「スマートフォン」という耳慣れなかった言葉を浸透させたiPhone。
日本に上陸したのは2008年7月11日だった。
当時、新聞各社はどのように歓迎し、どう批評したのか。朝日、読売、毎日、産経の4紙を読むと、「衝撃」「待ちわびた」「旋風」といった見出しが躍っていた。
ソフトバンクモバイルからiPhoneが発売される、と新聞各社が報じたのは、2008年6月5日だった。
朝日は「好調なソフトバンクが、欧米で大ヒットした機種を手にして、最大手のNTTドコモに挑む。日本でも、メーカー主導の携帯販売が広がるきっかけになるのか」との考察を加えた。
日本の携帯電話市場は、携帯電話会社が通信網の敷設からサービスの提供、端末開発・販売まで一手に担っていたからだ。
そんな世界市場と異なる形で発展を遂げたことから、独自の生態系を育む太平洋上の島になぞらえて「ガラパゴス」と皮肉をもって表現されていた。
「ガラパゴス携帯(ガラケー)」と言われる所以だ。
iPhone上陸をきっかけに、携帯電話会社ではなく、メーカー主導の開発・販売が進めば「新機能やサービスの競争が広がる可能性がある」(朝日)とされた。
iPhoneの「弱点」とは
日本独自の進化を遂げたガラケーは、iPhoneにはない機能をそろえていた。
それが、携帯向け地上デジタル放送「ワンセグ」機能や電子マネー、絵文字などだ。毎日はそれらの機能がないことをiPhoneの「弱点」と表現した。
また、日本にはメール文化が浸透し、打ちやすさを追求したボタン入力方式が普及。iPhoneの有するタッチパネル方式を「操作しにくい」「日本のユーザーには使いにくい」「欠点に挙げる声も多い」とも紙面に書いた(読売、毎日)。
そうした点から、新聞各社は、関係者の意見を含めて、こんな見方を紹介した。
「iPhoneの競争力に不透明な部分も残る」「需要は限られるのでは」(朝日)、「日本市場で爆発的に普及するのは難しいのではないか」(読売)、「消費者が雪崩を打つとは考えにくい」(毎日)、「獲得するシェアは数%止まり」(産経)。
拭えない「脅威」
ただ、決して楽観視していたわけではない。新時代を感じさせるiPhoneは、国内端末メーカーにとって「脅威」であるのは間違いなかったからだ。
毎日は「『ブランドや流行に敏感な女性や、音楽好きの若者の支持を集めそう』(関係者)との声は多い」と紹介。
各メーカーの間では「『シェアを奪われる』と戦々恐々だ」(毎日)、「脅威論が広がりつつある」「国内勢にさらなる再編・淘汰を迫るかもしれない」(産経)とそれぞれ書いた。
発売2日前の7月9日。各社は11日正午から「iPhone 3G」が発売されると報じた。
そして、当日を迎えた。徹夜組を含め1500人以上が並んだ(朝日)という。
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、「これほど人々に感動を与える商品は、歴史上あまりないのではないか」と興奮した様子で聴衆に語りかけた。
朝日は「成長に陰りが見える国内携帯市場への刺激となるのか」と綴った。産経は「アイフォーン狂騒」との見出しで紙面を飾り、次のように評価した。
同社(ソフトバンクモバイル)とアップルの巧みな販売戦略によって、各地の販売店で熱心な購入希望者が行列を作るなど異例の盛り上がりをみせた。ただ商品を入荷できない店舗もあり、客の間では情報が錯綜(さくそう)するなど混乱を招いた。今後の供給力にも不安が残る。型破りのアイフォーン商戦は、光と影を織り交ぜての船出となった。
米国では昨年の発売後、半年で販売ペースが減速した。日本ではおサイフケータイや絵文字が使えず、月額利用料が高いこともあり、今後は人気の持続力が問われることになる。
期待と疑い
iPhoneは、携帯電話の新たな発展への起爆剤として期待された。それだけでなく、日本では成功しないのではないかといった懐疑的な意見とともに、上陸まで見守られていたことがわかる。
事実、国内の市場に大きな変革をもたらした。現在、ドコモ、au、ソフトバンクの各キャリアから発売されている。
MM総研によれば、2017年度の国内におけるメーカー別出荷台数シェア1位はAppleで、2012年度以降6年連続1位を獲得した。総出荷台数に占めるシェアは、43.4%だったという。
「数%のシェアにとどまる」といった予想は大きく外れた。
Appleは日本時間9月21日、新型iPhoneの「XS」と「XS Max」を発売。「弱点」とされた電子マネー機能や絵文字も当たり前の存在だ。
一方で、米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の普及も、スマホ時代の流れを大きく後押ししている。国内の各メーカーはiPhoneに対抗するように、機能に磨きをかけたスマホを続々と市場に出している。
上記の調べでは、スマホのシェア率は全体の87.0%。ガラケーが支持されていたからこそ、時代の終わりを、新聞各社は予想しきれなかったのだろう。