【魔女の宅急便】「あたしこのパイ嫌いなのよね」の真意は? 宮﨑駿監督が明かしていた(金曜ロードショー)

    宮﨑監督は映画完成時の1989年のインタビューで「僕はあのパーティーの女の子が出てきた時のしゃべり方が気に入ってますけどね」と語っていました。なぜなのでしょう?

    スタジオジブリのアニメ映画『魔女の宅急便』が3月22日夜、日本テレビ系の「金曜ロードショー」で午後9時半から放送。ジブリ作品の中でも根強い人気がある『魔女の宅急便』の知られざるトリビアを紹介しましょう。

    誕生日パーティーの少女にキキ(右)がニシンのパイを届けるシーン

    思春期の少女の葛藤を描いた『魔女の宅急便』

    魔女の血を受け継ぐ13歳の少女キキが、見知らぬ街コリコに辿り着き「魔女の宅急便」というビジネスを始めるという内容。

    宮﨑駿監督の映画といえば、それまで『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』のSF活劇の印象が強かったのですが、この作品では一転して、思春期特有の戸惑いや挫折が描かれていました。

    1989年の公開時には筆者も地元の映画館で見た記憶がありますが、キキと同じ13歳だったこともあってとても印象深い作品です。

    強烈な印象を植え付けた台詞「あたしこのパイ嫌いなのよね」

    そんな映画の中で特に心に残る台詞があります。キキが老婦人に頼まれて、孫娘の誕生日パーティーに向けてニシンのパイを届けるシーンです。

    老婦人のパイを焼くのを手伝うキキ

    故障したオーブンの代わりに、キキは薪を使ってパイを焼くのを手伝い、嵐の中をずぶ濡れになってホウキで飛びながら、パイを届けます。パーティー会場から現れた孫娘はちっともうれしくなさそう。受け取ってはくれたものの「あたしこのパイきらいなのよね」と言い捨てて玄関のドアを閉めます。

    苦労して届けたのに感謝されるどころか冷たい仕打ち。「ひどすぎる」とキキに同情してしまったのは自分だけではないはずです。

    一体、宮﨑監督は何を考えて、こんな台詞を少女に言わせたのでしょうか。『魔女の宅急便』について調べる中で、本人がインタビューでその意図を語っていたことが分かりました。

    嵐の中でずぶ濡れになりながらパイを運ぶキキ

    「あれは嘘をついていない、正直な言い方ですよ」宮﨑監督が明かした真意とは?

    それは、『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』(文春ジブリ文庫)に掲載されている1989年7月当時のインタビューです。映画は完成済み、上映される直前のタイミングで行われたものでした。

    宮﨑監督はこの台詞が「キキにとってはショッキングで、すごくダメージになることかもしれない」としつつ、「あたしこのパイきらいなのよね」という少女のしゃべり方が気に入ってると述べていました。

    少し長くなりますが、その部分を抜粋してみましょう。

    「老婦人のパイを届けた時に、女の子から冷たくあしらわれてしまうわけですけど、宅急便の仕事をするというのは、ああいう目にあうことなんですから。特にひどい目にあったわけじゃあなくてね、ああいうことを経験するのが仕事なんです」

    「僕はそう思いますし、キキはあそこで自分の甘さを思い知らされたんです。当然、感謝してくれるだろうと思い込んでいたのが……。違うんですよ。お金をもらったから運ばなきゃいけないんです。もし、そこでいい人に出会えたなら、それは幸せなことだと思わなくちゃ……。別に、映画ではそこまでは言ってませんけどね(笑)」

    「だから、僕はあのパーティーの女の子が出てきた時のしゃべり方が気に入ってますけどね。あれは嘘をついていない、正直な言い方ですよ。本当にいやなんですよ、要らないっていうのに、またおばあちゃんが料理を送ってきて、みたいな。ああいうことは世間にはよくあることでしょ」

    「それはあの場合、キキにとってはショッキングで、すごくダメージになることかもしれないけど、そうやって呑み下していかなければいけないことも、この世の中にはいっぱいあるわけですから」


    ・・・・・・

    少女の冷たい言葉は、キキが社会と向き合って成長するための通過儀礼だったようです。

    「世の中には優しい人ばかりではない」「仕事をしたからといって感謝されるとは限らない」という宮﨑監督からの子ども達へのメッセージが込められているように感じました。

    老婦人が作ったニシンのパイ