ろくでなし子「一部無罪」 この作品は「ポップアート」と裁判所も認定

    デコまんは無罪。3Dデータは有罪。

    女性器をかたどって装飾をほどこした石膏作品「デコまん」を展示したとして、わいせつ物陳列罪などに問われたろくでなし子こと五十嵐恵被告人の裁判。東京地裁(田辺三保子裁判長)は5月9日、デコまん3点について、「ポップアート」で「わいせつではない」と認定した。一方で、女性器を3Dスキャンしてつくったデータの送付については罰金40万円の有罪とした。

    判決は「デコまん」をどのように評価したのか。

    「洋菓子のような印象」

    起訴された3点のデコまんは、どれも「実際の女性器を連想させうる」とした。

    しかし、1つめの作品は「濃い水色」、2つめの作品は「白・銀色」で、どちらも毛皮が付いているなど、女性器を忠実に再現していない。印象は「毛皮を用いたオブジェのよう」だとした。

    もう1つについても濃い茶色にクリーム・ビスケット・イチゴなどの装飾が施されていて「全体として洋菓子のような印象」とした。

    そのうえで判決は、デコまんを次のように評した。

    「ポップアートの一種であると捉えることは可能」。

    「女性器というモチーフを用いて見る者を楽しませたり、女性器に対する否定的なイメージを茶化したりする制作意図を読み取ることはできる」

    さらに踏み込み、「芸術性や思想性、さらには反ポルノグラフィックな効果が認められ」るとまで書いている。

    そして、このような芸術性から性的刺激が緩和された結果、「いたずらに性欲を刺激しもしくは興奮させるもの」や「性欲を満足せしむべき物品」だとは言えず、デコまんが「わいせつ物には該当しない」と認定した。

    3Dデータは「リアル」

    一方で、「アウト」となった3Dデータはどう判断されたのか。

    「色や感触に関するデータは含んでおらず、一見すると標本や地形図のような印象を与えうる無機質な特性を有している」としつつも、「女性器等の形状がリアルな造形によりあらわなまま再現されている」などとして、「性欲を強く刺激すること」を否定できないとした。

    「プロジェクトアートの一環としてデータを評価すべき」という弁護側の主張については、わいせつ性の判断はデータ自体について客観的になされるべきだ、として退けた。

    ろくでなし子さんは判決後の会見で、「デコまんをポップアートとして認定してくださったことは、うれしかった」と笑顔を見せた。一方で3Dデータがわいせつだとされた点については「不服です。控訴して高裁で戦いたいと思います」と話した。

    一部無罪は歴史的

    弁護人の山口貴士弁護士は「(わいせつ物の陳列などを禁じる)刑法175条をめぐる裁判で無罪判決が出たのは、愛のコリーダ事件(※1979年に地裁、82年に高裁判決)以来ではないか。一部無罪が出たのは歴史的だ」と話した。

    一方で裁判所のわいせつ判断基準が、「性器が露骨に映ってればわいせつ、という考え方を脱していない」と指摘。アートプロジェクトの中で制作され、配布されたデータのわいせつ性を判断する場合には、プロジェクトの全体像もふまえて判断すべきではないか、と疑問を呈した。

    主任弁護人の須見健矢弁護士は、一部無罪・一部有罪の判決について「最低限の結果は出た」と話した。

    しかし、3Dデータはプロジェクトアートと一体不可分のものであるいう主張が認められなかったことについては、「残念だ」と言葉を強めていた。