EXILEの野外ライブ会場付近で落雷死 大阪地裁は「自己責任」

    遺族の訴えは退けられた。

    野外イベントの運営者は、落雷事故にどこまで責任を負うべきか。EXILEのコンサート会場付近で雷に打たれて亡くなった岩永牧子さん(当時22)の遺族が、イベントを運営していたエイベックス・ライヴ・クリエイティヴとミューベンツ・ジャパンに対して、計約8200万円の損害賠償を求めていた裁判で、大阪地裁(長谷部幸弥裁判長)は5月16日、原告の請求を棄却した。

    判決は、「野外における落雷に対する回避措置は、もっぱら各人が自己の責任で行うべきもの」と指摘。今回、運営側の注意義務違反はなかったなどとして、請求を認めなかった。

    父親の岩永浩美さん(54)は、悔しさをかみしめるように険しい表情で会見し、「親としては、納得がいかない」と繰り返した。

    野外で雷を避けることが「自己責任」とされた点については、「運営側からアナウンスがあれば、(冷静に)避難できたのではないか」と述べた。

    牧子さんの遺影を抱いて判決に臨んだ母親の岩永和子さん(56)も、(牧子さんと同じように)「大勢の人が木の下にいたと聞いている」と強調した。

    落雷事故の経緯

    落雷事故に至る経緯は、どのようなものだったのか。

    大阪市・長居公園内にあるスタジアムで2012年8月18日午後、EXILEら人気アーティストが出演するコンサート「a-nation」が開かれていた。

    岩永牧子さんはコンサートのために福岡県からやってきて、午後2時過ぎに長居公園内で落雷にあった。岩永さんは病院に運ばれたが、翌日亡くなった。一緒にいた友人もこの落雷で亡くなった。

    現場の様子は?

    コンサート会場は長居公園の北西部にあるメインスタジアムで、約5万3000人の来場が見込まれていた。牧子さんは長居公園の南西部にある林の中で、雷に打たれた。

    調査報道NPO「iAsia」によると、当日、長居公園をジョギングしていた男性(48)は次のように証言している。

    「当日はスタジアムの外でもエグザイル関係の様々なイベントが開かれていて、公園全体がエグザイル祭のような感じだった」

    「人の列が何重にもなっていて、人をよけながら走る状態でした」

    「いきなり曇り始めて、あとは強い雨。そして雷鳴が轟き始めたんです。それで、ジョギングを中止して自宅に急ぎ帰りました。帰りに見たトイレは人であふれ、そこに入れない人が周辺の木の下に雨宿りする状況でした」

    裁判の争点は?

    裁判では、雷が予見できたかどうかや、コンサート会場付近の公園内という微妙な場所での落雷事故について、運営側がどういった責任を負うのかが争点となった。

    原告側は裁判で、次のように主張した。

    ・大阪市内には前日から雷注意報が出ており、気象庁の発表などをもとに「落雷事故の発生は予想できた」

    ・公園入り口からコンサート会場までカラーコーンが置かれるなど「来場者の移動ルートが決められていた」

    ・「主催者には、来場者が長居公園に入った時点から、来場者の安全を確保する義務があった」

    地裁「落雷を具体的に予見できたわけではない」

    地裁判決は次のように判断し、運営側の責任を否定した。

    ・落雷事故の発生を「具体的に予見できたとまでは認められない」

    ・落雷事故の現場は、コンサート会場から距離があった。

    ・会場への導線があったからといって直ちに落雷から保護すべき義務を負っていたとは認められない。

    ・牧子さんに対して、主催者側が避難誘導をすることが、「容易かつ高度に期待可能であったとは認められない」

    原告代理人「教訓がふまえられていない判決」

    原告側代理人の佐藤健宗弁護士は判決後に記者会見し、「とうてい承服しがたい判決」と述べた。

    「あの瞬間、あの場所に雷が落ちることを予想するのは不可能だ。『具体的に』というハードルを設けてしまうと、極めてレアな場合にしか予見可能性が認められなくなる」

    同じく原告側代理人の辰巳裕規弁護士は、サッカー大会の主催者に落雷事故発生の責任が認められた最高裁判決に言及し、「過去に積み重ねられた落雷事故の教訓がふまえられておらず、残念だ」と、判決を批判した。

    原告側は「控訴するかどうかは、持ち帰って検討する」とした。

    一方、運営側のエイベックス・ライヴ・クリエイティヴ株式会社は「判決が確定していないので、コメントは差し控えさせていただきます」。ミューベンツ・ジャパン(キョードー関西グループ)も、「判決が確定していないので、コメントは差し控えたい」と述べた。

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