内職のつもりが知らぬ間にロト詐欺の手助け 賠償金を支払うはめに

    簡単な作業で5000円。うまい話の裏は「容易に知りえたはず」。

    自宅に届いた郵便物を指定先に転送する簡単な内職をしていた人たちが、「ロト6詐欺の手助けをした」として訴えられ、損害賠償を支払う事例が出ている。きっかけは1枚のハガキ。知らぬ前に犯罪の片棒を担がないため、注意が必要だ。

    東京地裁(朝倉佳秀裁判長)が3月23日に出した判決によると、支払い命令を受けたDさんが内職を始めたきっかけは2012年秋、自宅に1枚の案内ハガキが届いたことだった。

    ハガキに掲載されていた番号に電話すると、「送られてきた郵便物を開封せずそのまま転送するだけで、1件につき5000円支払う」と説明された。借金返済に追われていたDさんには魅力的な仕事に思えた。内職に必要だと言われた運転免許のコピーを、指定された住所に送った。

    その後、Dさんの元には、金融機関から「親展」や「転送不要」と記された簡易書留や本人限定郵便が届くようになった。Dさんがそれらを指定された先に転送すると、1件につき5000円が振り込まれた。

    実はこのときDさんが転送していたのは、詐欺グループがDさんの運転免許のコピーを利用して作った、Dさん名義の銀行口座の書類だった。

    訴えられたDさん

    Dさんは2014年4月に、詐欺の被害者から訴えられた。

    詐欺の被害者は2013年1月、「ロト6の当選番号を教える」などと言われて騙され、複数の銀行口座に、合計620万円を振り込まされた。その振込先口座の一つが、Dさんの名義だった。

    東京地裁の判決は、Dさんが、詐欺グループの口座開設をほう助(手助け)している認識があったとまでは言えないとした。

    しかし、詐欺グループが口座を開設することができたのは、Dさんが運転免許のコピーを提供し、書類を転送したからだとして、Dさんの行為は詐欺の「ほう助」にあたるとした。

    さらに、依頼の内容や、不相応に高い報酬からすれば、「自らの行為が、何らかの違法行為に使われている可能性が高いことを容易に知り得た」はずだとして、Dさんに過失があったと認定した。

    そしてDさんには、詐欺師と共同で不法行為をした責任があるとして、8万7000円を被害者に支払うように命じた。

    詐欺「関与」の責任も

    詐欺商法に詳しく、今回の被害者の代理人をつとめた荒井哲朗弁護士は、「近ごろ、詐欺グループだけではなくて、詐欺に使われた銀行口座の開設に手を貸した人についても、裁判で賠償責任を問われるケースが増えている」と話す。

    荒井弁護士によると、今回の判決はその中でも大きな意味を持つ。詳細な事実認定のもと、充実した判断が示されたため、今後の裁判で参考にされるような内容になっているという。

    Dさんたちも、詐欺グループからいいように使われたという側面はある。しかし、荒井弁護士は次のように指摘する。

    「誰ともわからない相手に本人確認書類を送り、金融機関から届いた自分宛の書留郵便を転送し、不相応な報酬を受け取る『内職』は、おかしいとすぐに気づくはずです。このような内職に手を染めた以上、相応の責任を負うべきでしょう」

    銀行口座を作るときの本人確認ルールは、詐欺グループの『犯罪ツール』として使われることを防ぐため、厳格化されてきている。

    「誰かがこのような『内職』をすれば、せっかく厳格化されたルールが骨抜きになり、結果的に詐欺商法を継続させてしまう。そのことに、強く思いを致すべきです」