ジャーナリストの伊藤詩織さんが、杉田水脈衆院議員(自民、比例中国ブロック)を相手取って提訴している。
自身を誹謗中傷する内容が記された多くのTwitterの投稿に対し、「いいね」を押されたことで精神的苦痛を受けたなどと主張。損害賠償を求めている。
Twitterの「いいね」はどういった使われ方をしていて、人は自分以外のユーザーの「いいね」をどう受け止めるのか。拡散効果はあるのか?
伊藤さん側からの依頼を受け、評論家の荻上チキさんと社会心理学者の高史明さんが調査した。
2人は調査会社を通じてオンラインのアンケート調査を実施。340人の有効回答から様々なことがわかったという。
Twitter社は、「いいね」についてサイトのヘルプセンターで「ツイートに対する好意的な気持ちを示すために使われます」と説明。調査で明らかになったのは、主に以下の点だ。
- ツイートに「いいね」すると、他のユーザーがそのツイートを見る機会を増やし、拡散効果がある。
- Twitter社の意図と同じで、多くのユーザーが「面白い」など肯定的な感情を理由に「いいね」をしている。
- 自分以外のユーザーについては、「面白い」など肯定的な感情を理由に「いいね」していると考える傾向はさらに強かった。
- 目にしたツイートの信頼性を高める効果は、そのツイートを「いいね」しているユーザーを「信頼できる」と考える場合に顕著に見られる。
- 「認証済みバッジ」がついていることが、ユーザーの信頼度を最も高める。
2人の解説とともに結果を紹介する。
Twitterユーザーの多くは、自分以外のユーザーが「いいね」した投稿をしばしば目にしている。
パソコンでTwitterを見ても、スマホの公式アプリなどでTwitterを見ても、自分の「タイムライン」に他のユーザーの「いいね」が表示されるからだ。
フォローするユーザーが「いいね」した投稿を「数日に1回以上」意図せず目にしている人は、62.1%いた。
つまり、多くのユーザーが、自分以外のユーザーの「いいね」を見かける機会を持っていると考えられる。
他のユーザーの「いいね」はタイムライン上だけでなく、各ユーザーのプロフィールページでも見ることができる。
調査では、自分以外のユーザーの「いいね」欄を見にいく人が一定数いることがわかった。
自分がフォロー“していない”ユーザーの「いいね」欄をチェックするユーザーも、一定数いた。50.7%のユーザーが「1カ月に1回程度」以上チェックしていた。
自分が意図していても、していなくても、どのツイートを「いいね」したか見られる機会がある。
「いいね」は他のユーザーがそのツイートを「見る機会を増やす=拡散」効果がある、ということだ。
ツイートを「面白い」と考えて「いいね」をした人は62.7%、「共感した」は55.9%、「重要な情報だと思った」は43.3%。肯定的な感情を理由に「いいね」する人が多くを占めた。
一方、「後から読み返したい」から「いいね」するというユーザーは22.6%にとどまった。
他のユーザーが「いいね」するのはどんなときだと思うか尋ねると、「面白い」が73.5%、「共感した」が69.4%、「重要な情報だと思った」が53.1%に達した。
自分がするときと比べ、肯定的な感情が理由だと考える人の割合が増加した。
自分自身がそのような理由では「いいね」しないようなツイートであっても、「他の人々はそうした理由で行っている」と考えていることが推測される。
他方、他のユーザーの「いいね」の場合、「その投稿を後から読み返したいとき」は19.3%。自分自身のときに比べ、割合が減った。
ツイートが信頼できる内容か判断するのに、最も参考にしていたのは「信頼するユーザー自身による投稿であること」(86.4%)だった。
注目したいのは、「いいね」「リツイート」数の多さよりも、信頼するユーザーがそれらをしていた方が投稿を信頼するかの判断がなされやすいということだ。
他のユーザーを信頼できると感じる気持ちはどんなときで、どのように変わるのか。
「高くなる」の選択率が最も高かったのは「『認証済みバッジ』がついている」時で、60.8%だった。
Twitter社によれば、「認証済みバッジ」は「本人確認が済んでいる」という意味しかない。
しかし、一般ユーザーは、認証済みバッジがあるユーザーの発信する情報に価値がある(真実であり、重要なものである)と考え、信頼性の高いユーザーだと評価する傾向にあることがうかがえる。
調査結果をどう考えるか
荻上さんと高さんは、調査結果を以下のようにまとめる。
「いいね」は「面白い」など肯定的な感情を理由に多くのユーザーが使っている。
自分の意思に関係なく、どのツイートを「いいね」したか見られる機会があり、「いいね」には一定の拡散効果がある。
そして、ツイートを「いいね」しているユーザーを「信頼できる」と考える場合、そのツイートの信頼性も高める効果が顕著に見られた。
「認証済みバッジ」がユーザーの信頼度を最も高めるため、バッジがついているユーザーが「いいね」したツイートを他のユーザーが「正しいだろう」と信じるケースは起こり得るという。
高さんは「実際に備忘録として『いいね』を使うユーザーはいた」としつつ、こう指摘した。
「仮に本人がそういうつもりで使ったとしても、他のユーザーたちは、そのツイートを肯定的に評価した、と捉えることがわかりました」
「さらに、同様のツイートを繰り返し『いいね』していれば、そうした考え方を評価しているんだな、と第三者から受け止められるのが自然でしょう」
伊藤さん側は、今回の調査結果をまとめた報告書を東京地方裁判所に意見書として提出したという。
訴状によると、杉田議員は2018年、Twitterで下記のような投稿に「いいね」 を押した。
「枕営業の失敗ですよね。結婚している男性と2人で飲みに行かないもんね」
「彼女がハニートラップを仕掛けて、結果が伴わなかったから被害者として考え変えて、そこにマスコミがつけこんだ!」
伊藤さん側は、杉田議員がこれらの中傷に好感を示したと主張している。
裁判では、杉田議員による複数の「いいね」行為が、社会通念上許される範囲を逸脱しているのか、いないのかが争われている。
2020年10月にあった第1回口頭弁論で、伊藤さんは「杉田氏が『いいね』と支持していた言葉たちは、どれも私にとってはセカンドレイプとなる発言」などと訴えた。
杉田議員側は請求棄却を求め、争う姿勢を示している。