少年院でパソコンを習い、内面に良い変化が現れた少年たち 今時の子とわかる瞬間も

    茨城県の少年院、茨城農芸学院。彼らは週1回、パソコンと向き合っている。

    茨城県の少年院、茨城農芸学院で6月5日、パソコンの使い方を教える講座が開かれた。

    講座は、出院を3ヶ月後に控える少年たちが、毎週火曜日に受けるカリキュラムで、NPO法人が主導。会を重ねるうちに、少年たちの心に良い影響を与えているのがデータからわかる。

    「はい!」としっかりとした返事をして、一斉にパソコンと向き合い始める。

    講座に参加したのは、約15人。いずれも少年院で長期間過ごし、社会に戻るまで残り3ヶ月といった男子たちだ。

    茨城農芸学院では、非行に走り、家庭裁判所から保護処分とされた15〜19歳の90人(6月5日現在)が在院。犯した罪に対する「処罰」ではなく、改善更生を目指し、社会復帰に向けて教育や支援を受けている。

    在院者でもっとも多い非行が窃盗で、「オレオレ詐欺」など特殊詐欺を含む詐欺が続くという。

    少年院法改正で導入

    このパソコン講座も社会復帰のために導入されている。

    理由は、少年院法が2015年に改正し、職業指導のカリキュラムの一つとして加わったからだ。「礼儀や挨拶だけでなく、Word(ワード)とExcel(エクセル)を使える簡単な技能を身につけてほしい」と企業の要望が多かったのだという。

    全国の少年院では法務教官がパソコン指導を担うのが基本だ。しかし、茨城農芸学院では、若者の就労支援や、就学支援をする認定NPO法人「育て上げネット」に委託している。

    少年たちを思い、パソコン指導の経験が豊かな同団体と連携し、16年10月から講座を取り入れた。

    講座は、実践的なエクセルの勉強の前に、キーボードを使った文字入力の練習から始まった。

    デジタルネイティブ世代の彼らは、パソコンでの文字入力もお手の物と思いきや、勝手が違うようだ。

    キーボードに置く手が時折止まっている子や、片手で入力する子が目立つ。画面とにらめっこした後には、日本語にするためにローマ字の並べ方が載った対応表を凝視するのだ。

    自宅にパソコンのない子や、パソコンがあってもスマートフォンがあるので使わずに過ごしてきた子たちがいる。

    そのため、スマホで、ひらがなのフリック入力によって漢字にするのは簡単だが、ひらがなを頭の中でローマ字に分解するのは慣れていないのだ。

    「りゃ」「みゅ」「ぎょ」などをキーボードで入力するときには、明らかに苦戦していた。

    垣間見えた一面

    文字入力を練習していく彼らの集中力はすごい。問題に手こずっても諦めることなく、進めていく。手が止まれば、育て上げネットの職員がすかさずサポートに入る。

    ワードに「私は〇〇が好きです」とそれぞれ好きなお菓子や食べ物を書く時間には、若者らしい一面が垣間見えた。

    「私はじゃがりこが好きです」「私はエッグタルトが好きです」「私はブタメンが好きです」。今時の子なんだな、と思える食べ物が画面に並ぶ。

    講師として指導をする育て上げネットの職員、佐藤啓子さんは「スタート地点はみんな違うので、ゴール地点も違います。なので、どこまでできないといけない、と共通の目標を決めていないんです」と語る。

    初回の講座の時点で、初心者からある程度できる少年までいる。また、出院の時期はバラバラなので、講座に出席し始めるタイミングも違う。

    そのため、ゲーム感覚で学べるタイピングゲームソフトを使っている。ヘッドホンを通して解説が流れ、誰もがそれぞれのペースで学べるのだ。

    エクセルを含め、本格的な内容を学んではいるものの、佐藤さんは「講座で全てを身につけるのではなく、社会に出てからパソコンに触れるきっかけになれば」と言う。

    少年たちの思いとは

    事実、少年たちは出院後にもパソコンの訓練を続けたい、とやる気を見せる。

    6月の終わりに出院を控える少年(19)は、建設業で生かしたいと考える。

    「まずはブラインドタッチができるようになりたいです。この先、IT技術が身につけば、建設業界で活躍できると思っています。これからも学んで、自分の武器にしたいんです」

    また、17歳の少年も建設業で働くのが憧れだ。7月に出院を予定し、プライベートでパソコンを利用したいという。

    「講座は、前回よりも早く打てるようになったり、知識上がったりするのがわかるので、おもしろいです。成長を実感できるし、先生が褒めてくれるので、やる気にもつながります」

    データでわかる心理的な良い影響

    驚くのが、一連の講座によって少年たちの心理的な変化が現れたことだ。

    育て上げネットが、2016年末から1年間、86人の少年たちにアンケートを実施。さまざまな質問を「0(全くそう思わない)」から「9(非常によくそう思う)」の10段階で聞いた。

    すると、「自分は勉強や仕事で必要なことを身につける力がある」との設問で、初回の回答結果の平均は約5だったが、3回目の講座では6.5近くに上がった。

    さらに、「今の自分を信じることができる」という問いでは、初回に5.5に届かなかった平均が、3回目に6を超えたのだ。

    佐藤さんは「講座を通して、何かをできるようになった、と成長を実感してもらいたいんです」と話しており、少年たちにその思いが伝わっているのがデータから読み解ける。

    BuzzFeed Newsが「講座を通して、少年たちに対するイメージはどう変わりましたか」と尋ねると、佐藤さんは笑顔でこう返した。

    「入所するまでの1人1人の背景を知りません。ただ、目の前にいる姿勢を見ていると、一般の若者と変わらない、と思いました。とても素直な子たちです」

    「指導ではなく、応援の気持ちで来ています。少しでもできるようになった事実、集中していることを認めてあげ、これから自分の力で解決できるようになる手助けがしたいです」

    茨城農芸学院の岡本悟首席専門官は「専門的な知識を持つ育て上げネットさんのような団体が、少年たちに教えてもらえるのは良いことだと思っています。PC講座以外にもお願いできることがあれば、幅を広げたい」とし、外部との今後の連携に期待する。

    一方で、育て上げネットの工藤啓理事長は「困っている、困るだろう人たちを探すのはとても大変ですが、少年院に行けばアプローチできます」と取り組みの意義を語る。

    出院後に必ず明るい生活を送れるとは限らない。職を失い、行き場を失ったために再犯する恐れだってある。

    なので、同団体は毎年、少年院を出院した子たちを複数人受け入れ、就学・就労支援を進めている。

    「私たちは、他の支援団体を紹介することもできる。だから、少年たちからいかに相談がくるかが大切だと思っています。そのためには、もっと良い授業になるよう工夫をしなければいけませんね」