スーツ業界に暗雲が漂う。
ビジネスシーンでは、ジーンズやポロシャツなどを着用するカジュアル化が進み、仕事での装いはもはやスーツが当たり前ではなくなってきている。
「高度経済成長を支えた人や団塊の世代の人たちがリタイアし、スーツを着るシーンが減ってきているのが現状です」
BuzzFeed Newsにそう話すのは、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さん。これまでユニクロや楽天、明治学院大学のロゴなど、誰もが一度は目にしたことがあるだろう作品を生み出してきた。
業界に起死回生の波をもたらそうと奮闘する佐藤さんは、いま何を思うのか。
スーツに対するニーズの変化
スーツ業界が苦しんでいるのがわかるデータの一つが、総務省の家計調査にある。1世帯あたりの背広服への支出金額は、多少の増減を繰り返すものの全体的に右肩下がりになっている。
ファッションのカジュアル化に加え、団塊の世代の引退、少子化などが、スーツ市場全体の売上の減少に拍車をかける。
スーツの需要が減ってきている昨今、佐藤さんはこう見る。
「ITが進化し、働き方やそれに対する価値観が変化しました。それと同時にスーツに対する考え方もどんどん緩やかに変わってきました」
かつて、スーツを買い求めるならばオーダーメイドだった。だが、次第にスーツ専門店が展開する大型店舗に来店し、大量生産によって低価格に抑えた既製品を買うのが主流になった。
その流れがまた変わってきた、というのだ。
「今の時代は、すごく変わった服がほしいわけではないけれど、人と同じ服は嫌だと思う人が多いじゃないですか。同じデザインで『安ければいいや』というようなユニフォーム的な考え方は変わったと思います」
スマートフォンを活用した新たなオーダースーツブランド
そこで目をつけたのが、オーダーメイドのスーツだった。他人とは異なるデザインで、自分だけにぴったりフィットした一着は、どの世代にもニーズがある。
コナカは、新たなオーダースーツブランドのトータルプロデュースを佐藤さんに依頼。そして2016年10月、スマートフォンを活用するシステムを採用した「DIFFERENCE(ディファレンス)」が生まれた。
東京都の青山に1号店をオープンすると、売上が順調に推移して全国に20店舗を構えるまでに拡大。今後も全国で店舗数を増やす予定だ。
コナカの新ブランドは、若年層を中心とした消費者の心をつかんで見事に成功したという。
きっかけは、湖中謙介社長とのやりとりだった。
佐藤さんが、コナカの「SUIT SELECT(スーツセレクト)」のトータルプロデューサーを担った2007年当時を振り返る。
この年、佐藤さんとディスカッションをした湖中社長は、こう語ったという。
「オーダースーツ市場は、既存のオーダースーツにはない新しい形があるはず。だから、それを模索しながらやりたい」
可能性を感じた佐藤さんと湖中社長は、時を待った。そして転機は、約2年前に訪れる。
コナカのオーダー事業が、それまでを上回る売上を記録したのだ。
「今やるべきだ」
湖中社長は、佐藤さんにそう語ると、コナカの大きな柱となる全く新しいブランドの立ち上げを頼んだという。
他のブランドとの違いとは
ディファレンスは、高額で時間がかかるというオーダースーツのイメージを覆す。メンズ・レディスともに3万5000円から純国産のスーツを作れ、納期に要するのは最短で2週間だ。
初回は、店舗でプロのテイラーによる肩幅や袖丈などの採寸がある。2着目からは、もう来店する必要はない。その採寸データが保存されたスマホのアプリを使い、好みに合わせて生地選びやサイズの微調整、注文までできる。
佐藤さんは、他のブランドとの違いを一言で表す。
「『スマホでオーダースーツを作れる』です」
「今まで、アプリを使った気軽なオーダーサービス体験はできなかったと思います。ブランド名はコンセプトそのままで、ディファレンスでは人とは違うスーツを他のブランドとは全く異なる方法でオーダーできます」
「スーツで一番大事なのはサイズ」
なぜスマホだけで注文から受け取りまでのプロセスを完結させず、一度は、店舗に来店してもらいたいのか。
「(コナカの)商品のディレクションもするようになって気づいたのは、スーツで一番大事なのはサイズだということです。サイズが5ミリ違えば、見た目も着心地も変わる。どんなに良いブランドのスーツを着ていても、サイズが合っていなければ全然格好良く見えません」
「だから、店に一度は来て、プロに肩幅など必要なサイズを測ってもらい、信用できるデータを元にカスタマイズしたほうがいいと考えました。もう一着ほしければ、そのマイデータを使ってスマホで微調整もでき、店で試着する必要はありません」
スーツの生地は常に130種類。しかし店舗面積はあまり必要ない
店舗では、常に約130種類の生地のサンプルを用意し、ジャケットとパンツで違う生地を組み合わせられるなど、消費者のさまざまなニーズに応えられるようにしている。
多くの生地を用意する一方、ディファレンスでは、オーダーメイドだからこそ大きな店舗を必要としない。生地の見本を置いたり、スタッフと来店客が会話したりできるスペースを確保するだけでよく、配置する人員も少なくていいのだ。
だから、店舗を増やしやすい。近い将来、100店舗、売上高150億円、営業利益15億円の達成を目指しているという。
佐藤さんは、存続の危機に陥っていた愛媛県の「今治タオル」を全国区に押し上げ、復活へと導いた立役者だ。斬新なアイディアを具現化したディファレンスを今後、どのように前進させたいと考えるのか。
「リアルとバーチャルのバランスをどう取るかが、ディファレンスのポイントです。アプリをより使いやすく進化させ、全国でこのオーダー体験をもっと増やしていきたいですね」
「似たようなブランドが出てくるのは、当然の宿命でもあります。ディファレンスが常に最先端のオーダースーツ体験を提供できるよう、もっともっと挑戦を続けていきたいです」