
戦後最大級の大量殺人。標的となったのは、障害者だった。植松聖容疑者(26)は「障害者なんて、いなくなればいい」と口にしていたという。
事件が、障害者やその家族、支援者にもたらした衝撃は計り知れない。障害者向け共同作業所の連絡会「きょうされん」は、緊急声明を出した。
事件は、日本各地に大きなショックをもたらしました。とりわけ障害のある当事者や家族、関係者の受けた衝撃、そして不安や悲しみは言葉であらわすことができません。
知的障害者と保護者でつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」からは、2つの声明が出た。一つは社会に対して。
私たちの子どもは、どのような障害があっても一人ひとりの命を大切に、懸命に生きています。そして私たち家族は、その一つひとつの歩みを支え、見守っています。事件で無残にも奪われた一つひとつの命は、そうしたかけがえない存在でした。(中略)
国民の皆様には、今回の事件を機に、障害のある人一人ひとりの命の重さに思いを馳せてほしいのです。そして、障害の有る無しで特別視されることなく、お互いに人格と個性を尊重しながら共生する社会づくりに向けて共に歩んでいただきますよう心よりお願い申し上げます。
もう一つは、障害のある人たちへ。
容疑者は「障害者はいなくなればいい」と 話していたそうです。
みなさんの中には、そのことで 不安に感じる人も たくさんいると思います。
そんなときは、身近な人に 不安な気持ちを 話しましょう。
みなさんの家族や友達、仕事の仲間、支援者は、きっと 話を聞いてくれます。
そして、いつもと同じように 毎日を過ごしましょう。
不安だからといって、生活のしかたを 変える必要は ありません。
障害のある人もない人も、私たちは 一人ひとりが 大切な存在です。
障害があるからといって 誰かに傷つけられたりすることは、あってはなりません。
もし誰かが「障害者はいなくなればいい」なんて言っても、
私たち家族は 全力でみなさんのことを 守ります。
ですから、安心して、堂々と 生きてください。
これらのメッセージは、ソーシャルメディアを通じて、多くの人にシェアされている。

BuzzFeed Newsは、都内のきょうされん本部事務所を訪ねた。
本部には、全国からひっきりなしに相談が寄せられているという。事件の報道を見た保護者からの不安の声に、どう対応すべきか。
藤井克徳・専務理事は「施設の元職員が利用者を殺めたという報道を見て怯えたり、『自分たちの施設の職員は大丈夫か』と不安を覚えたりする方々がいます。ショックを受けて調子を崩した利用者もいると聞いています」と話す。

対策をとるため、それらの状況に関する聞き取り調査を続けている。その反応や感想は声明にまとめ、来週の半ばにも発表する予定だという。
事件はどのような影響を及ぼしているのか。また、障害のある人たちやその家族を支えるために、社会に何ができるのか。藤井氏に、改めて聞いた。
「積み上げてきたものを、崩さない」
藤井氏が事件を知ったのは、当日の朝4時頃。NHKラジオだった。自身も視覚障害がある。障害者を狙った大量殺人に、戦慄を覚えた。
NHKによれば、植松聖容疑者は病院に措置入院中だった2月、病院の担当者に「ヒトラーの思想がおりてきた」と話していたという。
藤井氏は今回の事件を、こう捉えている。
「もっとも問題なのは、容疑者が優生思想を持っていることです。弱い者は社会の邪魔になるという考え方です。歴史の中でこれが一番際立ったのは、第二次世界大戦中のナチス・ドイツのT4作戦。これにより、20万人以上の障害のあるドイツ人らが虐殺されました。今回の事件は、それと重なって見えます」
日本では当事者や支援者らの努力で、障害者への虐待防止法や差別解消法が整備され、障害者の暮らしや人権を尊重する取り組みがなされてきた。
「障害者なんて、いなくなれば良い」という植松容疑者の言動は、それらを完全に否定するものだ。しかも、ネット上には犯行に一定の理解を示すかのような書き込みまである。
「みんなで積み上げてきたものが、ここで崩れないようにしなければいけない」。淡々と語る藤井氏の言葉に、力がこもった。
一方で、こんな懸念もある。
「容疑者に精神障害や薬物中毒の可能性の報道があります。きょうされんには、精神障害者や薬物中毒者が対象の事業所も加盟しています。そちらの利用者も『自分たちへの偏見や誤解が増すのではないか』という不安を感じことを危惧しています」
「報道機関へのお願いになりますが、視聴者に十分配慮した、冷静で適切な報道に徹していただきたい。精神障害であることを強調しすぎてしまうと、社会での見え方も変わってしまいますから」

「容疑者の言葉に振り回されないで」
障害者やその家族を支えるため、きょうされんが社会に求めることは何か。藤井氏は、静かにこう語った。
「植松聖容疑者の行為は断じて許されない、という見方を持ってもらい、特異な事件として捉えなければならないと訴えたい。精神障害や薬物中毒という事情があったとしてもです」
そこには、植松容疑者の優生思想に人々が共感するのではないか、という懸念がある。
「『重度の障害者は生きていても仕方がない。安楽死させた方がいい』という容疑者の言葉に共感する人が出てくることを懸念しています。障害のある人も、懸命に生きています。容疑者の言葉に振り回されてほしくはありません」
「とても不幸な事件でしたが、社会の有り様を考えるための新しいきっかけにしてほしいと強く思います」
最後に、障害がある当事者やその家族へのメッセージとして、こう語った。
「決して萎縮することがないように、顔を上げて生きてほしい。家族だけで悩まないで、ほかの家族や支援者と交わってほしい。どうか、これまで通りの暮らしを続けてください」