なかなか進まないと指摘されてきた男性の育児休暇取得。
男性の育児休暇を推進する企業では、平均の取得率が約8割に達し、平均の取得日数は40.7日となったことが分かった。
調査結果が3月15日、厚生労働省で公表された。
しかし、育休の取得率は100%でも、取得日数は平均で「数日」にすぎず、実態として男性育休がしっかり定着しているとはいえないケースもある。
他の先進国と比べ、男性が家事・育児をする時間が短いといわれる日本。
男性が育休を取得する意義は。そして、育休を取得するだけでなく、その日数を増やすには、どうすればいいのか。
男性の育休取得率の底上げを図る「厚生労働省イクメンプロジェクト」が昨年12月〜今年1月、インターネットで回答を募る方法でアンケートを行った。
育休の取得者数や取得日数、制度の周知、労働時間、働き方などについて、金融・保険、IT・メディア、製造、官公庁、サービスなど、141社・団体が回答した。
いずれも、育休取得を推進している企業・団体だ。
大幅に男性育休取得率を伸ばしている企業
141社・団体での男性育休取得率は2022年度、76.9%となり、20年度(52%)から24.9ポイント上がった。
一方、厚労省が発表している「雇用均等基本調査」の男性育休取得率をみると、20年度は12.65%、21年度は13.97%だった。
このことから、男性の育休取得を推進している企業では、大幅に取得率が伸びている一方、その他の企業では歩みが遅いことが分かった。
取得率は高いが、取得日数は数日という企業も
とはいえ、育休の取得率が向上している141社・団体にも、課題はある。
育休の取得日数だ。
例えば、金融・保険業界(13社が回答)の男性育休取得率は2022年度、平均で98%に上ったが、平均取得日数は2週間未満の11日にとどまった。
このほか、取得率は100%でも、日数は数日という企業もあった。
育休は取れるが、短いということだ。
調査に協力した「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長は、「業界の特徴として、長時間労働と仕事の属人化、長期で休めない風土がある」と指摘。
誰が休んでもフォローできる環境づくりが進んでいない企業では、休む側の肩身が狭くなるため、取得日数が増えない傾向にあるという。
その上で、「全社で働き方改革を行い、仕事が『見える化』されている企業では有休消化率も高い。特別な事情がなくても休める風土があるため、男性も長期で育休を取得することができる」と話した。
中小企業の取り組み
男性育休の取得率や取得日数を伸ばしている中小企業もある。
新潟県長岡市の屋根金具製造「サカタ製作所」(150人)では、2018年度から5年連続で男性育休取得率が100%に達し、平均取得日数も22年度は154日になった。
トップが「男性育休100%宣言」をしたり、仕事の属人化を解消したりし、誰もが育休を取りやすい環境を整えた結果、入社を希望する人も増えていった。
岩手県盛岡市のクラフトビール製造「ベアレン醸造所」(50人)も、21年度から2年連続で男性育休取得率100%を達成。平均取得日数は22年度、90日だった。
全社的に働き方改革を実施し、店長の業務を他の従業員に振り分けて3か月の育休を取得させるなど、仕事の属人化を解消する取り組みを進めた。
今回の調査でも、職場全体で働き方を実施している企業は、実施していない企業と比較して取得日数が約2倍になったことがわかっている。
なぜ育休を長期で取得するべきなのか
男性が育休を長期で取得することには、どんな重要性と意義があるのだろうか。
ワーク・ライフバランスの小室社長は、「妻と子供の命を救う重要な役割がある」と話す。
産後うつは、出産後2週間から1か月の間に起きやすいといい、少なくともこの期間に夫が育休を取得することで、パートナーの負担を軽減できる。
これは、たった「数日」の育休取得では実現できない。
小室社長は、「子どもは夜、数時間おきに夜泣きをし、その度におっぱいをあげたり、ミルクを飲ませたりしなければならない。夫が育休を取ることで、明日の仕事のことを考えず、2人で協力することができる」と話した。
どれくらいの取得日数が望ましいのか
ただ、1か月の育休取得日数は「最低ライン」で、パートナーが再び職場に定着できるように、もっと長い期間や交代で取得することが望ましいという。
厚労省イクメンプロジェクト座長で、NPO法人フローレンスの駒崎弘樹会長も「働き方改革や男性育休取得の推進が行われていない企業は選ばれなくなり、自然と淘汰される」と指摘。
近年、学生は男性育休の取得率だけではなく、日数もしっかり見る傾向にあるといい、次のように述べた。
「企業は育休取得率だけでなく、取得日数にもしっかり目を向けなければならない。きちんとこの問題に向き合っていないと、学生や就職を希望する人がいなくなる」