「戦争で一番苦しむのは一般市民」ガザ地区で避難中の日本人スタッフが訴えたいこと

    国際NGO「国境なき医師団」でガザ地区に派遣されている日本人スタッフの一人、白根麻衣子さんがBuzzFeed Japanの電話インタビューで現地の切実な状況を報告しました。

    写真左が2019年にガザ地区に派遣された際の白根麻衣子さん(国境なき医師団提供)

    イスラエルによる封鎖と空爆で危機的な状況にあるパレスチナ自治区のガザ地区

    現地で人道支援活動をしている日本人スタッフが10月23日、編集部の電話取材に応じました。

    「こういった戦争が起きると、一番苦しむのは一般市民だということを日本の方々に知って欲しい」と切実な思いを打ち明けました。

    取材に応じたのは5月からガザ地区で活動をしていた「国境なき医師団」の人事担当者

    ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」とイスラエルとの間で、10月7日から大規模な武装衝突が始まりました。双方の死者は24日までに6000人を超えていると報じられています

    今回、BuzzFeed Japanの取材に応じたのは、国際NGO「国境なき医師団」の白根麻衣子さんです。5月からガザ地区北部にあるガザ市に派遣され、人事の責任者を務めています。もともと10月末に任務を終えて帰国予定でしたが、現在はガザ地区から移動するめどは立っていないそうです。

    イスラエル政府がガザ地区の北部の住民に「南部に避難するように」と勧告が出た13日以降は、南部にある国連施設に避難しているそうです。インターネット回線が通じず、唯一の連絡手段となった電話もつながりにくくなっている中で、15分ほど通話ができました。

    2023年10月22日、ガザ地区南部のラファにて、イスラエルによる空爆後、破壊された建物の瓦礫の下敷きになったパレスチナ人の捜索・救助活動を行う人々(Getty Images)

    白根さんとの一問一答

    ——ガザ地区周辺で大規模な戦争状態となった10月7日、白根さんはどこにいてどんな体験をされましたか。

    私は普段暮らしている「国境なき医師団」の宿舎にいました。朝になって爆撃の音で目が覚めて、この戦争が始まったという流れになります。けがはなかったですが、そのあと、ずっと空爆が続いている状態です。

    ——ラファ検問所から21日に、ガザ地区の完全封鎖後に初めて人道支援物資が到着したということですが、現地の状況は変化がありましたか。

    今、私たちは避難をしていて国連施設の中にいるので、外の状況は分からないんです。状況として何か大きな変化があったという感覚は、私たちの中では全くありません。ガザ地区にいる約220万人に対して、トラック20台は少なすぎます。今回の封鎖が始まる前までは1日100台以上のトラックが入ってきており、今回は14日ぶりの供給でした。物資不足は本当に大変な問題になっています。

    ——日々の飲料、飲料水や食料の調達にも苦労されている状況と。

    私たちの分は、現地スタッフが避難場所の外に行って探してきてくれたので、 最低限のもの得られていますが、現地の人たちは、飲み水すら探すのが毎日大変なくらい。 本当に全ての物資が不足していて、日に日にひどくなっています。

    ——「国境なき医師団」のスタッフはガザ地区全体では何人ほどいますか。

    正確な人数を今、把握するのは難しいですが、現地スタッフと海外派遣スタッフを含めて300人前後が働いています。今も現地スタッフはできる限りの医療行為を続けています。「全く医療行為していない」というわけではなくて、 海外派遣スタッフは避難していますが、一部の現地のスタッフは自分たちの命をかけてまだ患者さんを見ている状況です。

    ——今回のガザ地区への空爆が始まって以降、白根さんは「国境なき医師団」での人道支援の業務というのはできていない形ですか?

    国際スタッフは全員退避をしているため、もうインターネットも使えなくて、今かけているこの電話で連絡をとっている形です。 オフィスもなく、避難している状態なので、一切そういった活動はできてないです。

    ——今こうやって電話ができていますが、通話できる時間はかなり限られている?

    時間が限られているというよりは、繋がらないことが多い状態です。今日もお約束の時間から1時間遅れてしまったように、(電話回線が)不安定な状態です。
    ——日に日に現地の状況はひどくなっているということですが、特に白根さんが訴えたいことはなんでしょう?

    まず一番は、即時の停戦を望みます。この2週間以上で見てきたものは、無差別な暴力が本当に絶えることなく続いていることです。罪のない一般市民や女性、子ども、患者さんたちといった弱い立場の人たちが、この戦争の一番の被害に遭っています。あと望むのは物流の再開です。もともと物流は厳しく制限されていたのに、全てがストップしてしまっているので、その再開も望みます。

    ——白根さんの今後の動きについては。

    国境が開いていないので、人も物も出ることもできない。全くそういった見通しが立ってないのが現状です。

    ——人も物も出れない状態と。

    こういった戦争の場合、一般市民が戦争に巻き込まれないためには人道回廊が必ず設置されるべきなんですが、今回は一切ない。市民たちも「逃げろ」と言われても逃げる場所がなく、本当に途方に暮れています。空爆の中、命の危機と隣り合わせという状態が毎日繰り返されています。

    ——日本に住んでいる人からすると、ガザ地区は遠く離れた地域のため、そこで起きていることに実感が沸かない側面もあるかと思います。ガザ地区にいる日本人として、日本の皆さんにまず伝えたいことはなんでしょうか?

    こういった戦争が起きると、一番苦しむのは一般市民だということを日本の方々に知って欲しいと思ってます。もし、日本も戦争になったら一番苦しむのは、一人一人の市民です。これまでの日常生活が一変してしまってしまうというのは、ぜひ伝えていただきたいと思います。

    白根麻衣子さんのプロフィール

    写真左が2019年にガザ地区に派遣された際の白根麻衣子さん(国境なき医師団提供)

    大学卒業後、銀行にて個人営業に従事。退職後、日本とイギリスで修士課程修了。インターナショナルスクール勤務を経て、2016年、国境なき医師団日本事務局の人事・総務担当として入職。2017年より、アドミニストレーターとして海外現場での活動に参加。これまで、ウクライナ、パレスチナ・ガザ地区、アフガニスタンのプロジェクトで活動しています。