この景色が「当たり前」ではなかった理由、あなたは知っていますか?

    トンネルのように覆いかぶさって咲き誇る「夜の森の桜」の大部分は、原発事故の影響でバリケード越しにしか観ることができませんでした。除染が進んだことで、今年は事故後初めて、人々が直接、その下を歩くことができるようになりました。

    原発事故で立ち入りが規制されていた桜並木で、12年ぶりに自由に花見が楽しめるようになりました。

    福島県富岡町夜の森地区の「夜の森の桜並木」です。2キロ余り続く並木は古くから地元の誇り。しかし、東京電力福島第一原発の事故後に立ち入りを規制されていました。除染が進んだことで、規制が緩和されたのです。

    「この桜並木は復興のシンボル」。BuzzFeed Newsは、地元の人々の日常や夜の森の桜の撮影を続けてきた男性に取材し、思いを尋ねました。

    富岡町は第1原発から約8キロ南にあります。一帯は原発事故後に広く避難指示が発令されましたが、2017年から20年にかけて、JR常磐線夜ノ森駅周辺など復興拠点となった一部の帰還困難区域まで順次、解除されていきました。

    それでも夜の森地区の大半は帰還困難区域のままで、立ち入り禁止のバリケードが設置されていました。しかし除染が進んだことで規制が大幅に緩和され、今年1月から自由に立ち入れるようになりました。

    「原発事故以来初めて入れたんですよね…。これまではバリケードの中でひっそりと咲いているようだったけど、今年は皆に見られて桜も喜んでいるんじゃないかな」

    鈴木教弘さん(39)は4月10日、妻と小学生の子どもたち3人と、夜の森の桜並木を見に行きました。

    鈴木さんは富岡町の隣、楢葉町在住。楢葉町も津波で被災し、原発事故で全町避難となりました。2015年9月に全町避難の自治体として初めて避難指示が解除され、住民の帰還が進んでいます。

    鈴木さんは楢葉町職員として働く傍ら、「無料写真家」としても活動。2015年頃から楢葉、富岡両町を中心に、浜通り地方の復興の様子や、人々の何気ない日常を記録してきました。

    津波に襲われた富岡町の漁港から撮った花火。避難指示解除翌年に地元から見た初日の出。寒空の中バリケード外でよさこいを踊る女性。そして3月11日に灯された光へと祈りを捧げる子ども…。

    そんな写真を、鈴木さんはインスタグラムで公開しています。

    「震災と原発事故から、もう11年が過ぎて、最近は3・11の当日などいわゆる節目の日しか話題に上らないように感じていました」

    「でも、福島の人の日常と営みは変わらず続いているわけで、それを記録して残すのは地元の人しかできないと思い、シャッターを切っています」

    12年ぶりに桜並木の下を歩き、楽しんだ鈴木さん一家。震災と原発事故前のように、大勢の人が夜の森に集まって写真を撮ったり、談笑したりする様子を見て、「一歩一歩、着実に日常に戻ってきている」と感じたそうです。

    中には桜を見上げる赤ちゃんの姿も。一緒に行った鈴木さんの小学生の子どもたち3人も11年前のあの日、まだ生まれていませんでした。

    「月日が流れるのは、本当に早いですね。この桜を見て子どもたちが何かを感じ取ってもらえたら嬉しいです」

    「つい何年前までは福島はどうなるんだろう、という状態だったのが、ここまで戻ってきたんですから」

    そして、自身の「写活」と復興の思いも重ね合わせました。

    「まだ故郷に帰れない人はたくさんいます。町職員としての仕事はもちろんですが、自分が撮った写真を誰かが見て、少しでも『福島』に思いを馳せてくれるなら、それ以上の喜びはないです」

    震災と原発事故から4月で11年1ヶ月。夜の森地区などでは、11日から帰還に向けた住民の「準備宿泊」も始まりました。復興へのスピードが加速しています。