客に使ってほしくない「Go To Eat」、ある店の本音。「応援」の言葉への違和感

    「お客さんは、Go To Eatを使いたい。でも、僕らのお店はできればGo To Eatを利用してもらいたくないんです」

    農林水産省が所管する「Go To Eatキャンペーン事業」について、歓迎する飲食店がある一方、一部の飲食店側から不満の声があがっている。消極的に参加する店舗もあれば、参加を辞退する店も存在する。

    国は税金を使った事業の目的を「感染予防対策に取り組みながら頑張っている飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援するもの」と謳っているが、ある飲食店は、BuzzFeed Newsの取材にこう訴える。

    「お客さんには、できることならGo To Eatを利用せずに、飲食店に直接予約して来店してもらいたいのが本音です。この事業は、グルメサイトのためのものになっていないでしょうか」

    Go To Eatキャンペーンは、消費者がグルメサイトを使って飲食店を予約し、実際に来店して食事料金を支払うと、後日、消費者にポイントが付与されるもの。受け取ったポイントは、同じサイトを使ってキャンペーンに参加する飲食店を再び予約することで利用できる。

    2021年1月末までの期間中、ランチタイムに利用した場合は1人あたり500円分、ディナータイム(午後3時以降)であれば1000円分のポイントが得られる。ポイントは、同年3月末まで使え、1回の予約あたり10人分(最大1万円分のポイント)が上限となっている。

    グルメサイトは、ぐるなびや食べログなど大手を始めとする13社が参加し、消費者にとっては嬉しいキャンペーンだ。

    10月1日からキャンペーンは始まった。ところが、「錬金術」として付与ポイントを下回る料金の食事をするという手法が問題視され、付与ポイント以上の飲食が必要になるよう事業が改善されたばかりだ。

    「錬金術」以外の点に不満の声

    そうした対策も実施された事業ではあるが、「錬金術」以外の点に対して不満の声をあげる飲食店がいる。なぜか。

    東京都内でイタリアンと居酒屋を経営する男性は「グルメサイトによっては、送客手数料を払わなくてはいけないから」だと語る。

    農水省によると、グルメサイトが事業に参加するにあたり、要件を設けている。それは、新規契約する飲食店について、キャンペーン期間中に飲食店の情報をサイトに掲載する月額基本料を無料とすることだ。しかし、送客手数料については制約はなく、一部のサイトでは送客するごとに手数料を徴収している。

    同省のまとめによると、利用客を送ってもらった手数料として店側が、昼に1人あたり50円〜100円、夜に1人あたり200円(税抜)をサイト側に支払わないといけないのがわかる。

    「予約時のプラン料金の合計金額(税抜)に対して10%」というサイトもある。

    送客手数料が無料のサイトもあるが...

    客側の視点に立てば、「たったの1人あたり200円」と考えることもできる。しかし、飲食店によっては、大きな負担となって経営に打撃を与えるという。

    たとえば夜の時間帯の送客手数料が200円だとする。グルメサイト経由で、100人の予約があるとすれば、手数料は計2万円。単純計算で月に60万円のコストが増えることになる。

    送客手数料を「純コスト」だと考えれば、それを補う売り上げは、人件費や食材費などを考えると、とても大きな金額になるというのだ。

    一方で、「favy」、「トレタ」、「Retty」、「Chefle」、「大阪グルメ」の4社5サイトが今回、送客手数料を無料にしている。

    ところが、男性はこんな考えを巡らしたという。

    消費者は、こうしたサイトではなく、飲食店の掲載数が多く、使った経験のある大手サイトを使って予約するのではないかーー。

    また、複数のグルメサイトを使うほど、予約管理の手間も時間もかかる。ミスが発生し、客とのトラブルに発展する可能性もある。そうしたリスクも含めて、キャンペーンに参加するかしないか天秤にかけたという。

    「送客手数料がかかるとしても、消費者が利用するであろう大手のサイトを通して参加するのか。参加しないで、お客さんが減るリスクを許容するのか。どっちに転んでもダメージがあると思いました」

    そして、最終的には、送客手数料のかかる大手グルメサイトを通してキャンペーンに参加した。

    「お客さんには非は全くない」

    常連客や、予約をしてくれていた客が、キャンペーンに参加している他の飲食店に流れてしまうかもしれない。キャンペーンに参加しないことで、消費者がモヤモヤした気持ちを持ちながら店内で飲食する恐れもあるかもしれない。

    こうした思いから参加を決めた一方、「そもそもお客さんに、非は全くないんです。お客さんのほとんどは、送客手数料がかからないと思っていると考えているでしょうし」とも語った。

    現在は、送客手数料のコストをできるだけ抑えるため、グルメサイト経由での予約数の枠をできるだけ減らし、「Go To Eatは使えないのか」などと店舗に電話があった時だけグルメサイトに誘導するようにしている。

    先日、LINE上で男性とスタッフが行ったやりとりの一部が以下だ。送客手数料と客単価を想定した経営者側の苦しい思いを読み取ることができる。

    スタッフ「10名様からお電話ありまして、GOTOにできますか??と」

    男性「いやだ...けど 今日はとりあえず受けて 今後は考える、どこかで線引きするかも」

    スタッフ「10名様は大人5、子供5です」

    男性「こども、、、」

    今からでも、グルメサイト経由ではないといけないという仕組みを変え、直接予約もキャンペーンの対象にしてもらえないものか。男性はそう考えている。

    参加していない飲食店の考え、農水省の見解は

    一方で、Go To Eatキャンペーンに参加していない店舗もある。

    都内のフレンチ店のオーナーシェフの男性は「ポイント目当てでくるお客さんに対し、良い印象を持っていない」とその理由を語る。

    新型コロナウイルスの影響で経営状況は良いとは言えず、1組でも多くの消費者に来店してもらいたいというのが本音だ。しかし、Go To Eatキャンペーンの詳細を知ると、店側には負担があるけれど、消費者側には負担がなく、「イーブンではない」と考え、キャンペーンへの不参加を決意したという。

    インスタグラムやFacebookといった無料のSNSを活用し、自ら発信してファンを獲得し、消費者の呼び込みを続けている。

    「自分たちの身は、自分たちで守ったほうがいいのではないかという考えに至りました。Go To Eatを頼りにしないほうがいいなと思っています」

    こうした一部の飲食店の思いを農水省は、どう考えているのか。

    食品製造課Go To Eatキャンペーン準備室の担当者は、送客手数料の問題に関して、「4社5サイトが送客手数料を無料にしているので、飲食店には対価とサービス内容をご覧になっていただき、選んでいただきたい」と語る。

    「飲食店が、サービスと対価をどう考えるかだと思います。飲食店は、ご自身の経営判断で、キャンペーンが有利だと思えば参加していただければ」

    では、どうしてお店の直接予約ではいけないのか。

    担当者は、4月に閣議決定された「Go To キャンペーン事業」には、「オンライン飲食予約サイト経由で、期間中に飲食店を予約・来店した消費者に対し、飲食店で使えるポイント等を付与」と明記され、「グルメサイト経由」ということが事業の基礎にある点を挙げた。

    そのうえで、見直しについては「(グルメサイト経由という)大きな枠組みが変わってしまう問題なので」と述べ、変更の可能性はないとの認識を示した。

    「応援」の言葉への違和感

    Go To Eatキャンペーンを活用するかどうかは、飲食店と消費者の判断に委ねられている。

    消費者にとってはポイントがもらえて実質割引となる事業だが、飲食店にとっては設定する客単価、利益率、店舗のキャパシティ、現在の経営状況、グルメサイトへの投資額や税金に対する考え方など、さまざまな要素が影響する。それだけに、経営者によって受け止め方は大きく異なる。

    事業を歓迎して参加する店がある一方、「飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援するもの」と銘打たれたキャンペーンの「応援」の言葉に違和感を覚える飲食店もある。

    先出のイタリアンと居酒屋を経営する男性は「忘年会シーズンに盛り上がりそうですよね」と声を落とす。

    「幹事は『Go to Eat使えよ』って言われると思うんです。お客さんがポイント目当てで、一夜のうちにお店を数店舗はしごするとしたら、単価もその分下がるはずです。そうすると、送客手数料がもっと苦しくなります」

    「お客さんは、Go To Eatを使いたい。でも、僕らのお店はできればGo To Eatを利用してもらいたくないんです。僕にとっては、早く終わってほしいというのが本音です」