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Updated on 2020年4月27日. Posted on 2020年4月21日

「安倍の声聞いたら元気出た」拡散の裏側 政治系案件が掲載される「限界」

ネット上に「安倍の声聞いたら元気出た」「安倍のイヌ見たら元気出た」といった投稿に、「ランサーズの工作」などと憶測を呼んだ。しかし、投稿主とランサーズは全面的に否定。同社は度重なる憶測に対し、法的措置に踏み込む意向も示している。

「安倍のインスタライブ見てるナウ〜!!なんかむずかしい言葉ばっか使っててイミフなんだけど コロナこわいけどぉ、安倍の声聞いたら元気出た」

安倍晋三首相が緊急事態宣言を発令した4月7日、Twitterにこの文章が立て続けに投稿された。

その後、仕事を依頼したい企業と、受注したい個人を繋ぐクラウドソーシング事業を展開する「ランサーズ」を名指しして、この一連のツイートに対して「ランサーズの工作」「これがランサーズかな」などと憶測を呼んだ。

しかし、この件はランサーズとは無関係だ。

複数の投稿主がブログなどでその舞台裏を説明している。同社は、度重なる憶測に対し、法的措置を検討しているという。

Twitterより

冒頭の投稿は、あるTwitterユーザーが最初に投稿した。

本人によれば、かねてから、Twitter内の知人同士でいわゆる「おじさん構文」と呼ばれる絵文字を多用した文章をツイートすることがあり、それぞれが文章をコピー&ペーストして投稿することがあったという。

今回も同じようにツイートしたところ、ネット掲示板「5ちゃんねる」やTwitterで、ランサーズが世論操作のためにユーザーを雇って投稿させているとの憶測が一気に広まった。

5ちゃんねるの掲示板の一部には、例えばこんなコメントがついている。

「ランサーズ学習しねぇなww」「ランサーズの工作活動」「またランサーズやらかしたのか」

著名人も憶測を拡散、投稿主とランサーズは全面否定

Twitterより

さらに、一連のツイートをスクリーンショットした画像とともに「これがランサーズかな #安倍首相会見」との憶測ツイート(投稿主は現在、アカウントを削除)があった。タレントのラサール石井さんがこう引用リツイートすると、憶測はさらに拡散した。

「うわあ、すげえ。怖い。これはお金もらわないとできないなあ。無給でやってるとしたら、もうカルト」

だが、投稿主はBuzzFeed Newsの取材に「ランサーズとは無関係なツイートで、予期しない形で騒動となってしまった」と説明した。本人のブログでも「ランサーズの人たちには本当に申し訳ないと思っています」とつづっている。

今回の騒動を受け、「いつもの遊びがここまで大きくなったことに驚いています」とし、こう話した。

「政治などのシビアな問題は、遊び感覚で触れていいものではないと実感しました。それでも、自分が誤解を招くようなツイートをしたのが悪いですが、情報の取捨選択ができないのは、かなり問題があると思っています」

「自分が非難される分には構わないですが、ランサーズさんのような企業を巻き込んでの非難などはやめてほしいです」

なぜランサーズと結びつけるのか

ランサーズとツイートを結びつける憶測を受け、同社はHP上で「事実無根の記載(デマ)がなされていますが、そのような事実は一切ございません」との見解を発表した。

一連の投稿は、同社のサービス経由で企業や個人から発注された案件ではなく、ランサーズ自身が発注したわけでもない、と自ら全面的に否定した。

Twitterより

そもそも、なぜランサーズと今回の件が結び付けられるのか。

それは、過去にランサーズのサイト上で、政治関係の仕事の受け手を募集した複数の案件があったことが関係していると見られる。

ランサーズは政治系の依頼やステルスマーケティングを禁止しているが、実際には次のような政治的な案件がたびたび掲載された。

2017年には「当方の運営している政治系ニュースサイトのコメント欄への書き込みをお願いしたい」とする募集があった。「特に保守系の思想を持っている方を募集」とし、該当する例として「安倍政治を応援している方」「テレビや新聞の左翼的な偏向報道が許せない方」などと記され、話題となった。

最近では“【7500円(250円×30記事)】政治がテーマのブログ記事(800字文字以上)の仕事”と題した仕事依頼も掲載された。

内容の例として「タイトル:安倍総理のいいところがわかるエピソード」と書かれ、1記事あたり800文字以上・250円で、毎月30記事を依頼するものだった。

現在、ランサーズはいずれも「利用規約・仕事依頼ガイドライン細則違反のため削除しました」として閲覧制限をかけ、当該依頼を削除している。

ランサーズ

また、2月25日にはランサーズの秋好陽介社長が、他のIT系企業経営者らとともに安倍晋三首相と会食した、と報道各社が「首相動静」で伝えた

前述の政治的案件の例や、この会食の情報などをもとに、「世論誘導を行うネット工作記事の求人広告を掲載していた企業の社長と会食」などといった臆測が、さらに生まれていったとみられる。

この会食についてランサーズは、「地方創生や働き方改革、男女共同参画などの観点で、過去にも行政や自治体、与野党の議員などからの要望を受け、意見交換会に参加しており、安倍首相との会食もその一例」と説明。

「企業としては特定の政党を支持しておらず、政治活動もおこなっていない」という。

政治系の案件が掲載される仕組み

時事通信

では、禁止されているはずの政治案件が、サービス上に掲載されるのはなぜか。BuzzFeed Newsはランサーズを取材した。

ランサーズによると、仕事の依頼は企業・個人問わず受けつけており、サービス上に掲載される案件は1日あたり数千件を超える。

それらは掲載前にまず、AIが全件を違反チェックし、該当した案件を日本や海外にいるスタッフ数十人が24時間体制で確認しているという。

案件の掲載前に監視員だけで全件確認するのは「困難な状況」とし、結果として、利用規約に違反した案件が掲載される事態が起きているというのだ。

広報担当者は「現在も、まれにAIの目を潜り抜けて掲載をされてしまうことがあります」と話し、掲載された違反案件はユーザーによる違反申告に頼らざるを得ないと説明した。

Twitterより

違反が見つかった場合、掲載の削除対応とともに、以後の掲載制限をかけている。場合によっては、退会措置(アカウントの削除)も実施しているという。

そして、違反申告は、AIの精度向上に役立てているといい、「健全なプラットフォームを保つうえで、政治系の依頼やステルスマーケティングは禁止しています。もし違反している案件がございましたら、違反報告をしていただきたく思います」と話した。

ランサーズは法的措置に踏み込む意向

Twitterより

「安倍の声聞いたら元気出た」の投稿が見られるようになった後、星野源さんが「うちで踊ろう」を歌う動画に、安倍首相が自宅での様子を組み合わせた動画を自らのSNSで公開。

これを受け、「コロナこわいけどぉ、安倍のイヌ見たら元気出た」といったツイートがTwitterで頻出するようになった。

それにより、「世論操作の証拠 安倍と仲良し『ランサーズ』」などとランサーズと結びつけた投稿も再び散見されている。

友達と会えない。飲み会もできない。 ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます。

ランサーズは、「安倍のイヌ見たら元気出た」との投稿も、同社のサービス経由で企業や個人から発注された案件ではないと否定。こうした憶測を呼ぶ発信についてHP上で、法的措置に踏み込む意向を示した。

「事実無根の記載(デマ)については、当社サービスに関して誤解を与える可能性が非常に高く、ユーザーの皆様に多大なご心配をおかけし風評被害が発生していることから、刑事告訴並びに裁判上の手続も含めた法的対応などの断固たる措置を講じていく所存です」

現在、問い合わせ対応などで、通常業務にも影響が出ている状況だとし、広報担当者は「具体的な法的方針については、回答を控えさせていただきます。ですが、原則としては当社に対して事実と異なる記載をされ、その内容が明らかに法に触れる場合に対して法的措置をとります」と話している。

バズフィード・ジャパン ニュース記者

Contact Kensuke Seya at kensuke.seya@buzzfeed.com.

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