「被告を加害者と言い換えれば、若い裁判員も理解しやすいのではないか」
裁判員の経験者が、裁判員制度の改善点を探るための意見交換会で、こんな提案をしたというニュースが法律家の間で話題を呼んでいる。
河北新報によると、発言があったのは1月17日、仙台地裁が開いた意見交換会。裁判官・検察官・弁護士と裁判員裁判経験者3人が参加していた。冒頭の提案をしたのは、強姦致傷事件で裁判員をつとめた女性教員(57)だったという。
この記事に対し、法律家から大きな反響があった。仮に「被告」を「加害者」に言い換えると、それは刑事裁判の基本ルールである「推定無罪」を否定することになるからだ。
推定無罪とは「裁判で有罪だと確定するまでは、無罪として扱う」という考え方だ。世界人権宣言などにも定められ、憲法でも保障されている。
これを前提とすると、被告人は「加害者かどうかわからない人」だ。被告人を「加害者」と言い換えることは、推定無罪とは折り合わない。
弁護士の深澤諭史さんは、次のようにツイートした。
裁判員裁判では、一般人である裁判員が、職業裁判官といっしょに、被告人が犯罪をしたかどうかの事実認定をする。
つまり、いくら被告人が犯罪をした可能性が高くても、もしかしたら違うかもとしれないと疑いを差し挟む余地があれば、被告人を有罪にはできない。
裁判官・裁判員は、いくら有罪率が99.8%だとしても、そこからはいったん離れて目の前のケースと向き合わなければならない。
ただ、それは簡単なことではない。そもそも裁判員裁判ではなく、職業裁判官だけが関わったケースでも、布川事件、足利事件、東電OL事件、志布志事件など、えん罪事件は多々起きている。
深澤弁護士は次のように指摘する。
これは、単に一人の裁判員の問題ではない。
深澤弁護士によると、裁判員たちの出した結論について、立証責任を被告人に負わせている(推定無罪でなくて推定有罪になっている)、認定した事実と証拠が対応していないなどと、高等裁判所がわざわざ指摘したうえで逆転判決を出した例もあるという。
刑事裁判の大事なルールの中には、直感的に分かりやすいとは言いきれないものもある。それを裁判員にどうやってわかってもらうのか。裁判員裁判が始まって今年の5月で丸8年となるが、制度の抱える課題はまだ多くあると言えそうだ。