「AIが生成したイラストではないか?」という指摘がSNSで拡散したことを受けて、大手企業が広告画像の使用を急きょ中止しました。
「ワコム」(埼玉県加須市)は、イラスト制作などに用いられるペンタブレットで、世界的なシェアを誇っています。そんな企業に関わる画像だっただけに大きな波紋を呼んでいます。
問題となったのは、ワコム米国支社がX(旧Twitter)に1月初旬に投稿した新年祝賀用のイラストでした。
「A NEW WACOM FOR THE NEW YEAR」(新年には新しいワコムを)とのメッセージを添えて投稿されたドラゴンの広告画像に対して、尻尾の位置や口の中の造形が不自然などの理由から「生成AIで作ったように見える」という指摘がSNSで相次ぎました。
こうした動きを受けて、米国支社は指摘を受けてイラストの使用を撤回。ワコム米国支社と日本本社が1月9日から10日にかけて、Xで声明を投稿しました。
それによると今回の画像は別の企業から購入したもので、ワコムとしては「AIが生成したイラストを使用する意図」はなかったと説明しています。
イラストを購入する際も「AIによって生成されたものではないことを確認して選択した」と続けました。さらに、一般的なAI検出ツールを複数使って「AIによって生成されたものではない」と確認していたそうです。
しかし、多くの意見が寄せられる中で「今回のイラストの全ての制作過程を確認することは難しい」との見解に至り、イラストの利用を直ちに取りやめたということだそうです。
「今後も皆様からのご意見を真摯に受け止めてまいります」と結んでいます。
ワコムの説明に関する反響は……
今回の騒動には大きな反響がありました
北極気候学の研究者の堀正岳さん(@mehori)は、今回の騒動について「AI を使っている動かない証拠があるのではなく、『尻尾とか足がそれっぽい』ことで断定しているのが怖い」とXで指摘しました。
その上で、AIではないことを証明しない限りは存在すら許されない社会になるのではないかという懸念を示しています。
「『AIっぽい文章』『AIっぽいアカウント』だけでなく、『考え』や『人間』まで証拠なしに叩くことにつながる」
「AIでないことを証明しないと存在できなくなる」
一方、哲学者の東浩紀さん(@hazuma)は飽くまでもAIが普及する過程での過渡期の現象という見解を示しました。
「そのうち人間の制作物と生成AIの制作物は完全に見分けがつかなくなり、ほとんどのひとも気にしなくなるだろうから、このような謝罪が出るのは過渡期のいまだけなのではないかと思う」
こうしたAIイラストの是非を問う見解とは別の意見も出ています。
世界的なペンタブレット大手なのに、別会社からイラストを購入したという経緯について「ワコムの商品を使って描いてないんかーい」と突っ込んだ上で、「愛用者の作家さん採用して欲しい」とデザイナーの困助(こますけ)さんは要望しています。
ワコム本社が投稿した声明全文
ワコムの投稿について
2024年1月10日
先週末、アメリカのワコムが投稿した内容に、生成AIによるイラストが使用されたのではないかと多くの方からご意見、ご指摘をいただいております。また、事実確認のために時間がかかり、状況と経緯についてご説明するタイミングが遅くなったことで、皆さまにご心配をおかけしました。
弊社としてはAIが生成したイラストを使用する意図はなく、今回のイラストを購入する際、AIによって生成されたものではないことを確認して選択したというのが経緯となります。
また、一般的なAI検出ツールを複数使用して検証した結果として、今回のイラストはAIによって生成されたものではないことを弊社として確認しておりました。一方、皆さまから多くのご意見をいただく中で、今回のイラストの全ての制作過程を確認することは難しいとの見解に至ったため、イラストの利用を直ちに取りやめることとしました。
弊社は、クリエイティブコミュニティの一員として、今回の件におきまして、多くの方からのご見解、ご意見をこれほど多くいただけましたことに感謝をもって真摯に受け止めたいと思います。
ワコムは世界中のアーティストのパートナーとして人間の創造性をサポートし、これからも誠実にクリエイティブコミュニティに貢献できるよう努めてまいります。
今後、イラスト使用のプロセスを見直し、更新してまいる所存です。
今後も皆様からのご意見を真摯に受け止めてまいります。
ワコムチーム