強姦で逮捕、4年後の逆転無罪 徹底的に批判されたずさん捜査

    検出されたDNAは、他人のものだった。捜査は歪められたのか。

    2012年に鹿児島市で起きた強姦事件。1審で有罪とされた元飲食店従業員の男性(23)に言い渡された逆転無罪判決が確定した。

    逆転無罪の決め手は、高裁が実施したDNA鑑定で、被害を訴えた女性(当時17歳)の体内に残されていた精液が、被告人のものではないと判明したことだった。この精液は、鹿児島県警の捜査では「微量でDNA鑑定ができず、誰のものか不明」のはずだった。鑑定結果のメモなどが廃棄されていたことから、高裁は県警が嘘の報告をしていた可能性にまで言及し、強く批判した。

    1月26日に福岡高検が最高裁への上告断念を発表し、判決は確定した。強姦という重大犯罪が有罪から無罪へ。その背景には何があったのか。

    無罪判決を導いたポイントは

    2014年2月の1審・鹿児島地裁。男性は「酔っていて記憶がない」と無罪を主張していたが、女性の「被告人に強姦された」との供述や、女性の胸部についていた液体のDNA型が被告と一致したこと、防犯カメラの映像などをもとに、有罪判決が下された。女性の体内から検出された精液は「微量で鑑定出来ない」との捜査結果が提出され、誰のものかはわからないが、(強姦されたという)女性の証言を裏付ける、と結論づけられた。

    ところが、高裁が控訴審で実施した2015年のDNA再鑑定では「微量で鑑定出来ない」はずの精液からあっさりとDNA型が判定された。その結果は、被告人のものではなかった。

    これが女性の供述と完全に矛盾していた。女性は「最後のセックスは9月末」と話していた。その通りなら、体内に被告人以外の精液が存在するはずがない。

    高裁は、女性がアスファルトに転倒させられ、首を絞められたと供述したのに、身体や服にその痕跡がなかった点にも着目。胸の唾液や防犯カメラの映像については、「合意を得て性的接触をした後トラブルが生じた事案と見る方が自然」と判断して、被告人に強姦されたという供述が「信用できない」と結論付けた。

    捜査段階の不自然なDNA鑑定

    捜査段階の鑑定で、精液が別人のものとわかっていれば、男性は起訴すらされなかった可能性がある。

    高裁のDNA再鑑定を担当した内田茂實・日大名誉教授はBuzzFeed Newsに対し、「何の工夫もなく、いつも通りのやり方で、簡単にDNA型を特定できた」と話した。

    控訴審判決は捜査段階での鑑定について、「鑑定に使った試料の残り」「鑑定経過のメモ」が廃棄されていたことなどから、実際にはDNA型が検出されていたのに、それが被告人のDNA型と一致しなかったため、捜査官の意向を受けて報告が捻じ曲げられた可能性に言及。「(虚偽)報告した可能性すら否定する材料がない」として、警察を厳しく批判している。

    DNA鑑定は資料を一定量消費してしまうため、実施するかを慎重に判断する必要がある。ところが、今回検察は、2審の再鑑定の結果を知らされた直後、裁判所にも無断で追加でDNA鑑定をしていた。

    高裁は、裁判中に残り少ない資料をどう使うかは、本来なら裁判所が決めるべきだと指摘。その資料を「全く無意味に」浪費した検察の行為は不適切で、有利な結果が出た場合にだけ使おうとする意図もうかがわせる点で、刑事裁判の理念にも反する、と批判した。

    男性の主任弁護人を務めた伊藤俊介弁護士はBuzzFeed Newsに、「刑事事件の証拠は、税金で集められた公共の財産というべき。検察官があたかも自分の所有物のように扱うことは、問題だ」と語った。

    福岡高検は26日、「上告理由があるとまでは言えない」と上告を断念した。一方で、毎日新聞によると、保坂直樹刑事部長は、裁判所に無断で実施したDNA鑑定について誤りを認めず、「検察官は立証責任があり、訴訟の進行状況に応じて補充捜査が必要になる」と繰り返したという。