「自分の仕事にオーナーシップを感じてほしい」 Wantedly仲暁子が貫いてきた働き方への思い

    新サービス「Case」や、ウォンテッドリー起業の経緯について聞いた。

    ビジネスSNS「Wantedly」を運用するウォンテッドリーは、4月18日にクリエイター向けサービス「Case」をリリースした。

    作品やプロダクトを投稿することによって、クリエイターや企業が繋がることのできるプラットフォームだ。

    このサービスをリリースした意図とは何か。BuzzFeedはウォンテッドリーのCEOである仲暁子さんに取材した。

    話題は「Case」のことから、漫画のこと、そして起業の話にまでおよんだ。


    自分の仕事にオーナーシップを感じてほしい


    −−「Case」とはどのようなサービスなのでしょうか。

    クリエイターが、学歴職歴ではなくアウトプットによってちゃんと評価される場所。作品の投稿ができたり、クレジットをちゃんと入れられるのが特徴です。

    見る側は、クリエイターや会社をフォローして仕事の依頼をすることができます。投稿する側にとっては、自分のアウトプットを武器にして、次のおもしろい仕事をどんどん探していく場所になればいいですね。

    リリースから1週間経った現時点で、ユーザーは約3000人です。投稿コンテンツ数は500人です。

    −−どういう人たちに見て欲しいのでしょうか。

    メインはデベロッパーやエンジニアを想定しているのですが、プロダクトとか広告キャンペーンのクリエイティブに携わる人たちにも見てほしいです。

    サービスは全部英語です。だから、(日本だと)海外に目を向けているようなクリエイターの人たちに使ってほしいですね。クオリティの高いものを作っている人たちは、海外でも仕事をしていると思うんです。海外と言いましたが、もともとそんなに国境みたいな考え方が好きじゃないんですよね。ユーザーが好きだったら国とか関係なしに使われると思うので、そういうものにしていきたいですね。

    まずはアジアで広めていって、いずれは中東やヨーロッパ、欧米、南米にも広がっていったらおもしろいなと思います。

    −−どうして、このサービスを作ったのでしょうか。

    自分の仕事にオーナーシップを感じてほしいからです。仕事がおもしろく感じられる要素っていくつかあると思うんですけど、その中でも特に大きいと思うのがオーナーシップだと思うんです。自分の作品が名前を冠して世に出ていくと、愛着もわくし、雑用みたいなことでもやりがいを感じられますよね。

    映画とかアニメの世界だと、エンドロールに自分の名前があって次のオファーがかかる仕組みがあると思います。でも、制作会社やクリエイターは、会社によっては誰が作ったのか顔が見えなかったりします。だから、なかなか作ったものだけで評価されにくい状況なのかなと思っていて、そこを変えていきたんです。

    クリエイターってアウトプットが本質だと思うんです。大学を出ていなくても、イケてるプロダクションに勤めていなくても、作ったもので勝負できればいいわけなので。作り手がパワーをもてる世界に近づけるように、貢献できたらいいですね。すでにそういう世界だとは思うんですけど。

    私自身、物作りが好きだったんです。何かを作っていると、没頭できるし、時間と空間を忘れられる。そういうことをして人生おくれたら楽しいだろうな、と思っていました。中学生のときは映画監督になりたいと思っていました。なりたかったと言っても、若かりし頃の妄想みたいなものでしたけどね。

    エヴァンゲリオンは日本人を救っている

    −−映画監督になりたかったんですね。

    職業の名前だけでかっこいいと思っていたんでしょうね。どちらかというと、漫画家の方がガチで目指していました。Amazonでも配信していたんです。

    コンテンツとか物作りが私のルーツなんです。映画とか、絵画とか、やっぱり人の気持ちに訴えかけるじゃないですか。いまは物にあふれているので、別に物に対する欲求はなくなってきていると思います。お金持ちがアートにすごいお金使うのって、心の救済みたいなことだと思うんですよね。

    庵野秀明さん(『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズなどを手がけるアニメーター)が好きなんですけど、エヴァンゲリオンって登場人物が全員病んでるんです。多分、そこに自分を投影して救われている人が多いんじゃないかな。日本って、無宗教じゃないですか。アメリカだと「神様の試練だ」って乗り越えられるようなことを、いろいろ悩んでいる気がする。漫画とかアニメって、そんな日本人のガス抜きみたいになっていると思っているんです。けっこうドロドロしたものが描かれていたりするから。

    何もやらないよりは失敗した方がいい

    −−漫画家を目指されていたけれど、大学に進学されたんですよね。

    そうです。母親が大学で教えてたので、「大学は行った方がいいよ」って言われて。京大を選んだのも、箔がつくからなるべくいいところに行っておこう、みたいな単純な理由でした。経済学部を選んだのも消去法でした。

    大学に入った後は、「意識高い系」でしたね。起業ブームだったので、起業したり。本当にしょぼかったんですけど。でも、学生のうちだったらリカバリーがきくので、小さく転ぶならいっぱい転んだ方がいいと思いますけどね。

    リカバリーがきく範囲なら、何もやらないよりは失敗した方がいいと思うんです。学生の起業って99.9パーセント失敗しますよね。でも、その失敗にこそ価値があると思うんです。

    流れに身をまかせる

    −−その後、いったん就職されたのですか

    そうですね。流されたみたいな感じで。就活ってゲームみたいになってるじゃないですか。「周りもみんなやってるし、一応受けてみようかな」みたいな感じ。ゴールドマンサックス証券から有り難たく内定いただき、社内の皆さんも本当に優秀な方ばかりで、そういう方々に囲まれて自分も精進したいなと思ったので入りました。

    でも、入社した年にリーマンショックが起きてしまった。雰囲気も変わったし、人もいなくなっちゃって、人生1回きりだと思って辞めました。

    −−もし、リーマンショックが起きていなかったら、そもまま働き続けていたのでしょうか。

    かもしれないですね。順応性が高いので。

    −−そんなに人生のテーマみたいなものがあるわけでもないんですね。

    そうです。go with the flowみたいな感じで、流れに身をまかせています。

    学生のときは、将来の予定を手帳につけたりしていました。でも、そういうのって書いている瞬間は気持ちいいけどすぐ忘れちゃうんです。何歳までに◯◯しよう、みたいな目標も立てたりしたんですけど、思い通りになりませんでした。今は、とにかく目の前のことを精一杯やろうっていう感じです。

    選択肢が多いことは弱さ

    −−辞めた後はどうされていたんですか。

    友達がいない土地(北海道)に行って、朝から晩まで漫画を描いていました。でも、だんだん迷走していって、作風も実験的な感じになっていってしまいました(笑)。

    それで、集中力が落ちてきたのでサイドプロジェクトをはじめたんです。漫画って投稿しているうちにボツ原稿がどんどんたまっていくんですよ。1回どこかの賞に応募すると、公開済みっていうことで、同じ原稿では他の賞にエントリーできないので。

    そこで思ったんです。例えば、ある漫画賞に300作品とか応募がきていたとしても、299作品はボツ原稿になってしまう。でも、その中にもレベルの高い原稿はたくさんあるはずですよね。そういうボツ原稿を全部スキャンして、翻訳して海外に出したら読まれるのではないかと。それで、そういうサービスをつくってみました。そしたら、ユーザーも5000人とかに増えて、そっちの方がおもしろくなっちゃったんです。

    そうこうしているうちにFacebookからお声がかかりました。

    −−漫画はやめてしまったのでしょうか。

    気づいたらやってなかった。自分の中で自然淘汰されたんです。でも、漫画をやりきって迷いがなくなったのは大きいですね。選択肢が多いことは弱さだと思うので。

    本質的にいいものが勝つ時代

    −−Facebookに入られた後は、どんな影響を受けましたか。

    実名制のソーシャルグラフ(web上での人間のつながり)って日本で初めてだったんです。発信する情報の信憑性とか信頼性が高まるので、個人にすごく力を与えるな、と思いました。どんなに資金調達して煽っても、本質的なプロダクトがしょぼいと悪口が広まってしまうんですよね。だから、「広告宣伝費よりも本質にお金をかけよう」みたいな流れができたと思う。自分もそういうプロダクトを作っていきたいと思うようになりました。

    −−それで、Facebookを辞めて起業されたんですね。

    はい。「このまま何もできないまま人生終わったらどうしよう」みたいな、不安はないけど焦りはあったんです。

    でも、今だったら3倍くらいの速さでウォンテッドリーを立ち上げられると思います(笑)。何にでも言えることだと思うんですけど、初心者が陥る罠ってだいたい決まってるんですよね。そこを潰せばいいので。

    「Wantedly」は、最初から完成系のアイディアを思いついていたわけではないんです。もともと「仕事っておもしろくあるべきだよね」という問題意識を掲げていました。それで、最初はソーシャルグラフを使って何かやるというところからスタートしました。

    それから、実際に世の中で使われるものってなんだろうって考えて、「人のつながりを使って人を探す」というアイディアに落ち着いたんです。

    Wantedlyが向かう方向とは

    −−今後どのような方向に向かっていくのでしょうか。

    フェーズ1としては「Wantedly」が働くすべての人のインフラになるといいなと思っています。Facebookのビジネス版みたいなイメージですね。あとは、海外でちゃんと外貨を稼げるようにしたいです。国内のスタートアップで、シングルプロダクトで海外で稼いでいる企業ってあまりないですから。

    −−今、パーセンテージでいうと目標にどのくらい近づけていますか。

    1パーセントくらいですね。