか」と問われると、「中断」する考えを示した(以下、発言ママ)。

    現状においてはですね、桜を見るあり方について、検討するということをこれまで申しげてきたわけですけれども、今回のコロナに対する対策、あるいはそれに対する経済活動といったこともございますので、そういった中で、なかなか全般的な見直しを行うことは現在は難しい状況にはあると思います。

    そういった中で先ほど申し上げた総理が発言をされたというわけでありますので、その中止っていうことでありますから、この内閣ではやらない、したがってそのあり方云々といってもやらないということが前提になってきますから、なんて言いますか、その検討自体についてこれまで項目もあげていくつかやってきていますけれども、方針としてやらないということでありますから、じゃあやらないことを前提にどういう点を検討するのか。その検討ってこれから先についての検討ってことでありましたから、それは総理の昨日の判断で一つの結論が出ているのではないかなという風に思います。

    つまり、新型コロナウイルスへの対応から、全般的な見直しをするのは現状では難しい。さらに、菅首相が在任中、会を開催しないと決めた。開催しないのが前提であるのに、何を検討するというのか。菅首相の「中止」という判断で、もう検討や見直しをする必要はない、との考えだと聞き取ることができる。

    そして、午後の定例会見で「検証はどのようにされるつもりか」と報道陣から問われると、「すでに検証は終わっている」との認識を示した。

    「そこは2つあるんだと思います。過去の検証という話、これからに向けてどうやっていくのかという話。その後者の件については、あり方はやることを前提にするわけですから、今回、菅総裁の任期中はやらないという判断をされたわけですから、当然、そこの作業を進めていく必要性はなくなったというふうに思います」

    「一方で、検証のお話がありましたけれども、それについては必要な調査をすでに行なっていて、国会の場においても当時の官房長官をはじめ、それぞれから答弁があったというふうに認識しております」

    検討と見直しの中断をどう見るのか

    加藤官房長官によるこの答弁について、国会審議の監視活動を続けてきた、法政大学の上西充子教授は「加藤官房長官は論理を逆転させています」と問題視する。

    「『当たり前でしょ』と言わんばかりに、今後、検討は必要がないという見方を示しました。ですが、今回の発言は、過去の答弁と矛盾するとまでは言えないけれど、過去の答弁の趣旨とは矛盾します」

    加藤官房長官が「必要な調査をすでに行なって」「答弁した」と述べたが、上西教授は「検証は不十分」で、会を中止しても、「『大いに反省』したうえで、検証は必要」との立場をとる。

    「大いに反省し、しっかり検討するために時間が必要だから、2020年については中止する、というのが元々の話だったのが、来年以降も中止するのだから検討の必要性はなくなった、と論理を逆転させているんです」

    「どういう問題があったか、なぜそういう問題が生じたのか、政府としてきちんと検証して報告書を出すべきです。開催しないのだから必要ない、との姿勢を看過すべきではありません」

    この件について、日本共産党の志位和夫委員長は「問われているのは、すでに『やった』という事実は変わらないということであり、その検証・解明が必要だということです」とTwitterで指摘した。

    また、毎日新聞によれば、立憲民主党の枝野幸男代表は「臭いものにふたをするのではなく、しっかりと明らかにしていってほしい」と語ったという。

    桜を見る会をめぐる問題は、これで幕引きとなるのだろうか。会の中止によって疑惑が解消するわけではない。

    なぜ菅政権下で会を開催せず、検討も見直しも必要ない、との方針に変えたのか。新型コロナウイルスの対応で難しいのであれば、収束後はどうか。

    9月18日には、磁気治療器などの預託商法を展開し、破産した「ジャパンライフ」の元会長らが詐欺の疑いで逮捕された。

    NHKによれば、元会長が顧客を勧誘する際に、桜を見る会の安倍前首相からの招待状が使われ、首相の推薦枠と思われる番号が記載されていたという。

    立憲民主党など野党側は「被害者の多くが、山口元会長から桜を見る会の招待状を見せられて信用し、被害が広がった」と指摘。政府に事実関係の再調査を求める意見が相次いだという。

    一方、菅首相は9月16日の会見で、こう述べている。

    安倍政権に様々なご指摘をいただきました。客観的に見て、やはりおかしいことは直していかなければならない、こう思います。今後、ご指摘のような問題が二度と起こることがないように、謙虚に、そしてみなさんの声に耳を傾けながら、しっかり取り組んでいきたいというふうに思っています。