国の天然記念物で、絶滅が危惧されるジュゴンの1頭の死骸が、沖縄本島北部の今帰仁村(なきじんそん)の沖合で見つかった。
これを受け、「パヨクに撲殺されていたことが判明」とする、まとめサイトによる記事がネット上で拡散している。
しかし、それは根拠のない真偽不明の情報だ。県やジュゴンの保護団体らも「死因特定はこれから。根拠がない」とBuzzFeed Newsの取材に語る。

見つかったジュゴンは雌で、通称「個体B」。
3月18日午後5時ごろ、沖縄県今帰仁村の運天漁港の防波堤近くで浮いていたのを、今帰仁漁業協同組合の組合員が見つけた。連絡を受けた同漁協の組合員らが陸揚げし、死亡を確認したという。
運天漁港に近い古宇利島(こうりじま)沖を主な生息域としていたジュゴンだった。
体長約3メートル。頭部や胸びれなどに傷があり、出血もあった。
まとめサイトが「判明!」と拡散

拡散している記事の見出しは「沖縄で死んだジュゴン、パヨクに撲殺されていた事が判明!!!」。まとめサイト「あじあにゅーす2ちゃんねる」によるものだ。
「パヨク」とは「左翼」を指すネットスラングだ。
沖縄県の米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古への「移設反対派」がそう呼ばれることも多い。
反対派は、海に生息するジュゴンを守りたい、との理由も掲げている。

根拠がまったくない記事
同サイトでは、琉球新報の記事「生息精査、国に求める 漁協、保護団体 ジュゴンの痛々しい姿に『残念』」を転載している。
しかし、元記事には見出しにとっているような「反対派による撲殺」などの言及は一切なければ、「撲殺」のソースも明示されていない。
さらに、「沖縄で死んだジュゴンに深い傷と出血 死因は頭部外傷か」とも指摘したが、これも元記事には掲載されていない話だ。
そもそもジュゴンの死因はまだ特定されていない。
それにもかかわらず、記事のコメント欄には、こんな言葉が並んだ。
「パヨクついにライン超えたな」「まあパヨクの船ガツーンだわな」「結局パヨクの仕業だったのか」「あれれ~?犯人わかっちゃったんですけど」「うっわ!最低だなパヨクwwwwww」...。

この記事のシェア数を計測ツール「BuzzSumo」で調べると、3月22日午後5時現在、シェア数はFacebookとTwitterで3600件を超える。
また、Twitterで、この記事を「あーこれでもうジュゴンの件は報道されなくなるな」とのコメントとともにシェアした投稿は、3700件以上リツイートされている。
ツイートには、批判が多く寄せられているが、「自作自演が大好きな方々だからね」「うそ。マジで???」とのコメントもある。

ジュゴンを確認した保護団体「根も葉もない情報」
死骸を確認した人たちはどう思うのか。BuzzFeed Newsは、問い合わせた。
今帰仁漁協の担当者は「全体的に深い傷は見つからなかった」と話す。
「何が原因で死んだのかわからない。こういう形で見つかって残念です」と肩を落とした。
沖縄県自然保護課の担当者はこう言う。
「私が見た限りでは、サメにかじられたとか、大きな傷は見えませんでした。たしかに傷はあったが、死亡したあと、漂流して岩などに擦れた可能性も考えられます」
「死因の特定はこれからなので、なにを根拠に撲殺と言っているのかわかりません。死因の根拠が、まだない状況です」

ジュゴンの保護活動と、生息海域の保全をしている「ジュゴンネットワーク沖縄」の細川太郎事務局長も死骸を確認した一人だ。当時の状況をこう語る。
「ところどころに傷があり、血がにじみ、皮がはがれているのを確認しました。その中には、野生で生きていたらできる古い傷や、死後の漂流中にできたのではないかと思われるものもありました」
「ただ、そうやって見る限りで、死につながるような外傷は確認できませんでした」
細川さんは、死因の調査作業はこれからで、解剖をしたからといって必ず死因が特定できるわけではない、としたうえで、当該記事を「根も葉もない情報」だと批判する。
辺野古の土砂投入のせいとの声もあるが…

一方で、ジュゴンが死んだのは「辺野古への土砂投入によるもの」とする人もネット上にいる。細川さんは、それについても間違っていると話す。
「土砂は、このジュゴンが生息していた西海岸から船で運ばれています。だから、衝突の危険もあるし、静かな環境を好むジュゴンにストレスがかかるなど、生活に影響を与えているのは確かです」
「でも、運搬作業や実際の土砂投入が直接の死因になったかは断定できないし、根拠がありません」
だからこそ、こう呼びかける。
「どんな情報でも、事実を確かめずに鵜呑みにしないで。根拠のない情報に振り回されないでほしいです」
今帰仁村によると、沖縄県と協議し、死因の調査をどう進めるか決定するという。