認可外保育園で1歳児が指切断の大けが 「それで?」と言われ…両親が刑事告訴

    「神経も骨も切断されている状態です。元通りくっつくかわかりません」と、父親は告げられた。

    千葉県市川市の認可外保育園で今年6月、当時1歳2カ月の女児Aちゃんが引き戸に指を挟まれ、右手の薬指が爪の根元部分でほぼ切断されるという事故が起きた。神経も骨も切断され、一部のひふがかろうじて繋がっているという大けがだった。

    ところが事故のあと園側は、両親の弁護士に「(事故の重大さを)ちゃんと分かっていますか?」と問われ、「分かってますかって、あなたにそういうことを指摘されなきゃならんようなことがありますか」などと発言。

    両親は、こうした対応は不誠実だとして、保育園の園長を業務上過失傷害で刑事告訴。また、園の監督官庁である千葉県子育て支援課に、改善勧告を申し入れた。父親と代理人弁護士が8月10日に千葉県庁で記者会見し、明らかにした。

    どんな状況だった?

    Aちゃんがケガをしたのは2017年6月2日。千葉県市川市の認可外保育園「ぽんておうちえん」の室内だった。

    保育園側が作った事故報告書によると、Aちゃんは朝8時30分頃に登園。おやつを食べた後、自由に遊んでいた10時45分ごろに、室内にあった収納スペースの引き戸に指を挟まれた。

    現場は……

    保育室の広さは約70平方メートルで、パーティションでいくつかに分かれている。当時、Aちゃんと同じエリアには、園児が4人と保育士と園長がいた。

    父親(会社員・35歳)は、園側から次のように説明を受けたという。

    収納スペースの中に、Aちゃんと一緒に遊んでいた男児2人が入っていた。中にいた男児が木製の引き戸を急に開けてしまい、扉と扉の間にAちゃんの指が挟まれてしまった。

    園側の報告書には、発見時の様子として、「びっくりしたように泣き出す。だっこして少し落ち着いたのでそのまま病院へ」と書かれている。

    駆けつけた先の病院で……

    女児の父親は、仕事を抜けて駆けつけた先の救急病院で、医師から「(娘さんの指は)神経も骨も切断されている状態です。元通りくっつくかわかりません。付かない場合には、腐って落ちてしまいます」と告げられた。

    両親は大きなショックを受けた。

    「なんで娘がこんな目に遭うんだ、そういう気持ちでいっぱいでした。妻はできれば(娘と)代わってあげたいと言っていました。私も同じ気持ちです」

    幸いなことに、縫合手術で指は繋がったが、指先が変形。爪は術後に剥がれ落ち、新しく生えてきた爪も通常とは違う形だという。

    父親は「完治とは言いがたい」として、「楽器を弾いたり、指先の繊細な動きが必要とされた場合、ちゃんとできるのか後遺障害の心配をしています」と話した。次は9月下旬に通院する予定だという。

    なお、園長は当初、ケガの深刻さに気付かず、Aちゃんを保育園近くの「皮膚科」に連れて行った。そして皮膚科の医師の判断で、松戸市の救急病院まで、タクシーで搬送された。

    園側への疑念

    今回、なぜ刑事告訴までに至ったのか? その背景には、園側の対応への疑念があった。

    園長からは、事故当日、病院で会った際などに謝罪があった。しかし、あらたまった形での謝罪があったのは、ずっと後のことだった。

    それは、事故から3週間が経った6月25日。保育園を経営する宗教法人「人間禅」の事務長と園長が、Aちゃん宅を訪れた。両親が「謝罪に来るべきでは?」と法人側に伝えたことを受けてのものだった。

    しかも、肝心の法人代表は「忙しくて行けない」。来たのは代理の事務長だった。こうして両親は謝罪を受けたが、「形ばかりの謝罪」と感じたという。

    その後7月1日、法人代表がAちゃん宅を訪れ、「お見舞い」として現金1万円を渡してきた。だが、その際に、法人代表がそれまでにAちゃんの患部を見てもいなかったことがわかり、両親の疑念は深まった。

    保育園があるのは、この宗教法人本部の敷地内だ。そして、父母ともそれぞれ仕事があり、ほかに預け先が見つからなかったので、Aちゃんは7月末までこの保育園に預けられていた。Aちゃんの事を気にかけていれば、代表はいつでも状況を確認できたはずだ。両親はそう感じた。

    両親の不満は、その点だけではない。ケガをしたAちゃんに付きそうため仕事を休まざるを得なかった母親の「休業損害」など、賠償についての交渉も、保険会社に任せきりだと感じたという。

    両親はこうした態度に疑問を抱いた結果、弁護士を雇って交渉を委任することにした。

    「それで?」

    そして、8月2日、両親の代理人となった秋山直人弁護士が、事務長と行った電話。

    秋山弁護士は、代理人の受任通知が届いたかどうかを確認後、休業損害について「速やかにお支払いをお願いしたい」と伝えた。

    それに対する事務長の答えは「はい、それは書いてある文面どおりね。それで?」だった。

    続く会話はこうだ。

    弁護士「きちんとご対応いただけますかね?」

    事務長「そのつもりでいますけど。それはご両親の方にもちゃんと前もって伝えてありますから。それは、改めて言われる筋合いではないですわね。それで?

    弁護士「事故のことちゃんとご認識いただいていますかね」

    事務長「どういうことでしょうか」

    弁護士「これ、ほっておいたら指先が死んじゃうほどの事故ですよ」

    事務長「そうですよね」

    弁護士「ちゃんと分かってますか」

    事務長「分かってますかって、あなたにそういうことを指摘されなきゃならんようなことがありますか

    この会話は録音が残っている。電話中、秋山弁護士は落ち着いた話し方をしていたが、実際は事務長の対応に驚いていたという。

    告訴状

    こうした対応から、両親は「事故の重大性を認識していない」と感じた。そして、「形ばかりの謝罪は行ったが、実際には大して申し訳ないとも思っていないことが明らか」と考えた。これが「処罰を求める意思」を、両親が固めた理由だった。

    両親が市川署に出した告訴状には、こうある。

    「引き戸が重い木製であり、引き戸と引き戸の間に園児が指を挟んだ場合には、指の切断等の重大な事故に至る危険性があることは、保育施設の責任者であれば当然予見可能であったし、予見すべきだった」

    告訴状の被疑事実は「業務上過失傷害」。このように危険な引き戸を交換するなど対処をしなかった園長の過失が、Aちゃんの傷害につながったとする内容だ。

    秋山弁護士によると、告訴状が受理されるかどうかはまだわからないが、警察署では45分程度の丁寧な聞き取りがあったという。

    父親は「今後、他の子が事故に巻き込まれないようにしなければ……。園には今回のような対応を見直してほしい」と話していた。

    BuzzFeedは保育園と宗教法人「人間禅」に電話取材を試みたが、応答がなかった。連絡が取れれば追記する。