日大アメフト問題で前監督とコーチの民事・刑事上の責任は 弁護士が解説

    この状況が企業だった場合はどうなるのか。指示を受け、他人にけがをさせるという行為は誰の責任になるのか。

    アメリカンフットボールの定期戦で、日本大学の選手が関西学院大学の選手に後ろからタックルして全治3週間のけがを負わせた問題。

    日大の選手(20)が5月22日に記者会見し、内田正人前監督と井上奨コーチからの指示があったと明らかにした。

    一方、内田前監督と井上コーチは翌日に緊急会見し、意図的な指示はなかった、と改めて否定した。

    この状況が企業だった場合、パワハラに当たるのか。指示を受け、他人にけがをさせるという行為は誰の責任になるのか。BuzzFeed Newsは弁護士に話を聞いた。

    まず選手の主張を紹介する

    この選手は冒頭で頭を下げて謝罪し、悪質なプレーに及んだ経緯を説明した。

    試合の数日前から「やる気が足りない」などの理由で練習に参加させてもらえない状況にあり、当時は試合に出たい一心だったという。

    「試合前日の練習後、井上コーチから『お前をどうしたら試合に出せるか監督に聞いたら、相手のクオーターバックの選手をワンプレー目でつぶせば出してやる』と言われました」

    「『クオーターバックの選手をつぶしに行くので使ってください、と監督に言いに行け。相手がけがをして、秋の試合に出られなかったらこっちの得だろう』と言われました」

    そして5月6日の試合当日。メンバー表に自分の名前がないのに気づくと、コーチに「今、言ってこい」と話され、内田監督に「クオーターバックの選手をつぶしに行くので使ってください」と言った。すると「やらなきゃ意味ないよ」と返されたと述べた。

    パワハラにより違法な行為をさせた事案と同様

    リスク管理に詳しい早川明伸弁護士は、今回の件について「企業内で上司が部下にパワーハラスメントにより違法な行為をさせた事案と同様です」と話す。

    悪質なタックルをした選手と内田前監督、井上コーチの3人はいずれも民事上、刑事上の責任を問われる可能性があると指摘する。

    「ある企業が、役員による『チャレンジ』という命令のもと、部下が架空売上をせざるを得ない状況に追い込んだのと全く同じ事案と言えます」

    民事では

    被害を受けた選手は、3人に対して損害賠償請求をする可能性が考えられるという。

    さらに、日大が損害賠償請求をされるケースもあり得る。

    日大に対し、今回の悪質な指示をした内田前監督と井上コーチを法人として配置した責任、または井上コーチの使用者としての責任を主張することができるという。

    刑事上の責任は

    一方で、刑事上の責任はどうなのか。

    被害を受けた選手は、被害届を警察に提出している。

    それにより、捜査機関はタックルをした選手が傷害罪に該当しないか捜査することになる。

    ただ、早川弁護士によると、被害選手が加害選手の真摯な謝罪を受け、罰してほしいという感情がない場合、捜査機関は起訴しないとも考えられる。

    2人も刑事罰を受ける可能性も

    さらに、内田前監督や井上コーチも捜査の対象になることが想定される。

    けがをさせるという実際の行為をしていなくとも、計画や命令などをした場合に罪に問える「共謀共同正犯」、または犯罪をするようにそそのかす「教唆」が成立する可能性があるからだ。

    そのため、「けがをさせるように指示をしたのかどうか」が徹底的に捜査される。起訴されるかどうかは、第三者が2人の指示を見聞きしていたかどうかがポイントとなるという。

    はじめに真摯な対応をしていれば

    早川弁護士は、内田前監督や井上コーチを含む日大側が、被害選手や相手チームに対して、はじめに真摯な対応をしていれば、ここまで社会問題化せず、法的な話にも発展しなかったのではないかと考えている。

    初期の対応が原因で問題が膨らんだ「典型的なケース」と語る。

    そして、その根本原因は、内田前監督が作り上げたチームの風土によるものではないか、と企業の話を例にして次のように投げかける。

    「企業でもトップがノルマ達成、納期優先を徹底するあまり、社員が強引な営業やデータ改ざん、架空売り上げの計上などの不祥事を起こす企業風土を作り上げます」

    「このような企業風土の会社は不祥事の発覚後、不正の隠ぺいにまで手を染める可能性があります」

    「監督絶対主義」

    企業では社外役員などがそうしないよう防ぐ役割を果たすが、大学のアメフト部では事情が異なるのではないかという。

    大学のチームは、「監督絶対主義」のもと、監督に意見を述べる大人がいない可能性があるためだ。

    「しかも、組織のメンバーは大学生であり、精神的にまだ未熟な若者の集まりです。その中で監督に反旗を翻すことは事実上不可能な状況でしょう」

    事実、選手に報道陣から「監督やコーチはそれだけ怖い存在だということか」という質問が飛ぶと、「はい」と静かに頷いた。

    そして「監督やコーチとは、なぜですか?とか意見を言えるような関係ではなかったです」と答えた。

    試合に出るためには、歴然とした上下関係に逆らうことは許されなかったようだ。

    今回の件で、1人の若者の選手生命が奪われようとしている。この選手は、退部の意志を大学側に伝えている。

    「監督とコーチからのプレッシャーがあったにしろ、プレーに及ぶ前に正常な判断をすべきだった」。彼は会見でそう反省の言葉を述べ、自らを責めた。

    「アメフトを続けていく権利はないと思っている。この先、アメフトをやるつもりもありません。今のところ、何をしていくべきかもわからない状況です」

    対する内田前監督と井上コーチは緊急会見で「潰してこい」などの発言を認めたものの、言葉の解釈の違いだったと選手を突き放した。

    負傷させる目的はなく、「思いっきりプレーしてほしいという意味だった」というのだ。

    内田前監督はこの選手にも「非常に申し訳なく反省している」「選手としてもっと活躍できる。我々の責任だが戻ってきてほしい」と話したが、その姿勢への社会の批判は多い。

    早川弁護士は最後に言った。

    「監督・コーチが大人として、スポーツを通じて人格教育をしていく場が大学スポーツの原点だと思います。この原点を大学や監督、コーチは、今一度考えるべきケースだと思いました」

    BuzzFeed JapanNews