ゲイ弁護士カップルを追った3年間 ドキュメンタリー映画「愛と法」が描く日本の生きづらさ

    「2人も、社会の『当たり前』から外れているところがあって、生きにくさを体験している。だから自然と、そういう人たちが相談にやってくるんです」

    大阪で弁護士事務所を共同経営し、プライベートでもパートナーのゲイ弁護士カップル、通称「弁護士夫夫(ふうふ)」の3年間を追ったドキュメンタリー映画「愛と法」。今春の完成に向け、最後の編集段階に入っている。

    監督の戸田ひかるさん(リトル・ストレンジャー・フィルムズ)に話を聞いた。なぜ、吉田昌史弁護士と南和行弁護士の2人を撮ろうと思ったのだろうか。

    「仕事もプライベートも、二人三脚で生きている2人に惹かれました。色々問題を抱え、お互いの弱さを認め合いながらも、困っている人たちの弁護活動に力を入れていることを知って、もっと彼らの仕事と視点を知りたいと思いました」

    「2人も、社会の『当たり前』から外れているところがあって、生きにくさを体験している。だから自然と、そういう人たちが相談にやってくるんです」

    「吉田弁護士は少年事件を多く担当しています。彼は、社会の見えにくい場所で、悩みを抱えながら生きている人たちと毎日関わっている。そして、『弱者』と呼ばれる人達ほど、法律をうまく活用できない。相談相手もいない。孤立したままになって、状況が悪化してしまう……」

    戸田監督の「法律」に対するイメージは、撮影を進める中で少しずつ変化してきた。

    「法律って、みんなを平等に守ってくれると思っていたんです。でも、取材をしてみると、そうではなかった」

    法律は人の権利を守るためにある。しかし、人の作ったルールには穴がある。そこから抜け落ちてしまう人たちが存在している。

    たとえば、無戸籍の人たち。無戸籍になってしまう背景の一つには、「離婚後300日以内に出産した子どもは、前夫の子どもだと推定される」という民法のルールがある。

    「この古い法律のせいで無戸籍になる人は、この日本に1万人いると言われています。法律上『いない存在』とされる人達に対して、世間の目線は厳しい」

    「無戸籍問題に悩んでいる母子は、偏見を避けるため、隠れるように生きていることが多いです。そうするとサポートにもつながれず、戸籍を得るまでに何十年もかかっていることもあります」

    同性婚

    たとえば、同性カップルたち。

    日本では、同性婚が認められていない。家を借りるとき、病気になったとき、遺産を相続するとき……。結婚できない事実は、様々な場面で響いてくる。

    「南弁護士と吉田弁護士は長年、共に生きてきましたが、法律上は他人同士です。『家族』としては、認められていない」

    「社会全体のいろいろな仕組みが、男女を前提としてできています。異性を好きになれない人は、それを隠さなければいけない。そんな状況に追いやられてしまっています。LGBTの人は自殺未遂率が高いという調査もあります」

    「日本では、一定の『家族』の枠組みに含まれている人たちは保護されます。でも、そこには無戸籍の人や、同性カップルなどは含まれていません。『枠組みから外れた個人の権利は、守られなくて当然』という考え方が根付いているように思います」

    「同性カップルだから『特別だ』というのは、社会と制度がそう見ているだけ。彼ら自身は、普通に仕事をして、普通に悩みを抱えて生きている人なんだと、3年間撮影して、改めて確信しました」

    権利主張は自分勝手?

    南弁護士は、離婚相談や無戸籍問題など、家族に関わる法律相談を積極的に引き受けている。

    「『裁判は、個人の権利主張の場であり、社会のスタンダードとのギャップが生じた時に辿り着く場所だ』と、南弁護士は映画の中で語っています」

    「日本では、自己主張をすることに大きな壁があるように思えます。それは、属性を大切にする文化だから。個人の信念を貫くことや、権利を主張することが、和を乱し、自分勝手な行動と見られがちなのではないでしょうか」

    女性器をモチーフにした作品で知られるアーティスト「ろくでなし子」さんの刑事弁護も、南弁護士はしている。

    「南弁護士が、弁護団にいち早く加わったのは、表現の自由が規制されることに懸念を抱いたからです。一人一人が自由に自己主張できないと、いつまでたっても本当の意味で多様性が認められる社会にはなりません」

    日本の息苦しさ

    映画全体を通じて、描きたいものは何なのか? それは「基準」とされるところから少し外れると、とたんに生きづらくなってしまう、日本社会の現実だという。

    「その人がマジョリティーでも、マイノリティーでも、みんな何かの悩みは抱えて生きています。弁護士の2人は、悩みを抱えて生きる人たちの現実を、ずっと見続けていました」

    「表面的には平和ですが、みんなが自分を押し殺して生きています。それが普通になってしまっている。だから、問題が見えにくいし、指摘したところで受け入れてもらえない。私は今回、22年ぶりに日本に住んでみて、異様な息苦しさを感じています」

    「映画『愛と法』は、いろんな人たちが生きにくさと向き合う姿を描いています。新しい視点や、価値観に触れるきっかけになれば嬉しいです」

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