「パチンコ客の車から赤ちゃんの泣き声が…」子どもの置き去り、15分で「命」の危険。実験でわかった「灼熱」の車内環境とは?

    車に子どもを置き去りにすると、短時間でも命の危険があります。どれほど危険なのか、JAFの実験結果を通じてわかりました。

    保護者が子どもを車に置き去りにする事件が、後を絶たない。

    今年も、駐車場に乳児を置き去りにした男女が逮捕されたり、車内に放置された男児が熱中症で死亡したりしている。

    置き去りが特に多いのはパチンコ店の駐車場で、2017〜21年度の5年間で計447人の子どもを、スタッフらが発見している。

    夏本番のこの時期、閉め切った車内にはどんな危険性があるのか。

    「日本自動車連盟」(JAF)の調査で、わずか15分でも、命を脅かす状態になることがわかった。

    事件を振り返る

    北海道警は6月30日、旭川市の男と内縁の妻を保護責任者遺棄容疑で逮捕した。

    容疑は、生後4か月の長男を約1時間半にわたり、パチンコ店駐車場に止めた軽乗用車に置き去りにした疑い。長男にけがはなかった。

    新潟市では5月25日、父親が男児(1)を車内に残したまま出勤してしまい、約3時間後に発見。男児はまもなく熱中症で死亡した。父親が保育園に送り届けるのを忘れていたという。

    過去にも痛ましい事件が発生している。

    千葉県八千代市では昨年7月、駐車場に止めた車に女児(1)を置き去りにしたとして、母親が逮捕された。女児は熱中症とみられる症状で死亡した。

    母親は「エアコンをつけていた」と話したが、その日は午前11時までに気温が30度以上の真夏日になっていた。

    (いずれも朝日新聞の記事から引用)

    注意したスタッフをスマホ撮影する客

    一方、パチンコ店の駐車場では置き去り事案が多く、全国組織「全日本遊技事業協同組合連合会」(全日遊連)は「車内放置は『児童虐待』です」と注意を呼びかけている。

    全日遊連によると、痛ましい事件を防ぐ目的で店舗スタッフらが駐車場を巡回しているといい、放置された子どもを発見した場合は警察に通報するなどしている。

    これまで発見した子どもは、2017年が104人、18年が130人、19年が135人、20年が45人、21年が33人の計447人。

    20年以降はコロナ禍で減ったとみられるが、17〜19年間は100人以上の子どもが車内で放置されていた。

    全日遊連は、スタッフが子どもを発見した際の詳しい状況も公表している。

    (2021年4月3日、長崎県、気温24度)

    警備員が軽乗用車から子どもの泣き声が聞こえることに気づいた。車のエンジンは停止中で、無施錠のドアを開けると毛布がかけられた4か月の乳児を発見。熱中症の恐れがあり、救急隊が手当てした。保護者はその後、保護責任者遺棄容疑で逮捕された。

    (2021年8月10日、静岡県、気温33度)

    駐車場の車から「赤ちゃんの泣き声が聞こえる」と通報。エンジン停止中の車内に1歳未満の乳児が座っており、未施錠だった。スタッフが女児に保冷剤を当てるなどして熱中症対策を実施。保護者はパチンコ店近くのドラッグストアにいた。

    (2019年8月26日、福島県、気温28度)
    スタッフの巡回で車内後部座席に数か月の乳児が寝ているのを発見。エアコンは停止中だった。店内放送で保護者を呼び出し、危険性に伝えたが、反省する様子もなく立ち去った。

    多くはスタッフの注意を受け入れるが、なかには無視したり、怒鳴ったりする客のほか、スマホでスタッフを撮影し始めた客もいたという。

    5分で「10度」も上昇

    では、車内に子どもを残す行為には、どれほど危険性があるか。JAFが車内温度の上昇を検証する実験を行っている。

    実験では、色や条件が違う車を5台用意。

    1. 窓を閉めてエンジンを切った白色の車
    2. 窓を閉めてエンジンを切った黒色の車
    3. フロントガラスに日差しを遮るシートを装着した白色の車
    4. 前後の窓を3センチほど開けた白色の車
    5. エアコンを25度で設定した白色の車


    実験は、気温が35度に上った正午から午後4時まで。それぞれに温度計をつけ、車内を25度程度に設定してスタートした。

    すると、①(窓を閉めてエンジンを切った白色の車)の車内温度は、たった5分で25.5度から35.4度に上昇した。

    さらに5分後は37.8度と、10分間で12度も上昇。ダッシュボードは55.6度だった。

    ①〜⑤の最終的な結果は次の通りだ(いずれも最高温度)。

    ①:車内:52度、ダッシュボード:74度

    ②:車内:57度、ダッシュボード:79度

    ③:車内:50度、ダッシュボード:52度

    ④:車内:45度、ダッシュボード:75度

    ⑤:車内:27度、ダッシュボード:61度

    15分で「危険」に

    ⑤に関しては、車内の最高温度こそ27度にとどまったが、もしエンジンが止まれば温度は急速に上がるうえ、ダッシュボード付近は日差しで高温となっており、安心できる状態ではない。

    また、実験では車両の暑さ指数(WBGT)も計算。

    環境省によると、WBGTは湿度や日射などの周辺熱環境、 気温の3つを取り入れた指標で、「注意」(25未満)、「警戒」(25〜28)、「厳重警戒」(28〜31)、「危険」(31以上)の4段階に分かれる。

    「危険」は、運動は原則禁止で、高齢者は安静状態でも危険性が大きく、外出をなるべく避けることが求められる。

    この実験では、何も対策をしていない車両では10分後に「厳重警戒」となり、15分後には「危険」となった。

    たとえ短時間でも、車内に子どもを放置してはならないことがわかる。

    JAFは「『少しの間だから』と油断すると、大人であっても熱中症の危険は十分にある」と注意を呼びかけている。

    (サムネイル:JAF)