「15万なら安かったですね」マッチングアプリで知り合った女性からバーに誘われ…。被害者に聞いた「出会い」を悪用する手口とは

    マッチングアプリを悪用したトラブルに、警視庁も動画を作成するなどして注意喚起しています。

    マッチングアプリで出会った女性に誘われ、ついて行った先の飲食店で「ぼったくり」に遭うーー。こんな被害が後を絶たない。

    店側と女性が裏でつながり、マッチングアプリを悪用して客を引き込んでいるとみられ、警視庁も動画を作成してSNSで注意を促している。

    BuzzFeed Newsは被害に遭った男性を取材。女性と出会ってから現金を支払うまでの一部始終を聞いた。

    好きだった女性にフラれて……

    「好きだった女性にフラれて……。寂しさを紛らわそうと、マッチングアプリに登録しました。それからすぐの出来事でした」

    都内に住む会社員男性(23)は、こう嘆いた。

    アプリは5月に始めたばかり。10日に「今日飲みに行ける人〜??」と記載していた女性とマッチングした。写真上は大きな瞳が印象的な21歳の女性だった。

    やりとりしていると、女性からLINEで次のようなメッセージが届いた。

    「よろしくお願いします!久々飲みに行くので楽しみです」

    「東新宿駅のマックの前待ち合わせでいいですか」

    午後6時半から飲みに行くことになり、指定されたファーストフード店で待っていたが、1時間、2時間たっても女性が来る気配はない。

    「仕事が長引いています」「めっちゃ急ぎます」。そのようなメッセージが五月雨式にきたため、男性は帰るに帰れず、「焦らず平気ですよ」などと返信して待っていた。

    結局、女性が来たのは約束の時間から3時間半後の午後10時前。容姿もプロフィール写真とは違うような気がした。

    しかし、長時間待ったほか、「待たしたお詫びにおごります!」と言われたため、不満を抑えて予定通り飲みに行くことにした。

    威圧的な態度で……

    入った店は、新宿・歌舞伎町のバー。女性の「おすすめ」という。周囲には飲食店もあり、怪しい雰囲気はなかった。

    開始早々、女性は「(酒を)ショットで飲もう」と提案してきた。虚をつかれたが、飲み放題と説明され、どんどん酒を勧められた。

    女性も「今日は酔いたい気分なんだ」と少しずつ飲み始めたため、言われるがまま、フルーティーで飲みやすいという「クライナー」をショットで数杯飲んだ。

    そして、1時間しかたっていないにもかかわらず、店員男性が会計を持ってきた。そこには、想像もしていない金額が刻まれていた。

    「え、14万4000円?」

    すると、店員の態度が威圧的に変わった。「払えないなら無銭飲食で通報するよ」。

    奢ると言っていた女性も「今、持ち合わせがないから、立て替えてくれれば必ず返す」と泣きついてきた。

    「そもそも飲み放題だったよね」。そんな思いもあったが、初任給をもらったばかりの社会人1年目。警察沙汰にされて会社に連絡がいってしまったらーー。

    店員の指示でコンビニに向かった。ATMで現金を引き出し、その場で支払いを終えた。

    その間、店員に荷物や免許証、クレジットカードなどを取り上げられたという。

    一方の女性は「絶対に返すから」と言い残し、逃げるようにタクシーで去っていった。

    不安になった男性はすぐ、「ほんとに返してよ」「奢ってくれるって言ったもんね」とLINEすると、突き放すような返信がきた。

    言ってません。虚言やめてください

    ここで我に帰った。「お店とグルだったの?」。その後、メッセージが返ってくることはなかった。

    「15万円なら安かったですね」

    その後、男性は警察に駆け込んだが、「ぼったくり店の摘発はできても、個人間のやりとりは民事不介入ですね」と説明された。

    また、歌舞伎町ではこのような被害が相次いでいるといい、警察官はこのように言ったという。

    「15万円なら安かったかもしれないですね」

    現在、男性は女性が「なりすまし」だとして、登録情報をマッチングアプリ側に通報。弁護士にも相談している。そして、言葉少なにこう述べた。

    「『無銭飲食』という犯罪行為をこちらがしているという認識を押し付けられ、酔っていて正常な判断ができなかったので払ってしまった」

    「初任給はほぼ消えました。女性のことを信じていたが、その気持ちを悪用された。まさか自分がこんな被害に遭うとは微塵も思っていなかったです」

    ぼったくられた人が直後に犯罪に走ったことも

    このような手口のぼったくりは繁華街で相次いでいる。

    朝日新聞(2021年12月2日付)によると、少女(18)に違法接待をさせたとして、歌舞伎町でバーを経営していた男を警視庁が風営法違反(無許可)容疑で逮捕した。

    男は女性を装ってマッチングアプリで男性とやり取りした後、少女にアプリの利用者として男性客と接触させ、「(男が経営する)バーで一緒に飲もう」と誘わせていた。

    このバーをめぐっては、「ぼったくりだ」という苦情が約30件寄せられていた。

    ぼったくり被害が起因の事件も発生している。

    東京新聞の記事(今年1月18日付)によると、新宿署に強盗致傷容疑で逮捕された男は昨年12月、犯行直前に歌舞伎町のバーでぼったくり被害に遭っていた。

    マッチングアプリで知り合った女性とバーにいき、飲食代を17万円請求され、手持ちの現金がなかったことから近くのディスカウント店で40万円のネックレスをクレジットカードで買わされていた。

    その後、新宿区の路上で通行人男性に暴力を振るい、14万円を奪った容疑で逮捕された。「直前にぼったくりに遭い、むしゃくしゃしていた」と話したという。

    甘い誘いは、ぼったくり!

    Twitter上でも、前述の男性と同様の被害を訴える投稿が複数見つかる。

    マッチングアプリでぼったくりバーに連行されて10.57万円失ったときは具合悪すぎて3週間まともに動けませんでした

    マッチングアプリで知り合って飲みに行ったらぼったくりバーで28万払った

    店の人間と女性がグルだったらしくて4万円くらい請求された

    警視庁は、ホームページやTwitterで「甘い誘いは、ぼったくり」と注意を促す動画を配信している。

    動画は、マッチングアプリで知り合った女性から「私が知っている店に行きません?」と言われる場面から始まる。

    乾杯した後、女性が「飲んで、飲んで」とアルコールを執拗に勧めてくる。その後、女性が突然席を離れてお会計。

    請求書には55万円と記載。水割り10万円、アイス10万円、フルーツ盛り合わせ20万円。「払えない?身分証出せ!」と店員に詰め寄られるーー。

    被害男性への取材や警視庁の注意喚起から、店とマッチングアプリで知り合った女性が「グル」の場合の手口をまとめた。

    1. マッチングアプリで女性と出会う(なりすまし登録も)
    2. 新宿・歌舞伎町など、女性の「おすすめのバー」に連れて行かれる
    3. 女性からショットで酒を飲むように促される(飲み放題と事前に言われたり、料金表が低価格に記載されていたりする)
    4. 酔っ払ったあたりで、店員から高額請求をされる(クレジットカードが使えないと言われることも)
    5. 女性から「絶対に返すから」と支払いを促されるほか、店員から「払わなければ無銭飲食で通報する」などと言われる
    6. 店員とATMに行き、その場で支払わせられる(その間、身分証を取り上げられる)
    7. いつの間にか女性が立ち去っている


    東京都では、いわゆる「ぼったくり防止条例」が施行されている。

    実際に請求する料金よりも低いと誤認させたり、会計時に乱暴な言動で荷物を取り上げたりする行為などを禁じている。

    万が一被害に遭った場合は、料金明細などの証拠を残して警察に通報することが重要だ。