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台風で濁流に飲まれた二子玉川と二子新地。復旧に向かう現場を歩いた。

浸水被害を受けた、神奈川県川崎市の二子新地駅の住宅地と東京都世田谷区の二子玉川駅周辺を歩いて取材した。

台風19号が各地で甚大な傷跡を残している。

多摩川の氾濫で浸水被害を受けたのが、神奈川県川崎市高津区の二子新地駅周辺と、東京都世田谷区の二子玉川駅周辺だ。

BuzzFeed Newsは復旧に向けた作業が続く現場を10月15日、取材した。

二子新地と二子玉川の両駅は東急田園都市線で、多摩川を挟んで隣同士の位置にある。

台風19号が豪雨をもたらした12日、多摩川の水位が上昇し、氾濫した。

二子新地駅周辺では

15日、まず二子新地駅の周辺を歩いた。水位はすでに低下していたが、堤防の内側には、濁流が残した爪痕がくっきりと残っていた。

週末には多くの人々でにぎわう多摩川緑地バーベキュー広場前の看板には、上流から流れてきた草木が絡みついたままだ。

そして、設置されているトイレは大きくゆがみ、泥が便器内に溜まっていた。

すぐ横の二子球場のグラウンド内では水たまりが残る。バックネットは倒れ、多摩川の水流の勢いを感じさせた。

そのまま多摩川の上流方向にあるJR登戸駅方面に向かうと、東久地橋がある。

ここは、多摩川の支流の一つである平瀬川が、多摩川と合流する地点だ。

その平瀬川が氾濫し、高津区の住宅地に水が流れ込んだ。

多摩川を管理する国土交通省京浜河川事務所の担当者は「バックウォーター現象が起きたのではないか、と考えられる」とBuzzFeed Newsに話す。

つまり、多摩川の水位が、平瀬川の水位を上回ったために、本来であれば多摩川に流れるはずの平瀬川の水がせき止められ、住宅街に逆流して氾濫したのではないか、というのだ。

災害ごみの山が、被害の大きさを物語っていた。

住宅地では、水が流れ込んだことで使えなくなってしまった家具や家電製品などを、自宅から平瀬川沿いのブロック塀まで運んだり、心配そうに今後について話し合ったりする住民たちの姿があった。

浸水被害があった自宅内

平瀬川の目の前に暮らす女性が、自宅の中に招き入れてくれた。

当時、近くの中学校に家族全員で避難していた。その後、雨が止んだため、自宅の様子を見にくると、1階部分が水に浸かっており、「もうダメなんだ」と途方にくれたという。

現在、夫婦2人だけで清掃をしており、1階には家財がほとんどない状態だった。しかし、押入れには水が2メートル近く入っていたことを示す痕跡があった。

自宅の2階で暮らす娘と孫2人は、親戚の家で生活を送っている。自宅内の被害を見せられないという親としての思いからだという。

「自宅裏で、川の反対側の堤防の中腹くらいまで水が浸かっていました。庭に置いていた倉庫もひっくり返ってしまって」

「2階に家具や家電製品を運ぶこともしませんでした。だって、ここまでひどくなるとは思わなかったですから。近所のみんなもそう言っています」

高津区久地2丁目にある、この女性の自宅から堤防沿いに数十メートル離れたところに、尊い命が犠牲となった同区溝口6丁目のマンションがある

そのマンションの1階が浸水し、部屋から60代の男性が心肺停止の状態で発見され、搬送先の病院で死亡が確認された。

散歩ルートだという近くに住む70代の女性は、「45年前の多摩川の水害を思い出して、恐ろしくなりました」と声を落とす。

その水害は1974年にあった。台風で、東京都狛江市側で堤防が決壊し、民家19棟が流された。

「危険を承知のうえで、多くの人がこのあたりに住んでいます。国で氾濫対策がいろいろされている中、安心していた部分もあると思います。残念でなりません」

諏訪地区や北見方地区でも浸水被害

高津区の久地地区から多摩川の下流方向に進む。二子新地駅を挟んで南東にある、同区の諏訪地区や北見方地区でも浸水被害があった。

住民によると、両エリアは、多摩川の氾濫が原因ではなく、排水の問題で一帯が水に浸かったという。

降雨量が排水溝と下水道の処理能力を超え、溢れた模様だ。

地域は、駅前よりも高さが低くなっており、2メートル近くまで水が浸かった場所もあった。

水が引いた地域では、道路沿いに災害ごみが並べられていた。住民らが泥を掻き出すなどの作業に追われ、座ってうなだれる若者の姿もあった。

子どもと一緒に歩いていた34歳の男性住民は言う。

「10月5日にあった多摩川花火大会のあとは、近所の人たちとみんなで手持ち花火をしたんです。地域がすごい盛り上がって、楽しかった日の数日後に、こんなことが起きてしまった」

「本当にやるせないですよ。これからどうしていいやら」

堤防未整備地区から溢水した二子玉川

二子新地から多摩川にかかる二子橋を渡ると、世田谷区の二子玉川駅に着く。

駅前や多摩川沿いにあるマンションも、溢水によって、一帯に水が流れ込んだ。

国交省京浜河川事務所によれば、水が住宅地に入ってきた場所は、約540メートルにわたる堤防の未整備区間。そのうちの兵庫島公園へと至る入り口で、水が溢れたという。

国交省によると、一帯では二子橋から下流側で、堤防の整備を終えていた。上流側の堤防整備を進めようと住民らと話し合いを続けている最中に、水害が起きたという。

堤防整備までの暫定措置として、国交省は2009年、緑色の大型の土嚢を積み上げた。さらに台風前日、複数の大型の土嚢の間に、世田谷区が土嚢を積んだが、その隙間から濁流があふれたという。

その目と鼻の先にあり、マンションの地下にある歯科医院は水に浸かった。この日も復旧作業にあたっていた。

国交省の説明

京浜河川事務所の担当者は言う。

「こちらの未整備区間の堤防整備に向けて2018年からワーキング(意見交換会)を開き、住民の方々と話し合ってきました。堤防が必要なことは、住民の方々に理解してもらっていると認識しています」

「その中で、堤防ができることで部屋が覗かれてしまう、という心配や、樹木を植えてほしいといった環境や景観などについての多様な意見がありました。そのため、住民の方も納得できるよう丁寧に調整してきました」

「今回の台風では、予想よりも多くの雨が降りました。(被害状況から)今までやってきた整備が、(一定の)効果を見せたと考えています」

普段の多摩川一帯は、河川敷の広い緑地と水辺の光景が心地よく、魅力あふれる地域だ。

取材で話を聞いた二子新地と二子玉川の住民の多くが、多摩川の近くで暮らすリスクは認識していたという。それでも、「まさか」と口々に話した。

そして、浸水したエリアのすぐ目の前に、浸水を免れた場所があるのが目立った。

被害を免れた高津区諏訪1丁目の男性住民(58)は「ほんのわずかな道の勾配や土地の高さの違いだと思います。それに、かさ上げして自宅を建てたおかげで、床上浸水しなかった家もある」

「本当に紙一重。被災された近所の人たちが、気の毒で仕方ありません」