保育園「うつぶせ寝」1歳児死亡で都が報告書 母が語った悲しみと後悔

    事故からおよそ1年。再発防止のための報告書がまとまった。

    東京都内の認可外保育園でうつぶせに寝ていた1歳2カ月の甲斐賢人くんが、2016年3月11日に亡くなった事故で、都の検証委員会は3月8日、再発防止のための報告書を公表した。賢人くんの母らが、都庁で記者会見した。

    まず、どんな事故だったのかを、振り返る。

    賢人くんは、キッズスクウェア日本橋室町(東京都中央区)という認可外保育園に通っていた。

    報告書によると、賢人くんが亡くなったのは、通園を始めてまもない19日目のことだった。2月に入所して慣らし保育をはじめた。3月は一度も休まず、毎日9時ごろ〜16時ごろまで7時間、保育園にいたという。

    当日、園には20人の児童と、6人の職員(有資格者4人)がいた。

    園の報告書に書かれていた、賢人くんの様子。

    • 8時40分 特に通常とかわりなく元気に登園した。自由遊び。
    • 10時00分 朝の会、椅子に座って参加。
    • 10時15分 水分補給。麦茶は少し残す。煮干しは4cmのものを3つに折って完食。室内のすべり台などで遊ぶ。
    • 10時45分 昼食 うどん りんご 菜の花の炒め物 完食。
    • 11時45分 寝つきが悪く午睡中にも目覚めて泣くことがあるので、他の子どもと別室で午睡する。
    • 13時00分 (職員が賢人くんの)そばを通り目視のみで確認。
    • 13時20分 (職員が賢人くんの)そばを通り目視のみで確認。
    • 14時10分 (賢人くんを)起こした際に、顔の布団に接した箇所が赤むらさきの痣のような状態になっていた。早めに迎えに来た母が到着した。人工呼吸と心臓マッサージ。AEDを使用するも「人工呼吸と心臓マッサージを続けてください」との判定。
    • 14時30分 救急車到着。
    • 14時40分 救急車出発。

    賢人くんは16時、病院で死亡が確認された。

    事故原因は?

    賢人くんの死因については警察が捜査中で、まだ確定的な説明がない。一方で都は、

    報告書は事故原因について、次のような要素が重なり合って事故に至ったという考えを示した。

    • 経験の少ない職員構成。
    • 園職員だけの閉じられた中で工夫して対応せざるを得なかった状況であったこと。
    • 職員が特に担当を決めずに全園児に関わるという体制。
    • 低年齢児に対しては午睡対応を含めて丁寧さに丁寧さを重ねて保育しなければならないという共通認識やリスク意識の薄さ。
    • 入所後まもない幼児を別室に寝かせる方針なのに、別室の様子を把握する体制がなかったこと。
    • SIDS(乳幼児突然死症候群)や窒息のリスクに関する知識、応急処置に関する知識・経験不足が見られた。

    保育の質

    報告書が力を入れて記述しているポイントが、「保育の質」の問題だ。この園は職員の数では基準を満たしていた。だが、施設長は保育の経験が通算3年3カ月しかなかった。

    保育士資格を独学で取得し、この保育園で1年3カ月働いただけで、施設長に就任した。一度は施設長になるのを断ったが、本部のサポートがあると言われて引き受けたという。

    だが、あるはずの本部からのサポートは十分でなかった。報告書は「(本部からの)具体的な日々の保育内容に関する日常的な相談や指導などは十分に行われていなかった」と指摘している。

    他の有資格者も通算4年、3年、1年の経験だった。

    母親の有紀さん(39歳)

    母親の有紀さん(39歳)は、報告書について「いまある情報で、できるだけのことをしていただいた」と感謝を表明した。

    そのうえで、報告書がまとめた14の提言について、次のように述べた。

    「提言を現実に実行していかなければ意味がありません。国や自治体、事業者は、提言をひとつひとつ実現していってほしい」

    「もしこれが自分の子どもだったらと、考えてください。現実問題として難しいことがいっぱいあるのはわかるけど、誰かが信じて実行しないとゼロにはなりません」

    「妊娠するのもすごく大変なこと。妊娠して10カ月、大切に大切におなかの中で育てて、やっと無事生まれて、毎日毎日大切に育てて、その子どもが、手放した途端、死んでしまう・・・。これが、どれだけの・・・・苦しみかっていうのは・・・・」

    有紀さんは預け入れ先の保育園に不安を感じながらも、子どもを預けてしまったことへの後悔と、息子を亡くした深い悲しみを、声を震わせながら口にしていた。

    母親の代理人・寺町東子弁護士は、次のように訴えた。

    「報告書にはたくさん良いことが書かれています。しかし、一人の保育士が6人の面倒を見るような基準で、それを実現できるのかというとわからない。現場がお手上げになってしまいかねない。それを実行できるような裏付けを、国や自治体にはしてもらいたい」


    保育園の運営会社アルファコーポレーション(本社・京都市)の担当者は「報告書を受け取り、現在、内容を確認しています。提言に基づいて真摯に改善につとめていきたいと考えております」と、BuzzFeed Newsの取材に答えた。