iPhoneを作り、シャープを買収。あの鴻海の工場の中は、こんなふうになっている

    稀有な写真の記録

    8月、シャープを4000億円で買収した鴻海精密工業。台湾の電子機器受託生産大手である鴻海の顧客には、Apple、Amazon、マイクロソフト、ソニー、そして任天堂が名を連ねる。

    これまで鴻海は、工場の過酷な労働環境で批判を浴びてきた。工場を公開することは稀だ。

    アーティストでフォトグラファーのMari Bastashevskiは、鴻海の中国・広東省深センにある工場を訪ねた。これらの写真は、Bastashevskiによる鴻海工場での24時間の記録だ。


    10万人以上の従業員を抱える鴻海の工場は、厳しいセキュリティーを敷いている。詳しくは書けないが、1日用のパスでメインゲートを入った私は、主にAppleからやってくる外国人の訪問者に慣れている警備関係者に睨まれることもなく、あらゆる場所に行くことができた。工場の中で従業員たちは忙しくしているので、同じ警備員に会って、警戒されることはそれほどなかった。

    従業員の出入りが激しかったのは、朝6時から7時、そして夕方4時から5時だった。このふたつの時間帯には、たくさんの従業員たちは工場の中と外へと行き来する。これに加えて、深夜も出入りが激しくなる。

    工場は外部と遮断されている。多様性のある都市とは正反対の印象を受けた。迷宮のような工場のデザインは、軍隊の訓練キャンプのような様相だ。AからFまでのブロックに分けられた工場内部には、独自の交通システムが通っており、各ゾーンの移動を可能にしている。

    労働環境を良く見せるため、工場内を整えた形跡がみられた。オフィスにも共有スペースにも、たくさんの植物が置かれていた。労働意欲を鼓舞するためのポスターや、古い掲示が、壁には無造作に貼られている。

    水泳用のプールは2箇所あり、病院、空っぽの労働組合の事務局、売店、カフェ、食堂、そして、自動化された電子図書館。自殺を防止するためのネットが階段や屋根には設置されている。マネージャーたちは、シフトの始まりに、意欲を高めるためのスピーチをする。鴻海の社歌も流れる。

    「工場は現代になっても工場のままだ」と、エンジニアの一人が、翻訳アプリを介して、私に教えてくれた。「若い男性も女性も、工場労働をやりたいとは、全く思っていない」

    インターンたちは実年齢について答えたがらない。彼女たちは、時間外手当を得ることも多い。工場の外に宿泊場所を確保するお金がない人は、工場の寮に押し込まれ、何週間も街を去らない。埃っぽく、暑く、出荷時の悪臭は、耐え難いほどだ。

    日中、警備員を含む多くの従業員はチャンスがあれば、どこででも居眠りをする。椅子、テーブル、机、ベンチ。夜になって暑さが収まると、街には活気がでてくる。

    工場の内部では、単調な労働とは違う、人間ドラマが繰り広げられる。男性たちは持ち物を交換したり、ゲームをしたり、スマホをみながらチャットをしている。女性たちは、黒い泥パックをしている。美を保つのに真剣だが、そこに至るためのプロセスを楽しむ余裕は、状況的にも精神的にもないようだ。従業員たちが気晴らしをする様子は、彼らが工場の仕事で取り組んでいる機械化された労働とは、対照的だ。

    一日の終わりには、工場の人たちは静かに眠りにつくものだと思っていた。トラックを走っている人の姿が、印象に残った。










    Mari Bastashevskiはロシア出身のアーティスト、ライター、リサーチャー。現在、中国本土と香港で活動している。「10,000 Things Out of China(中国で生産される1万種類のものたち)」は、家庭で一般的に使われているモノにまつわる、政治的で暴力的な背景について探求したものだ。