震災の爪痕はあえて撮らない 若き写真家が捉えた絶景の数々

    「僕にできることは絶景を撮ること」

    美しいと思った場所の匂いや空気感。そして、そこで僕が感じたことを写真を通して伝えたいー。

    震災があったとはわからない熊本の風景を撮影する一人の若き写真家がいる。彼はあえて「爪痕」を写さない。

    「暗い写真が好きではなくて。悲しい気持ちにさせるのではなく、明るい写真で人の心を癒したい。ほっとした気持ちになってもらいたいんです」

    BuzzFeed Newsにそう話すのは、熊本県長洲町で暮らすフォトグラファーの木之下央貴さん(28歳、@underthe2ree)。Twitterに熊本の絶景を日々投稿している。

    本業はカフェの店員。休日の前夜から車を走らせると、木々や川、滝が見せる絶景を求め、自然を歩き回る。「絶景を見ると、疲れが吹き飛びますよ」。

    木之下さんは「あの緑が良い」など、被写体を目の前にして抱いた「感覚」を伝えることを大切にする。しかし、言葉や無加工の写真ではどうしてもうまく表現できない。

    そのため、写真の色彩を細かく調整している。「色彩は主観的感覚を表現するための道具」だと考えるからだ。

    そんな木之下さんには、忘れられない絶景がある。2015年、「天空の道」「ラピュタの道」などと呼ばれる阿蘇市道狩尾幹線で見た雲海だ。

    「夜の静けさの中で見た雲海が忘れられないですね。その場にいたおじさんにも『相当ラッキーだよ』と言われました。今思うと、あのレベルの雲海は最初で最後です」

    もう一度、「天空の道」であの絶景を見たい。けれど、その願いは叶うかわからない。2016年4月に熊本地震があったからだ。甚大な被害が発生し、市道の入り口は封鎖され、廃止も検討されている。

    木之下さんも被災者の一人。震災を忘れることはできない。「爪痕が色濃く残る姿を見ると今でも心が痛みます。復興にはまだまだ時間がかかるという思いもある」

    写真を撮りに出かける森の中も大きな被害が出た。倒木や落石のほか、崩れ落ちた小屋もある。絶景は姿を変えた。

    それでも、あえて震災の爪痕を撮ろうとはしない。なぜか。

    「僕以外の方が震災の爪痕は撮られているし、メディアでも取り上げられている。なので、僕にできることは絶景を撮ることだという思っています」

    10月6日、自身の写真販売サイト(https://underthe2ree.theshop.jp/)を開設した。

    「これからは熊本の自然に限らず、他県や世界でも撮影したいです。いつか熊本を代表する写真家になりたいですね」

    木之下さんがカメラを本格的に始めたのは、2014年。たった3年しか経っていない。写真と熊本の風景が好きで好きで堪らない。そんな気持ちが、それぞれの写真に込められ、技術を磨き上げている。

    BuzzFeed JapanNews