今年も梅雨のシーズンがやってきました。「洗濯物が干せない」「外で遊ぶ予定が」ーー。
もう夏を待ち望んでいる人もいるかもしれません。一方、「梅雨がない」と言われる場所があります。北海道です。
気象庁が発表する「梅雨入り・明け」も沖縄から東北北部まで。なぜなのか。札幌管区気象台の大木紗智・技術専門官に理由を聞きました。
そもそも梅雨とは
ーー基本的なことですが、梅雨の定義を教えてください。
北海道に梅雨がないと言われている理由については、問い合わせも結構あるようですね。
まず、そもそも梅雨とは何かについて説明します。
梅雨の定義は、「晩春から夏にかけて、雨や曇りの日が多く現れる現象、その期間」です。
では、なぜそのような現象が起こるのか。その要因の一つに、「梅雨前線」があります。
ーー梅雨前線という言葉はよく聞きます。
梅雨前線は、日本の北側にあるオホーツク海高気圧と、南側にある太平洋高気圧の間にできます。
オホーツク海高気圧は冷たく湿った空気を北側から流します。一方、太平洋高気圧は暖かく湿った空気を南側から流します。
すると、冷たい空気と暖かい空気がぶつかり合い、そこに梅雨前線ができます。
そこでは風がぶつかり合っているので、上昇気流が起こります。上がっていった空気は上空で冷やされ、雲になり、雨が降ります。
この梅雨前線は、2つの高気圧の勢力によって北に移動したり、南に移動したりしますが、一般的には沖縄からだんだんと上がり、東北までいきます。
なぜ北海道は梅雨がないと言われるのか
ーーなぜ北海道には梅雨前線の影響がないのでしょうか。
梅雨前線は北海道まで上がってこないことが多く、顕著に梅雨という現象はみられません。
理由は、2つの高気圧の勢力関係にあります。
梅雨前線が北に上がってくる頃には、南側の太平洋高気圧の勢力が強くなり、オホーツク海高気圧の勢力は弱くなっています。
前線は、2つの勢力が同じくらいの大きさでなければ維持できません。片方だけが強い状態では、前線としての構造を維持できず、弱まってしまうのです。
これが、北海道に梅雨がないと言われる理由です。
蝦夷梅雨とは
ーー「蝦夷梅雨」というのを聞いたことがあります。
たまに北海道付近まで前線が近づき、梅雨のような現象が起きることもあります。
それを、「蝦夷(えぞ)梅雨」と呼ぶ人もいます。
特に、函館など道南地方はその傾向があるようですが、蝦夷梅雨は定義がはっきりしていません。
例えば、オホーツク海高気圧から冷たく湿った空気が入ってくるので、オホーツク海側の地域では5、6月に曇って寒い日が続くことがありますが、これを蝦夷梅雨と言う人もいます。
ただ、基本的には北海道で本州のような梅雨の現象は見られません。
ーー蝦夷梅雨の正式な定義はないということですね。
はい。蝦夷梅雨の定義ははっきりしていないので、気象庁では正式な用語としては使っていません。
温暖化の影響で北海道に梅雨は来るのか
ーー梅雨の時期、本州から北海道に来る人もいそうですね。将来、温暖化の影響などで北海道に梅雨が来ることはありますか?
正直、温暖化の影響で北海道がこの時期、梅雨のような気象状況になるかどうかはわかりません。
ただ、気温が上昇しているのは事実です。気温が上がると、空気中に水蒸気をいっぱい含むことができます。
その分、雨が降る量が増えるという予測結果は出ています。
しかし、それがどのような影響を及ぼすのか……。はっきりとは言えない状況です。
今後の観測・予測情報は?
大木さんのインタビューを終え、札幌管区気象台が国の「日本の気候変動2020」をもとにまとめたリーフレットを見てみました。
それによると、札幌市の20世紀末(1980〜99年の平均)の年平均気温は8.7℃で、100年あたり約2.5℃の割合で上昇しているそうです。
また、北海道では短時間強雨(1時間降水量30ミリ以上)の発生頻度も増加しており、約30年前と比べておよそ1.6倍ということです。
今後はどうなるのでしょうか。リーフレットでも以下のように地球温暖化の影響をまとめています。
「夏の猛暑や強い雨がさらに激しくなり、暑さによる健康被害、大雨による土砂災害や水害、高温による農作物の被害などの影響があると考えられています」
ただし、この影響は世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に保つことを目指す「パリ協定」が達成できるかどうかで事情が変わってきます。
達成できず、追加的な緩和策を取らない場合、札幌市を含む石狩地方の年平均気温は21世紀末(2076〜95年の平均)と20世紀末の比較で、平均気温は4.9℃上昇します。北海道の「短時間強雨」の量も約4.1倍となります。
一方で、達成できた場合は、で約1.5℃の上昇に抑えられ、「短時間強雨」の量も約1.7倍になります。
地球温暖化が北海道の「梅雨」にどのような影響を及ぼすかは、いますぐにはわかりません。
しかし、北海道に限らず、日本各地で大きな水害など発生し、増加傾向にあるのは事実。まずは自分達にできることを考えていきたいですね。