「仕掛けるべきだったか?」 市長も悩む、自治体のエイプリルフール企画

    仕掛けた自治体、悩む自治体

    毎年4月1日は、企業がこぞって、ウェブサイト上でエイプリルフール企画を披露するのが恒例となっている。特設サイトを制作したり、動画を撮影したり、ネットユーザーの目を引こうと必死だ。

    最近では、企業に混じって自治体が参加することも多くなってきた。しかし、自治体ごとに温度差がある。

    企業に混じって自治体も

    積極的に仕掛けた自治体の1つが、山口県周南市だ。今年、「しゅうニャン市」への市名変更を宣言するウェブサイトと動画を公開した。

    動画は、架空の記者会見の模様。市長の木村健一郎氏が猫を抱いて現れ、にこやかな表情で市名変更を宣言する。

    YouTubeでの再生回数は、5月19日時点で約4万3000回。コメント欄には次のような声が寄せられている。

    「素晴らしい❗これからの時代、市政にも笑いやユーモアが必要だな❗」

    「おもろい!しゅうニャン市最高!笑える〜」

    「いいじゃにゃーかもっとやれ!今日1日だけなら」

    「猫の手も借りたい程の市政」

    広報戦略課によれば、このエイプリルフール企画は市民団体からの持ち込みで、市の職員とともに制作した。動画は既存の機材を使って撮影、編集しており、金額面での負担は「紙の印刷代くらい」だという。

    「目的は市のPR。市民団体と市が、お互いにやれることを持ち寄って、お金をかけずにどこまでできるかに挑戦しました」

    「仕掛けるべきだったか?」悩む自治体も

    一方で悩んだ末に見送った自治体もある。

    兵庫県神戸市長の久元喜造氏は、エイプリルフールにある企画を検討していたものの実施しなかったことをブログで、5月1日、明らかにした。

    実際には存在しない「神戸市新聞」の号外を1万部作成し、4月1日に三宮・元町駅前で配布するという計画だ。号外には、神戸港の中突堤に建つ「神戸ポートタワー」をもう1塔増やすという記事が書かれている。

    神戸開港150年記念事業PRの一環としてこの提案を受けた久元市長は「面白いアイデアだ」と思ったものの、「ある全国紙がエイプリルフールの記事を大々的に掲載したのですが、あまり反応がよくなかった」という過去の事例に鑑みて、実施を取りやめた。

    「日本人に、欧米流のユーモアのセンスは受け入れられているのだろうか?」と担当者に投げかけたという。

    企業のエイプリルフール企画が、メディアに紹介されているケースもあったため、「結果として、私の指摘は間違っていたようです」とブログで振り返っている。

    「自治体の広報戦略は民間企業と同じであるべきなのか、あるいは違ってもよいのか」と久元市長は疑問を投げかける。自治体の広報は税金を使うため、自己抑制が要るのではないかとブログに綴った。

    自治体のエイプリルフール企画、どうなの?

    自治体がエイプリルフール企画を考える場合、どのようなことがポイントなのだろうか。

    「企業も自治体も広報戦略の本質は同じ」と、自治体と企業の双方をサポートするPR会社・エポックシード代表取締役社長の森下麻由美氏はBuzzFeed Newsに説明する。異なるのは、久元市長の言うとおり、自治体は「税金」を使うこと。

    「自治体の広報戦略において、どのターゲットに何をさせるための取り組みなのか。投じた費用に対して妥当な結果が生まれるのか。納税者や組織内に対して、戦略妥当性の説明責任が果たせるのかが判断のポイントです」

    森下氏は、今回の神戸市のケースを例に、企画検討時に想像すべきことを次のように挙げる。

    * そもそも、広報戦略の目的達成につながるものなのか?

    * 4月1日の昼に三宮・元町駅前を歩いていて、配られる新聞の号外を手に取る人たちのどの程度がエイプリルフールを理解しているか?

    * SNSで拡散をしてくれる人はどれくらいいるか?

    * もし市のホームページにこのネタが掲載された場合、生活情報を探そうとしている人の行動を阻害することにならないか?

    * その号外を見て、自分が行政に託した税金の使われ方として、手放しで楽しめる人はどれくらいいるか?

    「胸を張って取り組むべき広報戦略の中にエイプリルフールがあるのであれば、"オトナの本気"で楽しませるべきだと思います」