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「応援」や「同情」ではなくて。若き漁師らの挑戦

「相馬のカニ味噌は、東京と食べ方がまったく違う。くそうめえんですよ」

福島第一原子力発電所から約50キロ北の沿岸部に位置する福島県相馬市。

現地で収穫した食べ物と冊子がセットで届く“食べ物つき情報誌”をつくる若い男性たちがいる。

制作するのは、震災と原発事故に翻弄された若い漁師や建築関係者ら7人。プロは1人もいない。

「どこよりも『そうま』がやるべきじゃないか」。メンバーの一言で創刊へと動いた。

東日本大震災から7年。彼らは前しか見ていない。

そうま食べる通信 / Via taberu.me

食べ物つき情報誌の名前は「そうま食べる通信」。

震災と原発事故に翻弄された地域を前進させたい、と志を同じくする仲間内で集まり、2015年に創刊した。

Kensuke Seya / BuzzFeed

双葉町や飯館村など沿岸部の計12市町村からなる「相双地区」にいる農業や漁業、畜産業、食品加工業の生産者たちが取材対象者だ。

半生や仕事、食に対する思いをつづった特集記事をメインにし、その生産者が収穫した新鮮な食材をセットにする。届いてすぐ家庭で食材を食べられるよう、漁師飯など地域ならではのレシピ付きだ。

「気にする人は気にするだろうから」

「昔は週に4日は船の中で寝泊まりしてました。なのに今は週2、3回、海に行って、すぐに戻ってこなくちゃいけない。沖にピクニックしに行ってるみたいな感じですよ」

そう語るのは、情報誌の共同編集長を務める菊地基文さん(41歳)。

本業は漁師。原発事故の影響で、漁の回数や魚種などが限られる「試験操業」を余儀なくされている一人だ。

Kensuke Seya / BuzzFeed

震災から7年が経とうしているいま、試験操業の対象となった魚の種類は格段に増えた。この状況をどう思っているのか。菊地さんは言う。

「どんなに低い数値が出ても、まだ気にする人は気にするだろうから。あとは消費者の判断だと思ってます」

続く基準値超えゼロ

菊地基文

福島県によると、12年6月に試験操業がはじまった。

当初は3魚種だけだったが、18年3月8日現在、出荷制限がかかる10種を除く約170種類の海産物が全国の市場に流通している。

その理由は、検査により安全が確認できているからだ。福島県が海産物の放射性物質を検査した結果、国の基準値(1キロあたり100ベクレル)を超えた検体は、15年4月からゼロが続く。

Shuto Araki / BuzzFeed

このように、ほぼ3年間にわたって国が定める安全をクリアし、本操業に向けて着実に歩んでいる。

消費者庁の被災地域と東京など都市圏の消費者を対象にした意識調査によると、福島県産品の購入をためらう人の割合は減少傾向にあり、17年8月の調査では13.2%だった。

それでも、大量に魚を水揚げしたとき、適正価格で取引してくれるのか、との懸念がある。風評の払拭は大きな課題だ。

Kensuke Seya / BuzzFeed

福島県の漁業は震災前のような活気を取り戻せてはいない。それでも菊地さんは明るい。

全国各地のイベントで、相馬産の水産加工品などを直接販売し、思っていたほど福島の海産物の購入をためらう人は少ないと実感しているからだ。

「福島の魚は売れねえ、と思ってる漁業者はいまも多いかもしれないけど、実際にはそうでもないですよ」

菊地基文

本操業がはじまっても、安心と安全は違うから気にする人は気にする。だから思う。

「原発事故とか関係なく、相馬を見てほしい。俺らが取り上げる生産者を見てもらいたいんです。食べて応援、買って応援で終わらない、おもしろい冊子とおいしい食べ物を届けるから」

「応援」や「同情」ではなくて

菊地基文

現在、読者は200人ほどで首都圏の人が大半を占める。そうま食べる通信では、読者と編集部員、生産者が交流できるのも特徴だ。

Facebookのグループで、市場に競られた海産物などを格安で販売。生産現場を実際に見て、とれたての食材を調理して食べるツアーを開催している。

東京で、生産者がとった大量の食材を読者と楽しむときもある。

「相馬ロスです」と話す読者がいて嬉しくなる。

そうやって「応援」や「同情」ではなく、心から地域を好きになってくれている人を知っている。

Kensuke Seya / BuzzFeed

だから、地元の食材に対する菊地さんの自信は失われていない。

情報誌は2018年冬号で、23歳で底びき網船の船頭をつとめる、相馬市の男性漁師を特集。とれたてのズワイガニのメスを読者に送った。

「相馬のカニ味噌は、東京と食べ方がまったく違う。くそうめえんですよ」

菊地基文

今年の夏、相馬市の原釜尾浜海水浴場がようやく再開する予定だ。編集部では相馬産の食べ物を使った食事を提供する海の家を開こうと計画している。

「とにかく来てもらいたいです。原発の影響が気になるから知りたい、とかどんな入り口からでも、最後には笑顔で帰ってもらえる自信があります」

「そうま食べる通信」は季節ごとに年4回発行。現地で使える食事券や、魚の詰め合わせがもらえる特典がつき、送料税込み3500円。春号ではアオノリを特集して送る予定だ。申し込みはこちらから


BuzzFeed Japanは、Yahoo! JAPANの3.11企画「データで見る震災復興のいま」で、被災地の現状をグラフで紹介しています。

BuzzFeed JapanNews


バズフィード・ジャパン ニュース記者

Kensuke Seyaに連絡する メールアドレス:kensuke.seya@buzzfeed.com.

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