体力が衰えても続けた「慰霊の旅」 天皇陛下が各地で語られた平和への思い

    「日本人が決して忘れてはならないこと」

    生前退位の意向を感じさせる「お言葉」を表明された天皇陛下。身体の衰えをその理由としているが、多忙な行事の合間にも太平洋戦争の激戦地への「慰霊の旅」を続けられてきた。

    そこでは、悲劇を繰り返してはならないという、平和への強い思いが示されてきた。

    歴代初となる沖縄訪問

    1993年4月、天皇陛下は歴代天皇として初めて沖縄を訪問。ひめゆりの塔や沖縄平和記念堂に足を運ばれ、遺族らと面会された。

    沖縄戦の激戦地に建てられた沖縄平和記念堂での挨拶では、沖縄の人々の苦労をねぎらうとともに、平和への思いを口にされた。

    先の戦争では実に多くの命が失われました。なかでも沖縄県が戦場となり、住民を巻き込む地上戦が行われ、20万の人々が犠牲となったことに対し、言葉に尽くせぬものを感じます。ここに、深く哀悼の意を表したいと思います。

    戦後も沖縄の人々の歩んだ道は、厳しいものがあったと察せられます。そのような中で、それぞれの痛みを持ちつつ、郷土の復興に立ち上がり、今日の沖縄を築き上げたことを深くねぎらいたいと思います。

    今、世界は、平和を望みつつも、いまだに戦争を過去のものにするに至っておりません。平和を保っていくためには、一人一人の平和への希求とそのために努力を払っていくことを、日々積み重ねていくことが必要と思います。

    アジアの戦跡を巡礼

    天皇陛下は、東南アジア諸国も積極的に訪問された。国内の戦没者だけでなく、国外の戦線で犠牲になった人々にも祈りをささげた。

    終戦60年となった2005年、大戦で災禍を受けたサイパンを訪れ、すべての犠牲者を偲び、平和を希求する言葉を述べられた。

    亡くなった日本人は5万5千人に及び、その中には子供を含む1万2千人の一般の人々がありました。同時に、この戦いにおいて、米軍も3千5百人近くの戦死者を出したこと、また、いたいけな幼児を含む9百人を超える島民が戦闘の犠牲となったことも決して忘れてはならないと思います。

    私どもは10年前、終戦50年に当たり先の大戦で特に大きな災禍を受けた東京、広島、長崎、沖縄の慰霊の施設を巡拝し、戦没者をしのび、尽きることのない悲しみと共に過ごしてきた遺族に思いを致しました。また、その前年には小笠原を訪れ、硫黄島において厳しい戦闘の果てに玉砕した人々をしのびました。

    この度、海外の地において、改めて、先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼し、遺族の歩んできた苦難の道をしのび、世界の平和を祈りたいと思います。

    心臓手術から3年後にパラオへ

    8月8日に公開されたビデオメッセージでは、「外科手術を受け、加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった」と言及された。しかし、慰霊の旅は続いていた。

    心臓バイパス手術から3年が経過した2015年4月、天皇陛下はパラオを訪問された。戦没者慰霊碑を巡礼されたほか、日米両軍が激戦を繰り広げたペリリュー島を訪れた。

    陛下はパラオ国主催の晩餐会で日本国民だけでなく、すべての戦争犠牲者に哀悼の意を表した。

    先の戦争においては、貴国を含むこの地域において日米の熾烈(しれつ)な戦闘が行われ、多くの人命が失われました。日本軍は貴国民に、安全な場所への疎開を勧める等、貴国民の安全に配慮したと言われておりますが、空襲や食糧難、疫病による犠牲者が生じたのは痛ましいことでした。ここパラオの地において、私どもは先の戦争で亡くなったすべての人々を追悼し、その遺族の歩んできた苦難の道をしのびたいと思います。

    また、私どもは、この機会に、この地域の人々が、厳しい戦禍を体験したにもかかわらず、戦後に慰霊碑や墓地の管理、清掃、遺骨の収集などに尽力されたことに対して心から謝意を表します。

    「日本人が決して忘れてはならないこと」

    今年1月、天皇陛下は太平洋戦争末期、日米両軍が激戦を繰り広げたフィリピンを訪問した。天皇陛下ご自身がフィリピンを訪問するのは、1962年に昭和天皇の名代としてフィリピンを訪問して以来、2度目だった。

    天皇陛下は日本を発つ際、日本国内ではあまり知られていないマニラ市街戦について言及、フィリピン訪問の意義を強調した。

    フィリピンでは、先の戦争において、フィリピン人、米国人、日本人の多くの命が失われました。中でもマニラの市街戦においては、膨大な数に及ぶ無辜のフィリピン市民が犠牲になりました。私どもはこのことを常に心に置き、この度の訪問を果たしていきたいと思っています。

    フィリピンの首都マニラで開かれた晩餐会で天皇陛下は、過去の大戦で多くの犠牲者が出た事実に関して、「日本人が決して忘れてはならないこと」と表現し、このようなお言葉を残した。

    昨年私どもは、先の大戦が終わって70年の年を迎えました。この戦争においては、貴国の国内において日米両国間の熾烈 (しれつ)な戦闘が行われ、このことにより貴国の多くの人が命を失い、傷つきました。このことは、私ども日本人が決して忘れてはならないことであり、この度の訪問においても、私どもはこのことを深く心に置き、旅の日々を過ごすつもりでいます。

    体力の衰えを感じながらも、激戦地への慰霊の旅を続けた陛下。各地でのお言葉には、日本人が忘れてはならない歴史と平和への強い思いが込められていた。