「殺される犬や猫をゼロに」 東京五輪までに達成するための鍵は見つかっている

    「殺処分をする施設は必要ありません」

    1年間で751頭を殺処分した東京都。小池百合子知事は2020年の東京五輪までに「ゼロにする」と宣言した。

    「ペットと共生する日本社会をつくる。2020年のオリンピック・パラリンピックという設定をした上で、東京都で、いい例を示せるようにしたい」

    東京都は2014年度の1年間で、犬と猫を計1598頭収容し、751頭を殺処分した。これを2020年までにどうやってゼロにするのか。その鍵となるのが、すでに殺処分ゼロを達成している自治体の存在だ。

    殺処分ゼロの先輩が語る

    BuzzFeed Newsは、犬猫の殺処分ゼロを達成した神奈川県動物保護センター(平塚市)を訪問した。

    「殺処分を目的にした施設は、もう必要ないんです」

    センターの岩屋修・業務課長(56)は、そう話す。

    このセンターは、横浜市や川崎市などを除く神奈川県の28市町村を管轄する。捨てられたり、道に迷ったりして捕獲された犬や猫が運び込まれ、引き取り手がなければ殺処分するのが役目だ。

    しかし、2013年に犬の殺処分ゼロを達成し、翌年から犬猫両方の殺処分ゼロを続けている。今年もゼロの見込みだ。

    一体、どうやって達成したのか。

    死を待つ場所で、猶予は5日間

    その話を進める前に、かつてこの施設で何があったのかに触れる。

    路上や公園などで捕獲された犬は、5つの房に分かれた地下の飼養管理室に入れられた。「死を待つ場所」だ。岩屋さんが語る。

    「収容されたら、まず右端の房に入れました。1日経つごとに、房のフェンスを左に動かしていたんです。壁が動いて、自然と犬は追いやられ、隣の房に移動します。命の猶予は5日間。飼い主が現れないと、毎日フェンスが動いて、最後の房に行き着きます。そして翌日には、殺処分機に入らされたんです」

    1972年に開設されたこのセンターでは、翌年には犬だけで年間2万頭以上が収容された。最後の房に大きさを問わず30頭もの犬が押し込められ、死を待ったという。

    「ドリームボックス」と呼ばれる殺処分機

    「ドリームボックス」と呼ばれる殺処分機に、数十匹の犬が押し込められると、二酸化炭素ガスが注入された。一枚の窓ガラスからは、もがき苦しむ犬が見えていたという。

    かつては、何度も処分起動ボタンが押されていた

    「ガスでの殺処分は導入当時、『画期的な最善の安楽死』と言われていたんですよ。でも、犬や猫は窒息して、残酷にもどの子も苦しみながら死んでいきました。子犬の中には、ガスが注入されてから15分経っても死なない子もいました。そういう子は、引っ張り出して筋弛緩剤を打ち、確実に殺したんです。安楽死とは到底言えませんよね」

    針が指し示す数字

    15分間。息絶えるのを待つのに、設定された処分時間だ。いまも針は「15」を指し示していた。

    「今でも『殺処分の瞬間が夢に出てきて、うなされて眠れない』と話す職員もいます。昔も犬や猫を心から殺したいと思う人なんていなかったはずです」

    では、どうやって犬と猫の殺処分ゼロを達成したのか。

    収容頭数の減少が、殺処分ゼロを成し遂げた大きな要因だという。

    センターは、2006年度に計3877頭の犬と猫を収容していたが、年々その数は減少、昨年度は約4分の1の計1019頭になった。

    収容頭数は全国的にも減り、14年度には15万1000頭に。なんと、40年前のおよそ10分の1だ。

    「犬猫ともに避妊・去勢手術や室内飼いが当たり前になってきて、不要に子供が生まれないのが影響しているはずです。さらに、ここは殺処分ゼロの施設だから、と大切なペットを持ってくる人も多いですが、動物愛護法が改正されて、飼い主が亡くなったなどの特別な場合を除いて引き取りを断っています。収容頭数をこちらで抑えられ、無責任な飼い主の飼育放棄を防ぐことができています」

    岩屋さんの言う通り、2013年、動物愛護法改正により、飼い主の終生飼養が義務化された。全国にある動物保護センターや保健所は、正当な理由を持たない飼い主からの犬猫の引き取りを拒否できるようになった。

    「施設に断られるようになっても、路上に捨てられる子が増えていないのが、数字にも表れているのはありがたいです。飼い主の意識やモラルが高まってきているのだと思います」

    センターに収容された迷子や所有者不明の犬と猫の数は、13年度が886頭、14年度が942頭、15年度も910頭とほぼ横ばいで推移している。

    収容数がゼロになろうとしているわけではないが、それでも、殺処分をせずに済んでいるのはなぜか。

    実は、収容した犬猫の飼い主への返還、または引き取りを希望する人への譲渡率は全国的に右肩上がりだ。

    全国の返還・譲渡率は、年々上昇しており、2014年度は33.2%だった。

    神奈川県動物保護センターの犬の返還・譲渡率は、全国平均よりはるかに高い。13年度に98.8%になると、その後も90%以上を維持し、昨年度は94.4%だった。

    岩屋さんは、次のように話す。

    「このセンターの殺処分ゼロは、新たな飼い主に譲渡してくれるボランティアさんの上に成り立っているんです。ここでは、ボランティアさんのおかげで、返還・譲渡率がとても高くなり、本当に助かっています」

    ボランティアとして登録されているのは、50以上の団体と個人だ。犬と猫が収容されると情報が届き、それぞれ連携して引き取りに訪れ、その後、引き取り手を探す。

    3時間おきにミルクをあげなければいけない乳飲み猫に関しては、その日のうちに専門のボランティア団体が引き取り、大切に育てながら引き取り手を待つという。

    「譲渡されるには、見た目も重要です。シャンプーやトリミングをしてくれるボランティアさんも10人以上登録してくれているんです。昨年からは、センターで譲渡会を定期的に開き、ボランティアさんが新たな飼い主に譲渡するのを手伝い始めさせてもらっています」

    ゼロに近づく殺処分数。実数は統計よりも少ない?

    全国では、神奈川県をはじめ、広島市でも犬と猫の殺処分ゼロを実現している。東京都千代田区や川崎市、札幌市など、犬または猫だけを殺処分ゼロにしている自治体もある。

    その成果は数字でもわかる。1974年、全国で122万頭もの犬と猫が殺処分され、殺処分率は97.7%だったが、右肩下がりに。2014年度には10万1000頭で、その殺処分率は67.2%。

    その数字に対し岩屋さんは「数え方の問題で、実際は殺処分数はもっと少ないんです」と漏らす。

    「この殺処分の数字は、施設への運搬中や収容中に、心臓麻痺などの病気や怪我で自然死した数も含まれているんです。ですから、この数え方では、うちのセンターも正確には殺処分ゼロではないんですよ」

    センターには、交通事故による怪我や病気になって運ばれてくる動物もいる。そういう動物は、神奈川県獣医師会に委託され、治療で命を救えないと獣医師が判断した場合、安楽死の処置を取っているという。

    「センターで安楽死させたなら、それは殺したことにもなります。ゼロとは現実には何の数字かということも、多くの人に知ってほしい。環境省は今後、自然死を殺処分数に含めないように数え方を変えるそうです」

    殺処分ゼロとされるドイツでは実は…

    それでは、他国で参考になる国はあるか。

    動物福祉国のドイツは、全国に約1000箇所ある「ティアハイム」と呼ばれる民間で運営する施設が、動物を保護している。ここでも病気や怪我で命を落とす運命にある動物に限っては、動物福祉の観点に立って殺処分対象となり、獣医師の判断で安楽死させられている。

    民間施設のため、運営費は寄付や会費でほとんどが賄われているが、そこでの生活は快適のようだ。スタッフやボランティアによって清潔に保たれた個室の中で育ち、自由に屋外で遊ぶこともできる。

    ペットを欲しいと望む人々は、ここにやってきて、パートナーと巡り合うのが主流だ。それぞれの動物たちがティアハイムに運ばれた経緯や性格などが詳しく書かれたメモを見て、お気に入りが見つかれば飼育環境などの審査を経て、引き取っていくという。

    日本でも注目されており、NPO法人アルマなど民間団体が国内にティアハイムを設置し、普及を目指している。

    そんなドイツの犬と猫の殺処分の状況やティアハイムに関し、国立国会図書館の遠藤真弘氏が2014年、「諸外国における犬猫殺処分をめぐる状況 」と題した論文を公表している。公的な制度が犬の殺処分を抑制しているという。

    論文によると、ドイツは2001 年に「動物保護―犬に関する命令(犬命令)」が施行された。犬命令は、「生後8週齢以下の子犬を母犬から引き離すことを禁止」や「商業的に繁殖する者は、犬10頭及びその子犬につき管理者1名を配置」などと定められ、ペットショップにも適用。ペットショップでの犬の販売を間接的に抑制しているという。

    さらに、ドイツのほとんどの自治体で、犬の保有者に対して犬税を課しており、安易に飼うことを防ぐのにつながっているとしている。

    しかし、「狩猟法」により、多くの犬と猫が実際には殺されているという指摘もある。遠藤氏は、「犬猫殺処分と無関係であるとは言えない」とし、こう論じる。

    ドイツ連邦狩猟法は、狩猟動物を保護する目的で野良犬・猫の駆除を認めており、狩猟者は、合法的に野良犬・猫を殺すことができる。動物保護施設での殺処分とは目的が異なるが、本来であれば動物保護施設に入居してもおかしくない野良犬・猫や捨て犬・猫が駆除の対象となっており犬猫殺処分と無関係であるとは言えない。ノルトライン・ヴェストファーレン州は、狩猟者による駆除頭数を、野良猫1万47頭、野良犬77頭(2012年度)と発表している。ドイツ全体の駆除頭数を示す公的統計は存在しないが、年間猫40万頭、犬6万5000頭に達すると指摘する動物保護団体もある。

    殺される犬猫を全国でゼロにするために

    岩屋さんは言う。

    「子犬や子猫のころはかわいいです。でも、ペットショップで、生まれて間もなく親から引き離された幼い犬や猫を飼うと、噛み癖や吠え癖など問題行動を起こし、結果的に捨ててしまうということもあります」

    「どんな子も捨てられたら、心に傷を負います。人が飼うには難しいほど、性格が荒れ、凶暴になることもあるんです。日本では、出生後56日以内の犬猫の販売や展示の禁止に向けて動いています。これで、捨てられる犬と猫も少なくなるかもしれません」

    環境省は、9月1日、出生後49日以内の犬と猫の販売と引き渡し、展示を禁止とした。これは動物愛護法で定める出生後56日以内での禁止に向けた移行措置で、これまでは45日以内での販売などを禁じていた。欧米の多くが、56日以内を禁止とする「8週齢規制」を導入している。

    「幼い犬や猫が、自分に飼われるのがいいのか、本当の親と一緒に暮らすのがいいのか、考えてみてください。野菜のように、顔が見える生産者から、ペットを受け入れることも大事だと思います。ヨーロッパと同様、安心できるブリーダーから購入し、しつけがちゃんとされた子犬や子猫を飼うようにする人も増えてきていて嬉しく思います」

    岩屋さんは、TNR活動を基本とする地域猫活動の広まりにも期待している。TNR活動とは、野良猫を捕獲(Trap)、避妊・去勢(Neuter)手術をしてから元の場所に戻す(Return)取り組みだ。そうやって地域に戻ってきた猫を「地域猫」として、住民やボランティアが共同管理し、地域で世話をしていく。

    2011年に全国で初めて猫の殺処分ゼロを達成して継続している東京都千代田区でも、地域猫活動がその実現の下支えとなっている。

    「神奈川県でも、地域猫活動への助成を始めました。辛い思いをする犬と猫がいなくなるために、他にも飼い主の情報が入ったマイクロチップの埋め込みも進めていきたいです。現在、県の推進事業として、譲渡する犬と猫には無料でチップを入れて、引き渡しています。万が一、大切な犬や猫が迷子になったとき、マイクロチップがあれば連絡が入り、自分の元に帰ってくる。室内飼いの人にも、絶対にしてほしいです」

    だが、全国への広まりはまだまだだという。

    殺処分室のない新たな施設の建設へ

    「東京都でも、殺処分ゼロは実現できると思います。ただ、24時間の飼育や譲渡、さらには譲渡先の飼育環境の確認など行政にはできないことが多い」

    「だからこそ、ボランティアさんの力を借りなければいけません。このセンターでも、さらに登録してもらえる仕組みを作り、動物たちにとって快適な環境を整えていきたい。その一つが、新たな施設の建設です」

    老朽化が進むセンターでは、2019年開設を目指し、殺処分室のない新たな施設の建設を計画中で、募金を呼びかけている。施設には、犬や猫がのんびりと過ごせる個室、犬が駆け回るドッグラン、ボランティアがシャンプーやトリミングをする部屋を整備する予定だ。

    ボランティアが、よりスムーズに連携できるように工夫し、動物愛護のためのイベントもホールで開催していくなど、充実した施設を目指している。

    「11億円かかる建設費すべてを寄付から出せたら、と思っています。現在、皆様のおかげで7000万円以上が集まっています。ここにいる間は動物たちに幸せに暮らしてほしい。本来は、施設から直接新たな飼い主さんに譲渡するのが一番なんです。できるだけ短期間のうちに譲渡して、人と動物の共生に関して啓発できる施設にするのが目標です」

    迷ったり、捨てられたりした犬や猫が、センターに来る日も来る日もやってくるのは、今でも変わりない。BuzzFeed Newsが取材で訪問した9月6日には、犬約50頭、猫約25頭が収容されていた。

    「あくまで殺すための施設なんです。大部屋にいれなければいけない子もいます。飼育放棄された犬は特に、心に傷を負っています。なおさらこんなとこに入れられたら、ストレスもたまりますよね」

    「処分するための施設」が「生かすための施設」に

    岩屋さんは昨年、14年間一緒に暮らしてきたダックスフントを失った。「ペットロスなんです。悲しくて仕方ありません」。声を落とすと、しばらく沈黙がつづく。

    そして、今年になって、このセンターに赴任した。

    「こんなに動物たちがたくさんいる施設に来るとは思ってもいませんでしたよ。動物を殺すための施設から、生かすための施設に生まれ変わったこの場所に」

    かつて、「死を待つ場所」だった地下の飼養管理室では、性別や性格によって分けられた中型犬が、職員たちから愛情を注がれながら、新しい飼い主を待っている。

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