イスラム教徒にまた豚肉。東京入管が講じた異例の再発防止策とは?

    元都議会議員の驚きの発言で、議論が加熱

    東京入国管理局横浜支局が、収容しているイスラム教徒の男性に宗教で禁じられている豚肉を誤って提供した。宗教の禁忌に触れたこの問題が、波紋を広げている。

    「ハムの混入に気づかなかった」

    BuzzFeed Newsが、東京入管横浜支局に取材したところ、問題の経緯はこうだ。

    8月3日の夕食で、ひじきの煮物が出た。この中に5ミリ四方の豚肉のハムが混入していた。別の収容者に提供されていたハムのソテーの一部と見られ、「本来入っているはずのないもの」(入管)だった。

    入管職員は、豚肉が入っていることに気づかないまま、この夕食を入管に収容中のパキスタン人の男性(48)に出した。イスラム教徒である男性は、煮物を口に含んだ後、豚肉の存在に気付いた。

    昨年8月には、別のイスラム教徒の男性に、ベーコンが混入した食事を誤って提供するミスが発生。検品の強化とともに、1日3食の食事の調理を委託する横浜市内の業者に混入を防ぐように申し入れ、再発防止策としていたという。だが、その1年後、再びミスが起こった。

    横浜支局総務課の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に「確認不足が問題を招いた」と話した。

    男性は、入管法違反による退去強制手続きのため、数ヶ月前に収容された。その日から、動物の種類を問わず、肉を含まない食事を要望していた。

    それに応えるため、支局は業者と連携し、対応してきたという。イスラム教徒だけではなく、様々な背景のある人たちを収容する入管では、このような要望は少なくない。

    問題発生の翌日から男性は、抗議の意志を示すため、支局の給食を拒否。自ら購入した水、ハチミツ、栄養剤だけを口にするハンガーストライキを続けている。

    支局は「体調には問題ない」と説明しているが、1ヶ月に及ぼうとしている。この問題はパキスタンのメディアでも報じられている。

    今回の件を受け、支局はBuzzFeed Newsの取材に「さらに厳しい再発防止策を始めた」と説明している。肉を含めない食事を希望する収容者全員を対象に、料理一品一品の盛り付けを崩し、肉がないか調べた後、提供しているという。

    物議を醸した元議員「日本に来るべきではない」

    イスラム法では、豚肉や酒を禁じている。また、食べるのを許されている動物であっても、絞殺や撲殺が許されないなど殺し方にまで決まりがある。

    支局では、法務省による省令「被収容者処遇規則」に従い、収容者の宗教にも配慮した食事を提供してきた。

    (生活様式の尊重)
    第二条  入国者収容所長及び地方入国管理局長(以下「所長等」という。)は、収容所等の保安上支障がない範囲内において、被収容者がその属する国の風俗習慣によって行う生活様式を尊重しなければならない。

    それに対し、日本のこころを大切にする党の元都議会議員、吉田康一郎氏が、FacebookやTwitterで自らの意見を述べた。

    「豚肉を食べる恐れがある事がどうしても嫌ならば、そもそも日本に来るべきではない」

    「入国カードに『外国人に対し、他国の禁忌に基づく食料を提供する義務を負わない』旨を記載し、それを承諾した外国人にのみ入国を許可するべき」

    この発言に、批判が殺到した。

    元東京都議が、ムスリムについてこう公言しています。 「豚肉を食べる恐れがある事がどうしても嫌ならば、そもそも日本に来るべきではない」 ã“ã†ã„ã†ç™ºè¨€ã‚’æ”¾ç½®ã—ã¦ã€äº”è¼ªé–‹å‚¬éƒ½å¸‚ã®è³‡æ ¼ãŒã‚ã‚‹ã¨æ€ã„ã¾ã™ã‹ï¼Ÿ 世界の4分の1を敵に回しています。 https://t.co/P4b5H82yIa

    それに対して吉田氏は、”補足”を投稿。

    その様な、配慮して出したつもりの食べ物が、知識不足で実は禁忌に触れていた、それを口にしてしまった、というケースの恐れ、という意味です。「豚肉を食べる事が嫌ならば」ではありません。

    吉田氏は、改宗ムスリムの日本人からの「私についても外国人ムスリム同様日本を出るべきだとお考えですか?」という質問に対して、こう返す。

    「個人が豚肉を禁忌とする事は自由です。その禁忌に基づく食品の提供を我が国官民に義務付ける事に反対だと言ってるのです」「国籍について血統主義である我が国において、外国人と日本人の権利が異なる事は当然です」

    さらに、イスラム教の知識があるとして、こう付け加えた。

    「私は共産党独裁中国政府から弾圧されているイスラム教徒であるウイグル人の支援活動に長年取り組み、イスラム教については一定の知識を有している事を申し添えておきます」

    「宗教を尊重するのは当たり前の話」

    BuzzFeed Newsは、仮放免者の在留資格を求めて活動する「仮放免者の会」の永野潤さんに話を聞いた。吉田氏の意見にこう反論する。

    「東京五輪を控える中、今後、日本を訪れる外国人がさらに増えるというのに信じられません。国際社会と逆行する発言ではないでしょうか。吉田さんの発言に対するネットの反応を見ても、『自己責任だ』『郷に入れば郷に従え』と賛同する人も多く、悲しくなります。まず、収容者には個々の事情があって、全員が悪いことをしたのではないと理解してほしいです」

    この会は、8月17日に男性の健康への配慮や、具体的な再発防止策を求める申入書を支局に提出している。

    「支局は検品を強化するというが、しっかりとした業者に変える判断はできないのでしょうか。昨年の問題の時も、今回の業者と同じでした。このままでは改善できるとは思えません」

    永野さんは、宗教への配慮に関して、こう呼びかける。

    「男性は尊厳を傷つけられ、支局をもう信用できずハンガーストライキをしています。同じ過ちを二度と繰り返してほしくないと訴えるためです。宗教を尊重するのは、当たり前の話ではないのでしょうか。日本が”おもてなし”をアピールするなら、なおさらです」

    世界のムスリム人口は、 2030 年に83 億人に達すると想定される世界人口の26%超を占める見通し。訪日するムスリム観光客も右肩上りで増えている。

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