4月21日、22日にあった保育士試験で、科目「社会福祉」のある問題について「正解がないのではないか」と受験生らが指摘している。
回答は選択式だった。解答速報を発表した、通信教育を手掛ける「ユーキャン」は「解なし」、福祉専門スクール「キャリア・ステーション」は「2または3」の複数解答で、見解が割れた。
BuzzFeed Newsは、試験を担う全国保育士養成協議会に問い合わせた。
問題文と組み合わせはこうだ(原文ママ)。
A 児童の意見表明権は、「児童の権利に関する条約」に規定されており、日本政府は条約の締約国であるため、その権利が守られるように施策を考え実施しなければならない。
B 親子間の情緒的関与が過度に不足することにより子どもに重大な発達障害を与えることを防ぐため、「刑法」が「保護責任者遺棄罪」という罰則規定を設けている。
C 親が子どもを学校に通わせないなど、児童の教育を受ける権利が侵害された場合、「学校教育法」において児童のその権利を擁護する規定が設けられている。
D 子どもの将来が生まれ育った環境によって左右されることのないように、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が制定されている。
(組み合わせ、左からA,B,C,D)
1.◯ ◯ ◯ ×
2.◯ ◯ × ◯
3.◯ × ◯ ◯
4.× ◯ × ◯
5.× × ◯ ×
各社は見解を発表
これについて、ユーキャンは「解なし」、キャリア・ステーションは「2または3」と発表。それぞれ次のように見解をHP上で示した。
<ユーキャン>
検討の結果、弊社は「解なし」といたします。(組み合わせ)の中から番号を選べないためです。
その理由として、選択肢BとCの判断があります。
選択肢B:「刑法」第218条では、「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する」と保護責任者遺棄等を規定しています。しかしながら、選択肢Bの文章では、この状況を明確に「遺棄」と判断できかねます。
選択肢C:「児童の教育を受ける権利を擁護する」規定は、「学校教育法」には明文化されていません。しかし、第16、17条に規定される、「保護者は、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う」ことを選択肢Cの「児童の教育を受ける権利」と拡大解釈させるのであれば、Cを○とすることができるのかもしれません。ただ、義務教育のみをとりあげて、「児童の教育を受ける権利の擁護」と断言することはできないと考えます。
出題者の意図により見解がわかれる可能性があるため、「2または3」の複数解答とします。
2の場合 選択肢Cが誤りの見解
親が児童の教育を受ける権利を侵害した場合に、児童のその権利を擁護する内容は、「学校教育法」に規定されていないと判断し、誤りとしました。
3の場合 選択肢Bが誤りの見解
「刑法」の「保護責任者遺棄罪」は、「生存に必要な保護をしなかった」場合であり、選択肢中の「情緒的関与が過度に不足することにより子どもに重大な発達障害を与える」ことは、当該規定に該当しないため、誤りとしました。
「解なし」となった場合は、全員正解
解答速報を発表した会社で意見が割れ、ネット上では「その結果次第で、私は不合格です」など受験生が声を上げている。
今後、どう対応するのか。
全国保育士養成協議会の担当者は、出題意図は「申し上げられない」とした上で、こう語った。
「疑義の問い合わせが届いています。試験問題を作成している試験委員会が、これから検討するという段階です」
ただし、この問題に限って検討するわけではない。問い合わせがあった全ての問題が検討の対象になるという。
委員会による検討の結果、もし「解なし」となった場合は受験生全員が正解になり、「複数解答」であれば対応を考えるという。
「委員会による決定事項は、6月4日の解答発表までお待ちいただくしかありません。HP上で掲載いたします」
受験した女性会社員「こういう国家試験って」
試験問題に対して、出題ミスではないか、と疑問を投げかける声は珍しくない。
最近では、大学入試センター試験・地理Bにおいてアニメの人気キャラクター「ムーミン」を扱った問題が、記憶に新しい。
今回、保育士試験を受けた女性会社員(26)は、不満を漏らす。
「正しい解答を出そうと、受験者は懸命に試験にのぞんでいます。明確な解答がないのでは、と疑われる問題がある国家試験ってどうなんでしょう。次回からはこういう問題をなくしてほしいです」