成人年齢を18歳に引き下げる改正民法が6月13日、参院本会議で可決、成立した。
これにより、18歳からできるようになることと、これまで通り20歳になってからでしか許されないものがある。
引き下げになるのは2022年4月1日から。それまで3年以上あるものの、専門家は、懸念材料が多く、判断するのは「やや拙速だったと率直に思います」と話す。
民法や消費者法に詳しい、京都産業大学法学部の坂東俊矢教授は「18歳で自立し、社会の仲間入りするのはとても良いことだと思う。しかし…」と続ける。
「大人の方の準備が整っておらず、土台がしっかりしないままの状態です。何が変わり、何が変わらないのかの周知徹底や、18歳や19歳をあらゆる被害から守る法整備が、本当に間に合うのかが危惧しているところです」
坂東教授は弁護士でもあり、6月には参考人として参議院の法務委員会に出席し、今回の改正民法の議論に加わった。
引き下げに伴う社会への影響や、年齢要件の見直しが必要になる関連法が多い。そして、一度、改正した法律をもとに戻すのは容易ではないとして、慎重に議論すべきだ、との立場だった。
実際に今回、年齢要件の見直しが必要な22の法律の改正も決まった。
10年間有効のパスポート取得や、性同一性障害の人が家庭裁判所への性別変更申し立てなどを、18歳からできるようにするためだ。
金銭関係のトラブル
18、19歳の「成人」には、金銭関係でトラブルが増えるだろう、とも指摘する。
成人年齢引き下げによって、18歳から親権の対象外になり、親の同意なしに自由にクレジットカードやローンの契約ができるようになる。
それにより、多重債務だけでなく、悪質な業者による狙い撃ちの被害拡大の恐れがある。
親の同意なしの契約を原則取り消せる権利が、18歳から適用されなくなるからだ。
対策は不十分との見方
国民生活センターによると、20歳からの消費者トラブルの被害相談は、18、19歳に比べて多くなり、契約金額が高額だという。
「年齢を引き下げたら、間違いなく18、19歳が狙われるようになり、消費者被害は増えるでしょう」
「大人なのだから、自立して自分で考えなければいけない、などと言われる。そして、何もわからないまま契約書にサインしてしまう。悪質な業者は、そうやって相手の無知といった未熟さにつけ込んできます」
その懸念があり、今国会では、改正消費者契約法も成立させている。不安をあおる形で商品を売りつける「不安商法」や、恋愛感情に乗じた「デート商法」による不当な契約の取り消しができるようになる。
しかし、坂東教授はそれだけでは対策が不十分だとの見方だ。一部の被害者の救済にはなれど、消費者被害を完全に防止できないだろう、という。
他にはどんな影響が?
こういった金銭関係のほかに、成人式や養育費への影響も考えられる。
2022年度の成人式は、18〜20歳がまとめて式の対象者になる可能性がある。どう混乱を避けるか、主催する地方公共団体の対応が注目される。
「お酒ひとつをとっても混乱すると思います。成人しても18、19歳はお酒を飲めないけど、20歳は飲めることになりますから」
また、離婚後の子どもの養育費については、法律で何歳まで払うように、と定めていない。
支払い義務のある親が、期限は「成人になるまで」とし、その年齢を「18歳」と主張するケースが増えるだろう、と坂東教授は予想する。そのため受け取る年数が短くなる人が出てくると考える。
「施行するまでが勝負だ」
だからこそ、坂東教授は「改正民法が施行するまでが勝負だ」と言い、最後にこう語った。
「教育現場や社会の中でルールを教える環境を作り、子どもを守り、被害を可能な限り少なくするための仕組みや法整備が必要になります」
「可決、成立したから終わりではなく、国会や関係省庁で議論をし、これから何をすべきか継続して考えてもらいたいです」
民法改正で、何ができて、何ができないままになるのか。主な内容はこちら。
18歳から
- 結婚は男女とも「18歳以上」に統一
- 10年有効のパスポート取得
- 親の同意なしにクレジットカードやローンの契約
- 外国人の帰化
- 性同一性障害の人の性別変更申し立て
- 1人で民事裁判を起こす
- 医師や司法書士、公認会計士などの専門資格取得
これまでと変わらず20歳から
- 飲酒・喫煙、競馬や競輪などの公営ギャンブル
- 国民年金保険料の納付義務
- 養子をとる